更新日: 2020.02.14 その他暮らし

8割の私大が実施する「AO入試」って? AO入試で進学する場合の問題点

執筆者 : 新美昌也

8割の私大が実施する「AO入試」って? AO入試で進学する場合の問題点
国公立大学では一般入試が主流ですが、私立大学ではAO入試・推薦入試が入学者の半数を占めています。
 
偏差値の高くない高校では、国公立大学への進学はほとんどなく、私立大学への入学は、AO入試・推薦入試が主流となっています。AO入試で進学する場合の問題点について解説します。
 
新美昌也

執筆者:新美昌也(にいみ まさや)

ファイナンシャル・プランナー。

ライフプラン・キャッシュフロー分析に基づいた家計相談を得意とする。法人営業をしていた経験から経営者からの相談が多い。教育資金、住宅購入、年金、資産運用、保険、離婚のお金などをテーマとしたセミナーや個別相談も多数実施している。教育資金をテーマにした講演は延べ800校以上の高校で実施。
また、保険や介護のお金に詳しいファイナンシャル・プランナーとしてテレビや新聞、雑誌の取材にも多数協力している。共著に「これで安心!入院・介護のお金」(技術評論社)がある。
http://fp-trc.com/

AO入試とは?

大学の入試方法には、大きく、AO入試、推薦入試、一般入試があります。
 
AO入試は、保護者の時代にはなかった入試制度です。1990年、慶應義塾大学の湘南藤沢キャンパス(総合政策学部と環境情報学部)が先駆けて導入しました。
 
AO入試は、試験結果で合否が決まる一般入試とは異なります。内申書、面接、小論文などによって、出願者の適性・個性・能力などを評価する入試制度です。
 
平成29年度の入学者の割合は、私立大学では、一般入試48.5%・推薦入試40.5%・AO入試10.7%。公立大学では、一般入試72.6%・推薦入試24.4%・AO入試2.4%。国立大学では、一般入試84.0%・推薦入試12.2%・AO入試3.3%となっています。
 
私立大学では、全体の8割、国立大学では4割がAO入試を実施しています。
 
推薦入試と異なり、学校長の推薦も不要です。国立大学や有名私大のAO入試は難関ですが、比較的簡単に入学できる大学もあります。
 

AO入試のスケジュール

AO入試の選考は大学ごとに異なるので、時期を特定することが難しいですが、推薦入試より早めに実施されるケースが多いといえます。
 
AO入試は、一般入試や推薦入試と異なり「エントリー」という手続きがあります。出願前、各大学の「エントリーシート」に志望理由や自己アピールを書いて提出します。出願前に面談などを通じて大学と受験生の相互理解を深め、ミスマッチを防ぐのが目的です。出願は8月1日以降が基本ですが、早ければ高校3年生から受け付ける場合もあります。
 
ちなみに、推薦入試の出願は10月以降、結果発表は11月下旬~12月中旬頃、一般入試の出願は12月中旬以降、試験は1月下旬~3月下旬、合格発表は2月上旬~3月下旬が目安です。
 

AO入試と推薦入試との違いは?

推薦入試は、大きく、「指定校推薦」と「公募制推薦」があります。
 
「指定校推薦」は、大学が指定する高校に限って出願できる推薦入試です。評定平均値などの推薦基準が先方から示され、推薦人数枠もあります。ほぼ合格できます。合格後の辞退は、原則、認められません。また、入学後の成績の追跡調査があります。
 
「指定校推薦」は学校内での選抜になります。日頃の勉強をしっかりすることと、欠席に気をつけましょう。自分が希望する大学・学部がない場合もありますので、どこの大学から指定が来ているか「進路のてびき」などであらかじめ調べておきましょう。入学できれば、どこの大学でも良いという生徒もいますが、感心しません。入学後、後悔することになります。
 
「公募推薦」は、大学が定めた出願条件を満たしていれば、どの高校からでも出願できます。「推薦」と名がついていますが、必ず合格するわけではありません。ただし、一般入試よりは合格可能性は高いといえます。試験内容は、かなり難しい口頭試問を課すところから、面接のみのところまで、学校ごとに大きく異なります。早めの対策が必要です。
 
その他、スポーツ推薦など得意分野の実績を評価する「特別推薦入試」もあります。一芸に秀でている方には有利です。
 
AO入試も推薦入試も基本的に「専願(単願)」ですので、結果が出るまでは他の大学は受験できません。合格した場合は、原則、辞退も認められません。安易に妥協して受験しないようにしましょう。AO入試で不合格になった場合は、推薦入試、一般入試を受験することは可能です。
 
AO入試と推薦入試の違いは学校長の推薦が必要かどうかです。AO入試には学校長の推薦は不要な学校が多く、推薦入試には基本的に必要です。
 
また、選考方法に関し、推薦入試は、評定平均値や出席日数など「過去の実績を評価する入試」であるのに対し、AO入試は「入学後の可能性を評価する入試」である点も異なります。
 

AO入試のメリット

学科試験は時間制限内に解答を導くテクニックが必要です。ゆっくり考えれば解答を導ける学力があっても、試験では評価されません。
 
また、暗記が苦手な生徒もいるでしょう。学力は決して低くないけれども、生徒会や部活動に力を入れてきたので受験勉強は苦手という生徒もいるでしょう。
 
AO入試はこのような生徒にとって活用したい入試です。つまり、AO入試はこれまで一般入試では目指せなかった大学への進学が可能になりました。一般入試の実力よりも、ワンランクアップの大学への進学が目指せます。
 
AO入試は、職業展望を明確に持っている、志望学部(学科)に関する強い興味や関心・学習意欲がある、入学後にゼミや授業でリーダーシップを発揮できるなど「意欲」のある生徒に適した入試方法といえます。
 

AO入試の問題点

学力以外の意欲や適性、人物を評価するという理念はとても素晴らしいのですが、実際は、別の目的で利用されているケースが多くみられます。一般入試では、学生が思うように集まらない大学が学生獲得の手段としてAO入試が利用されています。
偏差値の低い大学の中には、AO入試で入学した学生が全体の半分以上という大学もあります。
 
このような大学でのAO入試は基本的に学力を問いませんので、高校で基礎学力が身についていない生徒が多く入学してきます。そのため、入学後の授業についていけずに中退するケースが少なくありません。
 
このような弊害が顕著になってきたので、高校での科目の学び直しの授業を行う大学が増えています。
 
以前、週刊誌に某大学の学生が、アルファベットを習っているとか、中学生の参考書を使っているということで話題になったことがあります。
 
また、AO入試を利用する生徒は、安易に大学進学を考える傾向があり、大学・学部を問わないで受験する生徒が少なくありません。そのため、授業に興味が持てず、中退するケースもあります。
 

中退の問題点

大学生の約3人に1人が日本学生支援機構の奨学金を借りていますが、この奨学金を利用している学生が中退した場合、返還はどうなるのでしょう?
 
奨学金の返還は貸与終了後、つまり中退後7ヶ月目から始まります。1年目で中退すれば、奨学金の総額は多くないでしょうが、それでも中退すると正社員としての就職は厳しいでしょうから、借入総額が少なくても奨学金の返還が難しくなります。親が教育ローンを借りていたらドブに捨てるようなものです。
 
高卒程度の基礎学力も身についていなければ、就職先も限定されてしまいます。そうであれば、大学に進学などせず、高校で就職しておいた方が良かったかもしれません。
 

AO入試で進学する場合の注意点

大学で何を学びたいのか、将来どのような職業につきたいのか真剣に考え、希望する大学で、自分の希望に合ったことを学べるのかよく調べましょう。
 
それには、オープンキャンパスを利用するのが良いでしょう。オープンキャンパスでは、大学ではどういうことを学ぶのか、学部の内容や入試の内容、就職状況など詳しく知ることができます。
 
例えば、AO入試であれば大学が求める学生像、入試で課される課題、レポートの書き方、選考基準など詳しく教えてくれる大学もあります。
 
AO入試は、早ければ高校3年の秋には合格が決まります。入学するまでに半年以上ありますので、その間、遊ぶのではなく、高校で学んだことの総復習にあてましょう。
 

2021年度大学入学者から入試方法が大きく変わる

今の高校2年生(2019年4月)から大学の入試方法が大きく変わります。現行の「AO入試」、「推薦入試」、「一般入試」がそれぞれ、「総合型選抜」、「学校推薦型選抜」、「一般選抜」に名称が変更になります。
 
現行の入試方法の問題点として、一部のAO入試や推薦入試について、「知識・技能」や「思考力・判断力・表現力」を問わないものがあり、入学後の大学教育に円滑につなげられていないことが指摘されています。一般入試においては、出題科目が1~2科目に限定されていたり、記述式問題の出題を実施していなかったりするケースがあります。
 
また、AO入試や推薦入試では早期合格による学習意欲の低下も指摘されています。文部科学省の調べでは、AO入試について、8月出願・8月合格の大学が全体の5%、8月出願・9月合格の大学が12%、10月以前に合格発表を行う大学が全体の42%を占めています。
 
推薦入試については、出願月と同じ11月に合格発表を行う大学が全体の42%を占めています。
 
そこで、変更後、総合型選抜や学校推薦型選抜では、「知識・技能」、「思考力・判断力・表現力」を適正に評価するために、調査書等の出願書類だけではなく、各大学が実施する評価方法等(小論文、プレゼンテーション、口頭試問、実技、各教科・科目に係る試験、資格・検定試験の成績等)、もしくは、「大学入学共通テスト」の少なくともいずれかを活用することが必須化されます。
 
一般入試においては、「大学入学共通テスト」の積極的な活用、個別試験の出題科目の見直し・充実などや、筆記試験に加え、「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」をより積極的に評価するために、調査書や志願者本人が記載する資料等の積極的な活用がなされます。英語は「読む」「聞く」「話す」「書く」の4技能を総合的に評価するように努めるとされています。
 
出願・合格の時期に関しては、総合型選抜(現行、AO入試)の出願時期は9月以降、合格発表時期は11月以降になります。学校型推薦型選抜の出願時期は11月以降、合格発表は12月以降となります。
 
なお、大学入試センター試験も大学入学共通テストに名称が変わり、国語・数学への記述式の導入、英語は外部検定試験(英検など)を利用して4技能を審査するようになります。
 
このように、2021年度大学入学者から入試方法が大きく変わります。現行では、願書さえ出せば入学できる大学も存在しますが、変更後は難易度があがるでしょう。総合選抜型(現行、AO入試)、学校推薦型選抜を受ける方は、試験内容について早めに募集要項などで確認し、今以上に研究と対策を立てることが大切になります。
 
出典
文部科学省「平成29年度国公私立大学入学者選抜実施状況」
 
Text:新美 昌也(にいみ まさや)
ファイナンシャル・プランナー。

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