「飲みすぎは、よくない!」のは当然。でも、アルコール度数9%は危険なの?
配信日: 2020.06.17
執筆者:上野慎一(うえのしんいち)
AFP認定者,宅地建物取引士
不動産コンサルティングマスター,再開発プランナー
横浜市出身。1981年早稲田大学政治経済学部卒業後、大手不動産会社に勤務。2015年早期退職。自身の経験をベースにしながら、資産運用・リタイアメント・セカンドライフなどのテーマに取り組んでいます。「人生は片道きっぷの旅のようなもの」をモットーに、折々に出掛けるお城巡りや居酒屋巡りの旅が楽しみです。
家飲みの機会が増えると……
酒税や消費税などが負担増となるたびに、「ビールから発泡酒や第三のビールに変えた」といった話をよく耳にしました。
増税時もそうですが、家飲みの機会が増えてもやはり、お酒のコストが今まで以上に気になります。同じようなジャンルでより安価なお酒にシフトするのは、家計防衛のためにも当然の流れなのでしょう。
そして、シフトする先が「缶チューハイ」のケースも少なくないかもしれません。その特徴は、ビール系と同じような“泡立つのど越し感”を楽しめて安価で高アルコールな点。
価格面では350ミリリットル缶で150円(税込)以内の商品はすぐに見つかり、アルコール度数がビール系より高めの6%~9%もかなりあります。
第三のビール(新ジャンル)や缶チューハイ系は、酒税の税率で現在は同じグループで低い負担です。
第三のビールは今年10月から、缶チューハイ系も2026年10月から負担増となりますが、ビール系に比べて缶チューハイ系の負担水準が低い状況は【図表1】のように変わりません(※)。
「ストロング系」は危険?
こうした缶チューハイの中で、アルコール度数9%といった高めのものは「ストロング系チューハイ」と呼ばれています。
アルコール度数はビール系の2倍くらいなのに、価格は半額から2/3程度の水準。アルコール度数1%当たりで見ると、3倍から4倍ものコストパフォーマンスがある商品です。
ところで、このストロング系チューハイについて弊害が指摘されています。きっかけは昨年末にアルコール依存症関連の専門家がSNSに投稿した提言で、次のような骨子でした。
・「危険ドラック」として規制を考えるべき。
・自身の臨床経験で、500ミリリットル缶を3本飲むと自分を失って暴れる人が少なくない。
・ジュースのような飲みやすさで、ふだん飲まない人などもグイグイ飲んでしまいかねない。しかし、アルコール濃度はビールの倍近い。
・酒税はアルコール度数に応じて増えるべきなのにそうなっておらず、「税収ありき」の国の二転三転する方針のもとで、メーカーがこうした商品の生産に傾斜している。
こんな動きも見られます
こうした提言に対しては、賛否両論いろいろな意見が寄せられたようです。そして、これを契機に沖縄のオリオンビールがストロング系チューハイ商品を生産終了にしたという報道を目にしました(今年4月23日 琉球新報など)。
日本の5大ビールメーカーの一角である同社が発売する商品ブランドのうちアルコール度数9%のものが対象で、今年1月までに生産終了していて、在庫分で販売終了となるそうです。
なお、同社のホームページを見るとニュースリリースにこの生産終了は登場せず、対象商品もまだ掲載されていました(今年5月8日時点の閲覧結果)。
同じブランドでもっと低アルコール商品の生産販売は続きますが、昨年5月に同社初の缶チューハイとして発売されたばかりのラインアップの一角が1年足らずで撤収方向となった状況は、かなり驚きです。
これは、【銀行が石炭火力発電関連への新規融資を停止する】といった流れに代表されるような、「CSR」(企業の社会的責任)あるいは「SDGs」(持続可能な開発目標)の一環と推察されます。
まとめ
今のところほかのメーカーに追随の動きがあるとは耳にしていませんが、そもそも「アルコール度数9%って、そこまで危険なの?」という意見もあるでしょう。
ほかのお酒でも(幅はありますが)、ワインや日本酒で2倍弱、焼酎3倍前後、そしてウイスキーならば5倍くらいなど、もっとアルコール度数の高いものはざっと見てもたくさんあります。
その中で、ストロング系チューハイは低価格で比較的高アルコールに加えて、先ほどの指摘にもあった[ジュースのような飲みやすさでグイグイいけてしまう]点も特徴です。
これらが複合して“依存症”のような問題まで引き起こすとなると、個人の意識やモラルに任せるだけでは済まない局面も否定できないかもしれません。晩酌のような日常のささやかな楽しみの領域でも健康の問題まで絡んでくると、いろいろと考えさせられることを実感いたします。
[出典](※)ビール酒造組合ほか「ビール・発泡酒・新ジャンル商品の酒税に関する要望書」(2019年8月)
執筆者:上野慎一
AFP認定者,宅地建物取引士