【やっぱりお金が気になる】離婚をしたいけれど養育費が心配です
配信日: 2020.03.31
田中沙織(仮名)、46歳。性格の不一致で夫と別れたいと思っています。夫婦共働きです。私も年収400万円はありますが、子ども2人を養っていくのはちょっとキツイというのが本音です。
子どもは、長男が高校1年生、次男が中学1年生です。これからまだお金はかかります。養育費についてどのように話をしたら良いのでしょうか。
執筆者:寺門美和子(てらかど みわこ)
ファイナンシャルプランナー、相続診断士
公的保険アドバイザー/確定拠出年金相談ねっと認定FP
岡野あつこ師事®上級プロ夫婦問題カウンセラー
大手流通業界系のファッションビジネスを12年経験。ビジネスの面白さを体感するが、結婚を機に退職。その後夫の仕事(整体)で、主にマネージメント・経営等、裏方を担当。マスコミでも話題となり、忙しい日々過ごす。しかし、20年後に離婚。長い間従事した「からだ系ビジネス」では資格を有しておらず『資格の大切さ』を実感し『人生のやり直し』を決意。自らの経験を活かした夫婦問題カウンセラーの資格を目指す中「離婚後の女性が自立する難しさ」を目のあたりにする。また自らの財産分与の運用の未熟さの反省もあり研究する中に、FPの仕事と出会う。『からだと心とお金』の幸せは三つ巴。からだと心の癒しや健康法は巷に情報が充実し身近なのに、なぜお金や資産の事はこんなに解りづらいのだろう?特に女性には敷居が高い現実。「もっとやさしく、わかりやすくお金や資産の提案がしたい」という想いから、FPの資格を取得。第二の成人式、40歳を迎えたことを機に女性が資産運用について学び直す提案業務を行っている。
※確定拠出年金相談ねっと https://wiselife.biz/fp/mterakado/
女性のための電話相談『ボイスマルシェ』 https://www.voicemarche.jp/advisers/781
夫婦のお財布事情
離婚時に子どもがいる場合、大きな問題となるのが「養育費」。お金の問題は非常にシビアで、ここが原因で離婚手続きが難航する場合もあります。最近は、共働き世帯が増加し、夫婦の収入はWインカムが増えてきました。
男女共同参画局の調べによると、平成に入った頃から共働き世代が50%前後で10年余り推移していました。その後平成13年頃より、共働き世帯は右肩上がりで増加、専業主婦(主夫)がいる家庭は右肩下がりとなり、平成30年には65%が共働きとなりました。
また、第一子出産後に女性が就業を継続するケースは、平成21年頃までは40%前後で推移していました。しかし、平成22年以降53%の人が職場復帰、それも育休を上手に利用している人が増加しています。
また、育児休暇の利用率の高さは、社会の認知と理解が深まったからだと思われます。そのため、世帯の年収も増加傾向に。厚生労働省の『平成29年 国民生活基礎調査の概況』によると、「児童のいる世帯」の平成28年度(2016年)の平均収入は739.8万円です。
全世帯の平均年収560.2万円、中央値442万円からすると多いように思えますが、子どもに必要なお金は大きいといえるのではないでしょうか。
つまり、離婚時に子どもを引き取るケースが多い母親の不安は大きく、もめ事にもつながるのです。ご相談者、田中家の世帯収入は夫600万円、妻400万円、合計1000万円で、平均収入を大きく上回っています。
沙織さんのお話を伺うと「お互い仕事が忙しく、私の家事負担の多さをわかってくれないことからけんかが絶えなくなった」とのことでした。
子育て教育費の目安
夫婦仲が円満な時、協力関係にあるうちは、Wインカムは収入が増えて家庭が豊かになり幸せだと思います。しかし亀裂が入ると、お互い歩み寄ることは厳しいことが多いのです。忙しさも手伝い、もめ事はより複雑に。
特に、30代・40代は職場でも中間管理職の気苦労や、派遣での気遣いが多い世代ではないでしょうか。
しかし、子どもにお金のかかるこの世代。また、仕事はお金だけでなく「やりがい」も大きなポイント。夫婦仲が悪くなりました、はい妻は仕事を辞めます……とはいかないでしょう。この世代の子育てに必要なコストは、いったいどの程度なのでしょうか?
上記の図表は、2018年度の平均的な目安です。教育費の無償化も始まり、負担は減額されると思いますが「すべて無料」になるわけではありません。大学の「高等教育の無償化」も始まりますが、やはり同様、すべての人が対象になるわけではありません。
ご相談者の沙織さんとお話をしていると「個別要件」に大きな差があります。最近はスポーツやダンスなどを習わせているケースが多く、その費用負担も大きくなると思います。細かいお金ですが、チリも積もれば山となりますから、離婚をする前に「学校以外のお金」がどれだけ必要かも見極めていただきたいです。
沙織さんのお子さんの場合は以下のとおりでした。
■長男(高校1年生)
・ゲームが大好き。将来はゲーム会社に就職したいので理系の大学に進学希望
・海外マーケットにも注目しており、得意な英語のスキルアップを希望
<長男の高校3年間学費以外と大学の費用>
~高校~
進学塾:年間約40万円
英会話塾:年間約12万円
※入試費用も別途かかります。夏季・冬季費用は別
~大学~
大学4年間(コンピューター学科 or メディア学科希望):約570万円
■次男(中学1年生)
・サッカー部に入部希望。高校もサッカー部に入学したい
・スポーツ大好き、勉強は苦手なので、高校はサッカー強豪校へ入学希望
・少年サッカークラブに加入中
・英語は興味あり。兄と英会話に通う
<次男の中学・高校6年間学費以外の費用大学の費用>
~中学~
サッカー部活費用(ユニファームや備品など):年間約10万円
サッカークラブ費用:年間約35万円
英会話塾:年間約12万円
~高校~
サッカー部費用:3年間で約70万円
英会話塾:年間約12万円
進学塾:年間約25万円
※入試費用も別途かかります。夏季・冬季費用は別
~大学~
大学4年間(文学部):約423万円
寮費:年間約80万円
長男の高校の学費外と大学の費用は、概算合計で約855万円。次男の中学・高校の学費外費用と大学の費用は、概算で約855万円です。上記の費用を出した際の沙織さんは、「私1人ではとてもまかなえない。夫からはいったいいくら養育費をもらえるのでしょうか」という質問をいただきました。
養育費の算定表より算出
養育費は一般的に、裁判所が算定している「養育費・婚費算定表」(※)より算出されます。令和元年12月、算定表が見直されました。
この算定表は、子どもの年齢・数・夫婦の年収により変わってきます。算定表を加味すると、沙織さんが受け取れる可能性がある養育費は月に8万円~10万円でした。
沙織さんは「そんな金額で離婚はできない。母子家庭の手当はないのですか?」と。やはり、養育費だけでは不安なようです。
母子家庭の手当
母子家庭の手当は大きく分けると以下の2つです。
1.国から給付される「児童扶養手当」
・所得要件が低く、子どもが2人いる場合は125万円(収入215.7万円)
・養育費の80%が加算されます
・支給額は所得により「全部支給」と「一部支給」がある。最大子ども2人で5万3050円
※残念ながら、沙織さんは受給できません。
2.各自治体から支給される「児童育成手当て」
・所得要件は「1」より緩く、東京都北区在住の沙織さんは、所得制限が444万円ですから受給は可能です。また、養育費も加味されません。
・子ども1人につき1万3500円
上記の他に、各自治体が手当てを支給しています。また、全員の子どもに支給される「児童手当」は引き続き受給できます。
上記を加味すると、もし2020年に離婚をした場合の手当は、
・児童育成手当:1万3500円×2人=2万7000円
・児童手当:1万円×1人(次男)=1万円
上記合計で3万7000円
仮に養育費を10万円受け取れた場合、手当と合算して13.7万円です。それに対して、学費以外で必要な教育費などは月に9万円強必要です。「子どもの夢をかなえることを選択するか、離婚をするか悩みます」という答えでした。現実は厳しいです。
ただし、養育費は公立が前提となりますので、私立や部活などの個別要件は別途話し合いができる可能性があります。しかし、その話し合いがネックとなっているご夫婦がほとんどです。
冷静に考える時間を作る
共働き夫婦が増えたいま、ちょうど沙織さんくらいの年収の女性は「児童扶養手当」が支給されない年収なので、離婚後非常に家計が厳しい方が多いのが現実です。筆者は「ライフプランイング」の作成をオススメしました。
「離婚した場合の家計」を前提に作成をしたところ、残念ながらかなり厳しい状況となりました。一方、離婚をしないケースにおいては、家計は安泰に。
ご主人に養育費の交渉をしましたが、ご主人から思わぬ提案が。「今離婚しても、お互いが金銭的に苦しむだけだと思う」とのこと。これを機に夫婦カウンセリングを実施しました。
子どもの夢を奪いたくないのは、夫婦共通の思いでした。ですから、離婚は先送りに。また話し合いにより下記の取り決めをし、夫婦関係の改善も図ろうということなったのです。
●お互いに休息をする日を作る
●夫も家事を負担する
●急に夫婦仲を修復するのは難しいかもしれない。少しずつ理解し合い、それでも難しいようなら離婚も視野に入れる。ただし、離婚する場合は計画的に行う
沙織さんのゴール
以下はご相談後の沙織さんの言葉です。
夫が家事をしてくれず、イライラする毎日でした。仕事場でも上司とうまく行かず、家庭にも安らぎがなく、夫に文句を言われるのが嫌で嫌でたまりませんでした。今の自分は離婚すらできなのかと嘆きたくなりましたが、「お子さんたちには十分なサポートができている、素晴らしいことですよ」とFP(筆者)に言われてうれしかったです。
しかし、「子どもたちの夢をかなえるためのレールを敷いてあげられたのは、夫婦が力を合わせたからです。お互いに感謝が必要。次男が大学卒業するまではサポートを続けてあげるのが、家族という“チーム”の役目なのではないですか」と言われて納得できました。
思い出せば、私たち夫婦はサッカーが縁で出会いました。だから子どもにもサッカーを始めさせたのに、夫婦が不仲になってしまっては本末転倒ですよね。
夫婦仲を改善できるかどうかはわかりませんが、もうしばらく離婚せずに頑張れそうです。また、夫婦それぞれの年収をアップさせるために、夫と協力してお互いの時間を作り、もっと勉強をしていこうと話しています。離婚できるくらい稼げるように(笑)。
離婚をするために、夫婦で年収アップを図るのは面白い取り組みです。人生100年時代、さまざまな人生模様がありますね。
(※)裁判所「婚費・養育費算定表」
執筆者:寺門美和子
ファイナンシャルプランナー、相続診断士