事業主必見! コロナ禍の今こそ見直しておきたい労務管理
配信日: 2020.08.02
すべてテレワークで労働者を働かせることができる職種であればいいですが、在宅勤務ができない職種も多いはずです。
今回は、コロナ禍の今、労働者を継続して働いてもらいたい上で、覚えておきたい雇用管理についておさらいしておきたいと思います。
執筆者:當舎緑(とうしゃ みどり)
社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。
阪神淡路大震災の経験から、法律やお金の大切さを実感し、開業後は、顧問先の会社の労働保険関係や社会保険関係の手続き、相談にのる傍ら、一般消費者向けのセミナーや執筆活動も精力的に行っている。著書は、「3級FP過去問題集」(金融ブックス)。「子どもにかけるお金の本」(主婦の友社)「もらい忘れ年金の受け取り方」(近代セールス社)など。女2人男1人の3児の母でもある。
家族がコロナに感染した労働者は働いてもらう?
新型コロナウイルスに感染しながら無症状などの若い世代が問題となり、感染源のわからない方も多数いるなど、他人ごとにできないケースも増えてきています。
そんな中、「家族がコロナに感染しましたが、会社に行ってもいいのでしょうか」という問い合わせが労働者側からあったときにはどうすればいいでしょう。
こんなとき、「来ないで有休を使って」などと安易に言ってしまうのはお勧めできません。原則として、有給取得は、労働者の請求する時季に自由に与えなければなりません。会社が一方的に取得させることができないのです。
たとえ、普段有休をほとんど取得しておらず、有給休暇が余っていたとしてもです。本人からの希望があれば有休取得は認めることは可能ですが、会社は、労働者が年次有給休暇を取得したことを理由として、賃金の減額その他不利益な取り扱いをしてはいけないことには注意してください。
もし、有休が残っていない場合の会社側の対応としては2つ考えられます。
1つ目は、「休業手当を支払うので、療養してください」と自宅待機を命じて、雇用調整助成金を申請すること。ただ、この場合には、休業手当を支払ったとしても、別途助成金の要件を満たすことが必要です。
2つ目は、就業規則に、このような場合に対応できる病気休暇などの特別休暇の規定を定めて、それにのっとって決められた療養を命じることです。
そもそも仕事をしていてコロナウイルスに感染したらどうなるの?
「仕事を休むわけにはいかない」こんな声もたくさんお聞きしています。医療従事者だけではなく、保育園やスーパーなど、生活する上での必須な職種では、感染のリスクを気にしながらも、休むということができないのは当然です。
こんな職種の方が、新型コロナウイルス感染症に感染した場合には、労災が請求できることがあります。
他の疾病と同様、個別の事案ごとに業務の実情を調査の上、業務との関連性(業務起因性)が認められる場合で、感染が業務によるものである場合については、労災保険給付の対象です。
ただ、感染経路が判明しない場合であっても、請求できないとあきらめないでください。
感染リスクが高いと考えられる次のような業務、例えば、複数の感染者が確認された労働環境下での業務や、顧客等との接触の機会が多い労働環境下で労働に従事していた場合は、潜伏期間内の業務従事状況や一般生活状況を調査し、個別に業務との関連性(業務起因性)が判断されます。
通常、労働者本人が感染した場合には、傷病手当を請求するでしょうが、それ以外の選択肢として覚えておきましょう。
自宅でテレワーク。これってどこまでが業務なの?
緊急事態宣言の後、就業規則に規定しないまま、緊急避難的にテレワークや在宅勤務をさせるようになった会社も多いかもしれません。その場合には、注意点がいくつかあります。
労働時間が1日8時間と決めていても、時間外手当を支払わなくていいわけではありません。明らかにオーバーワークになってしまっている場合には、一定の手当とするか、実際の残業時間を申告させるのかなどについて、時間外手当の算定方法を書面で決めておくべきでしょう。
また、通信費用や郵便代、紙代、インク代など、自宅で仕事をすると、細かい費用が発生します。この経費もどこまで認めるのか、毎月精算にするのか、切手など、会社がある程度支給しておくのか、など経費の詳細と請求方法についても決めておくべきです。
3つ目の労災については、今の段階で請求はあまり考えられませんが、今後発生する可能性はあります。
「自宅の階段で転んだ」「自宅の椅子が会社と異なり、あわなかったので腰痛になった」「業務と私生活のメリハリがなくなり、他の社員とのコミュニケーションも不足がちになったため、うつ状態になった」など、業務上であるなら、個別に判断し、労災保険の給付が請求できる場合があります。
すべてを労働者に説明することは不可能でしょうが、労働者の健康状態を申告させるような仕組み作りを考えることも必要でしょう。
6月や7月に賞与が毎年出ている企業でも、今年は支給を取りやめる、もしくは今回はとりあえず支給したものの、冬の賞与は支給しない、もしくは減額など、コロナ禍による労働者への影響はじわじわといろいろなところにおよび始めています。
そんな中、労働者を雇用して企業を継続する方法を考えていくのは大変です。疑問が湧いて労働局や年金事務所に電話をしても、求める回答を得られなかったり、異なる窓口に質問したりして結局わからなかったりすることも多いでしょう。
悩むことは多いかもしれませんが、専門家も、さまざま行政協力をしており、通常よりもたくさんの窓口が開設されています。ぜひご利用ください。
執筆者:當舎緑
社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。