「アベノミクス」「バブル経済」と「自殺者数」の関係とは? 日本経済の動きと自殺者数の関係を解説

配信日: 2022.12.14

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「アベノミクス」「バブル経済」と「自殺者数」の関係とは? 日本経済の動きと自殺者数の関係を解説
警察庁は毎年、自殺の概況について発表しています。2021年の自殺者数は2万1007人となっており、男性は12年連続の減少、女性が2年連続の増加となっています。本記事では、毎年の自殺者数と景気動向を比較し、景気の影響によって自殺者数が減少する理由について解説します。
古田靖昭

執筆者:古田靖昭(ふるた やすあき)

二級ファイナンシャルプランニング技能士

景気に影響する自殺者数

自殺者数は、警察庁が公表している「令和3年中における自殺の状況」において算出されています。自殺者の数は1998年に、前年から一挙に増加して3万人を突破し、ピークは2003年の3万4427人、そして2012年になると3万人を下回るようになりました。
 
ただし、2020年に新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により、前年2万169人に対して2万1081人と大幅に増加しています。1978年から2021年までの自殺者数の年次推移は図表1のとおりです。
 
図表1
 

 
出典 警察庁 令和3年中における自殺の状況 より筆者作成
 
次に、日本のバブル経済時期とアベノミクス時期の経済状況によって、自殺者数がどのように変動していたかを見ていきましょう。なお経済状況は、名目GDPで比較しています。
 
GDPとは「Gross Domestic Product」の略称で、「国内総生産」を意味します。これは1年間などの一定期間内に国内で産出された付加価値の総額のことであり、国の経済活動状況を示すものです。また名目GDPは、物価変動を考慮に入れた指標となります。
 

日本のバブル経済時期の自殺者数

日本のバブル経済が始まったのは、80年代後半から90年頃です。1985年のプラザ合意以降に円高不況が発生したため、日本銀行が景気対策として低金利政策を行いました。金融機関や企業は日本銀行の低金利政策によって借入がしやすくなったことで、国内の不動産や株式に投資するようになり、日本のバブル経済が始まりました。
 
そして1990年になると、不動産や株式の過剰投資を抑制するために、大蔵省銀行局(当時)から「不動産融資総量規制」の通達が全国の金融機関に発せられ、また日本銀行も金融引き締めを行ったことで、バブルが崩壊しました。日本のバブル経済時期の自殺者数と名目GDPの推移は図表2のとおりです。
 
図表2
 

 
出典 警察庁 令和3年中における自殺の状況 、内閣府 2009年度国民経済計算(2000年基準・93SNA) より筆者作成
 
図表2を見ると、1986年から1991年までの期間は自殺者数が右肩下がりであり、反比例して名目GDPが上昇しています。しかしバブルが崩壊して以降、徐々に自殺者数が増えていき、1998年になって一挙に増加しました。名目GDPは、1997年から徐々に下がったり上がったりをくり返す停滞状況となっています。
 

アベノミクス時期の自殺者数

第2次安倍内閣は2012年12月に成立し、経済政策として「アベノミクス」を掲げました。アベノミクスとは、デフレーションから脱却し持続的な経済成長を実現するための政策です。
 
デフレーションは物価が持続的に下落する現象であるため、企業など生産する側にとっては物の値段を下げなければ売れない状態となります。これにより企業収益が減少すると、従業員の給与なども下げざるを得ません。
 
給与が上がらないまたは下がることで、将来への不安から個人消費が低迷してしまい、デフレスパイラルに陥ります。将来への不安で悲観的になっている状態を「デフレマインド」といい、これを払拭するために日本銀行ではインフレターゲット2%を定めて金融緩和を行っています。アベノミクス時期の自殺者数と名目GDPの推移は図表3のとおりです。
 
図表3
 

 
出典 警察庁 令和3年中における自殺の状況 、内閣府 2020年度国民経済計算(2015年基準・2008SNA) より筆者作成
 
図表3を見ると、2009年から2019年までの期間は自殺者数が右肩下がりとなり、反比例して名目GDPが2011年以降上昇しています。アベノミクスの期間は2013年以降になるため、大きく名目GDPが上昇し、自殺者数が減っていることが分かります。しかし2020年になると、新型コロナウイルス感染症の影響によって自殺者数が増え、名目GDPも大きく落ち込むことになりました。
 

自殺者数の増減は少なからず景気に影響する

ここまで、日本のバブル経済時期とアベノミクス時期の経済状況および自殺者数を見てきました。警察庁「令和3年中における自殺の状況」において、自殺の原因と動機が公表されています。内容は図表4のとおりです。
 
図表4
 

 
出典 警察庁 令和3年中における自殺の状況 より筆者作成
 
自殺の原因と動機は、「経済・生活問題」が13%となっており、3番目に多くなっています。一番多い37%は「健康問題」です。自殺の原因と動機を見れば、経済的な理由が多いとはいえません。しかし自殺者数と名目GDPによる推移によって、少なからず景気に影響した動きになっていることは図表2と図表3に示したとおりとなるため、確度は高いといえるでしょう。
 
もし日本の経済が失速し、またデフレ経済に戻ることになれば1990年代半ばから2010年代の自殺者数に戻ってしまう可能性もあります。そうならないためには、日本銀行の金融政策や政府の経済政策について注意深く見ていく必要があるでしょう。
 

出典

警察庁 令和3年中における自殺の状況

内閣府 2009年度国民経済計算(2000年基準・93SNA)

内閣府 2020年度国民経済計算(2015年基準・2008SNA)

 
執筆者:古田靖昭
二級ファイナンシャルプランニング技能士

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