更新日: 2022.11.24 その他暮らし

離婚しようと思った時、損をしないためにしておくべきこととは?

離婚しようと思った時、損をしないためにしておくべきこととは?
離婚した時の「年金分割制度」については別稿(※1)でお話ししましたが、離婚後にすぐ年金が入金されるわけではありません。離婚後も日常生活をしっかりと営んでいくためには、離婚前の準備も欠かせません。
 
離婚したい、と思った時に進めておくべき準備方法を今回はお話しします。
當舎緑

執筆者:當舎緑(とうしゃ みどり)

社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。

阪神淡路大震災の経験から、法律やお金の大切さを実感し、開業後は、顧問先の会社の労働保険関係や社会保険関係の手続き、相談にのる傍ら、一般消費者向けのセミナーや執筆活動も精力的に行っている。著書は、「3級FP過去問題集」(金融ブックス)。「子どもにかけるお金の本」(主婦の友社)「もらい忘れ年金の受け取り方」(近代セールス社)など。女2人男1人の3児の母でもある。
 

財産なんてなくてもできること

夫婦共働きが当たり前になりつつある若い世代では、財布が2つあることで弊害が起きることがよくあります。「夫は妻の収入を知らない」「妻は夫がどの銀行で貯金しているのか、そもそも保険も何に加入しているのかわからない」などということがあるからです。
 
結婚をした時には、「お金がない」ところが出発点かもしれませんが、その後、どの口座が給与収入なのか、貯蓄するための手段は何か、保険は何に備えているのか、などお互いの金融状況をしっかりと把握することはとても大事なことです。万が一、離婚という事態にならなくても、どこに何があるということがわかれば、家計の見直し、特に貯蓄手段や保険の見直しなどに役立ちます。
 
離婚時の財産分割は、原則として婚姻期間の財産を半分にしますが、どこからどこまでが「婚姻期間にできた財産」なのかがわからなければ、分割すらできないことになります。今、財産がなかったとしても、今後増えていくこともありますから、「どこに」「何が」あるということは把握しておきたいものです。
 

持ち家……住宅ローンがあると離婚の際に困ること

離婚後も、子どもの通学の関係で引っ越しをしたくないというような事情が発生することは、子育て中の夫婦の離婚ではよくあることです。こんなときにもっとも困るのは、夫が住宅ローンの返済義務があるものの、離婚後「住まない」と言っているケースです。
 
離婚時に住宅ローンの残債があっても、その返済を妻ができるかどうかは金融機関しだいといわれますが、通常、借り入れの時に夫の収入のみで「審査」されて住宅ローンを借り入れているのであれば、認められることはあまりありません。
 
また、住宅ローン返済中は名義変更もできません。夫婦で共有名義にしていた持ち家を、妻のみが住宅ローンを返済する意思があったとしても、離婚後も夫が住宅ローンの返済を継続してくれない場合には、いったん持ち家を売却し、現金化した財産を分割するほうが現実的といえます。
 
夫分の住宅ローンの返済を、実家の親や祖父母などに借りて返済できることもあるかもしれませんが、親と子、祖父母と孫など特殊の関係がある人同士の金銭の貸借は、贈与とみなされることがあります。無利子の借入金などのケースでは、その利子に相当する額の利益を享受したものとして、利益の相当額については、贈与として扱われることがあります。
 
また、実質的に贈与として扱われるケースであるにもかかわらず、形式上が貸借となっている場合、そして「出世払い」もしくは「ある時払いの催促なし」というような場合には、借入金そのものが贈与として取り扱われることもありますので、注意が必要です。
 

ハードルが高い公正証書でも作ってみるとこんなに役立つ

離婚の年金分割には、公正証書などによって分割割合を定めることが必要ですが、それ以外の養育費などの金銭授受についても、しっかりと公正証書を作成しておくべきです。お金のやり取りを口約束ですると、最初はよくてもそのうち未払いになってしまうなど、履行されないことが多々あるからです。
 
養育費については、兵庫県明石市(※2)のように、養育費を立て替えて、取り立てるという自治体もありますが、保証会社の保証料立て替え(参考:福岡県※3)や公正証書作成の費用の補助(参考:神奈川県※4)程度しか行っていない自治体しかないのが現状です。
 
公正証書を作成するために、公証役場に夫婦ともに行くというのは難しいということもあるでしょう。しかし、公正証書で養育費を取り決めすることで、もし養育費の支払いがなくなっても,支払わない人の財産(給料や預貯金など)を差し押さえて,その中から強制的に支払いを受ける制度(強制執行と言います)を利用できます。
 
一方が本人でなく代理人で対応してくれるケースもありますので、面倒でもぜひ公正証書を作成してください。
 
離婚の公正証書に入れる内容には、次のような事項があります。
 
その主な内容は、(1) 離婚の合意、(2) 親権者と監護権者(監護権者とは、子の監護養育をする者であり、親権と分離するかたちで他に監護者を定めない限り、親権者が当然監護養育すべきことになります)の定め、(3) 子どもの養育費、(4) 子どもとの面会交流、(5) 離婚慰謝料、(6) 離婚による財産分与、(7) 住所変更等の通知義務、(8) 清算条項、(9) 強制執行認諾の各条項のうち、当事者の要望や必要性に応じるかたちで、これらの項目の中から選択し条項化します。
 
この「強制執行認諾」の効果が高いことが、公正証書を作成する最大のメリットだといえます。
 
離婚時には決めることがたくさんありますから、嫌なことは一気に片づけてしまおうとする方もいますが、離婚の年金分割含め、将来のライフプランの影響を考えると、事前の準備はとても大切です。大切なことだからこそ、いったん落ち着いて準備を計画的に進めていきましょう。
 

出典

(※1)ファイナンシャルフィールド 離婚することに! 私の年金はどうなるの?
(※2)明石市 明石市が立て替えます 取決めをしたのに…受け取れていない養育費(2022年度)
(※3)福岡県 養育費の確保を支援します!(保証契約締結支援事業)
(※4)神奈川県 養育費確保支援について
 
執筆者:當舎緑
社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。

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