人気の「住みたい街」は「住みよい街」なのか

配信日: 2018.06.16 更新日: 2019.01.10

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人気の「住みたい街」は「住みよい街」なのか
若い人に「住みたい街はどこですか?」というアンケートをとると、必ず上位にランクされる街があります。
 
首都圏では、ここ数年の傾向は変わらず吉祥寺、恵比寿、横浜が上位にランクされます。
 
関西圏では、阪急神戸線沿線に人気があります。果たしてここへ登場する街は、住みよい街といえるのでしょうか。
 
黒木達也

Text:黒木達也(くろき たつや)

経済ジャーナリスト

大手新聞社出版局勤務を経て現職。

イメージ先行で人気が上がる

住宅情報誌などで、上位にランクされる首都圏の「住みたい街」の特徴は、お洒落感覚に溢れている、ショッピングが楽しめる、交通の便がよい、自然環境に比較的恵まれている、といった特徴があります。
 
よく登場する、恵比寿、吉祥寺、横浜は、お洒落な街であり、ショッピングタウンでもあり、都心へのアクセスがいい、公園などの自然環境にも恵まれています。
 
首都圏では、品川、池袋、武藏小杉、二子玉川なども人気があります。関西圏では、都心部の梅田を除くと、西宮北口、夙川、岡本、六甲など阪急神戸線沿いが上位を占め、そのあとに、千里中央、江坂といった御堂筋線が乗り入れている街が続きます。
 
首都圏でいえば、恵比寿の隣りの目黒、吉祥寺の隣りの三鷹は、都心へのアクセスではまったく見劣りしませんが、恵比寿、吉祥寺に比べると、人気はありません。
 
お洒落な街の中には入らないことや、ショッピングで魅力がないことが影響しているかもしれません。
 
東京23区で住みたいと人気のある区となると、港区、世田谷区、千代田区、目黒区、文京区が並びます。意外なことに、渋谷区や新宿区はそのあとになります。
 

人気の街は家賃が高く食料品も高い

実際に人気の街となると、住みたい願望はとは別に、実際に住めるだろうかという不安も生まれます。人気があればあるほど、マンション価格、住宅地価格、アパートの家賃など、どれを見てもほかの街に比べ住居費は安くはありません。
 
さらに日常生活に直結する、生鮮食料品や日常生活品の価格も高額です。
 
イメージだけで住みたいと思っても、実際はそう簡単ではありません。人気のある街ではなく、住みやすい街を探すことを検討したいものです。
 
専門職や若手経営者で収入が多い人は、人気の街が気に入ればとりあえずマンションなどを借り、将来的にマンションや戸建て住宅を購入するという選択も可能です。
 
なかにはタワーマンションを購入している人もいます。しかし収入が少ない人の場合、住居費の比重が高くなり、ほかの経費を切り詰める必要が出てきます。
 
そうであれば、「住みたい街」ではなく「住みにくい街」になってしまいます。
 
ここ数年、都心と郊外とを結ぶ鉄道が整備され、郊外でも以前と比較すると通勤時間は短縮されており、魅力ある街づくりも進んでいます。
 
長期の定住を考えるなら、生活のしやすさと同時に、将来人口が増えそう、新しい社会インフラの整備が進みそう、といった視点も大切になります。
 

かつての高級住宅地は変貌している

東京の田園調布や成城は、大企業経営者、スーパースターなどが好んで住んだ日本を代表する高級住宅地です。しかし最近では、どちらも「住みたい街」のランキング上位には登場しません。
 
閑静な街並みを維持するために、土地の分割や集合住宅建設を制限、緑地の確保などに取り組み、良好な環境維持には大きな努力を払ってきました。
 
とくに駅に近い田園調布の3丁目、成城の6丁目などは、その典型といえます。自主的な街づくり憲章なども制定していました。
 
ブランドイメージを保つことには成功したものの、若い世代の流入人口が少なかったために、街全体の高齢化が大きく進み、年齢サイクルがうまく回転せずに、活力が失われつつあります。
 
さらに、最近では自主規制も緩み始め、相続に伴う土地の細分化、ワンルームマンションの建設などが進み、これまでの環境が変質しつつあります。 
 
最近では、田園調布、成城は不人気で、二子玉川や武藏小杉の人気が高まっています。タワーマンションなども続々建設され、比較的若い世代の人口流入が急速に進んでいます。
 
街としては活性化されていますが、一方で、保育園や小学校などのインフラ整備が追い付かないという問題点も出てきています。
 
どこに住むかの選択は、人気だけにとらわれることなく、何を重視してそこに住むのかをはっきりと決めて行動すべきです。
 

何を重視するかで住まいを決める

お洒落な街に住みたい、というイメージを重視しすぎると、結果として「住まなきゃよかった」という結論になりかねません。
 
都心への通勤アクセスを重視するのか、食料品など物価が安いことを重視するのか、子育てなど自然環境のよさを重視するのか、など何を最も重視するのかで住むエリアも変わってきます。
 
会社勤めで通勤を重視すれば、通勤時間が短い、始発駅なので朝の通勤が楽、という基準で選ぶことができます。食料品、日用品など物価が安いことを重視するのであれば、住む地域も決まってきます。
 
多くの場合「住みたい街ランキング」とは無縁の街となると思います。
 
自然環境を重視するのであれば、安い住居費で済むためには、郊外に住むという選択になります。少なくとも、その街が衰退ではなく活性化が進む、という条件を加味することをお勧めします。
 
注意すべき点は、同じ沿線で1駅違いでも、まったく条件が異なってしまうこともあることです。
 
郊外のニュータウンは、最近では極めて安く住むことができます。しかし、人口が減少している、高齢化が著しい、撤退するコンビニ、スーパーが多い、という街に住むことは避けるべきでしょう。
 
日本全体としても人口減少と高齢化が課題となっているのですから、その縮図となる地域を敢えて選択する必要はないからです。
 
最近では、首都圏では、北千住、和光市、赤羽など、関西圏では、阪神電鉄の走っている海沿いの地域が注目されています。
 
通勤に便利で物価も安いことを重視する人には、条件を満たしていると好感されているのかもしれません。
 
Text:黒木 達也(くろき たつや)
経済ジャーナリスト。大手新聞社出版局勤務を経て現職

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