民主主義国家の中で、一番選挙に出馬するのが難しい国はどこでしょう?
配信日: 2018.10.13 更新日: 2020.05.25
候補者が多く出た場合、大手メディアの選挙報道は主要候補に大きな時間を割くため、勝つ見込みがないと思われる候補者たちの存在はあまり知られにくいですね。
では、なぜ、この候補者たちは、勝つ見込みがない選挙にわざわざ出馬するのでしょう?自分の名前を売りたいからでしょうか?
選挙に出るためにはどんなハードルを乗り越えなければならないか?
選挙に出馬することができる権利を「被選挙権」といいます。民主主義の根幹ともいえる権利です。これは日本国憲法で、一定の年齢を超えた国民全員に保障されています。
しかし、実際にこの権利を行使する人はものすごく少ないですね。選挙に出るのなら、会社を辞めなくてはならない場合が多いですし、政治家というのは数年ごとに選挙がありますから、収入も安定しません。
そして、何といっても、選挙をするにはお金がかかります。ポスターやチラシを作ったり、事務所を開設したり、街宣車を手配したり、ウグイス嬢を雇ったりしなければなりません。
最近はフリーで働く人が増えてきましたし、ネットでの選挙運動ができるようになりました。そのため、以前よりも選挙に出ることは簡単になっているのかもしれません。
しかし、日本では、選挙に出る人全員が越えなければならない高いハードルがあります。これこそが、選挙に出る人を少なくさせている最大の要因だと言う専門家もいます。それは、「供託金制度」というものです。
日本は他の国に比べ選挙に出るのがとても難しい国
「供託金」というのは、選挙に出るにあたり、候補者が納付しなければいけないお金のことです。もし、選挙で総得票数の1割を取れなかったら、全額が没収されてしまいます。
額は選挙によって異なりますが、国政選挙では300~600万円、都道府県知事選挙は300万円かかります。
これだけの供託金を納付しなければいけないのは、世界でも珍しいです。
各国の政府機関のホームページを見ても、フランス、ドイツ、イタリア、アメリカなどは、そもそも供託金制度自体がありません。イギリスやカナダなど、制度がある国でも、10万円以下です。
まとめ
そういうわけで、選挙に出ている方が「売名行為」で選挙に出ている可能性は低いということがわかっていただけましたでしょうか?
大手メディアにはほとんど取りあげてもらえないわけですから、300万円で名前を売りたいのであれば、もっと別な方法がありそうです。売名行為ではなく、それだけのお金をかけてでも何かしら社会に訴えたいものがあるのだと解釈するほうが自然でしょう。
供託金制度の必要性については、活発な議論が交わされています。売名行為防止を理由に掲げる政府に対し、被選挙権の侵害だという専門家もいます。
総務省の統計によると、国政選挙の投票率は1970~80年代は7割前後で推移していましたが、最近は5割程度です。つまり、半数近くの有権者が選挙権を放棄しているのです。そして、NHKの放送文化研究所の「日本人の意識」調査によれば、支持政党がない人の割合は1973年の31.6パーセントから、2013年には47パーセントに増えました。
これだけ、政治離れ、政党離れが進んでいるのに、大きな政党からの支持がないと選挙に出るのさえ難しくさせている「供託金制度」については、今後見直しを迫られる議論が増えていくかもしれません。
出典
総務省「国政選挙における年代別投票率について」
NHK放送文化研究所の「日本人の意識」調査(2013)
Text:黒岩 揺光(くろいわようこう)
フリーライター