更新日: 2020.09.21 子育て
不妊治療の治療費。親に援助してもらうことは可能でしょうか?
治療費の経済的負担を軽減する方法の1つに「直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税措置」があります。制度の概要、手続き方法などを解説します。
執筆者:新美昌也(にいみ まさや)
ファイナンシャル・プランナー。
ライフプラン・キャッシュフロー分析に基づいた家計相談を得意とする。法人営業をしていた経験から経営者からの相談が多い。教育資金、住宅購入、年金、資産運用、保険、離婚のお金などをテーマとしたセミナーや個別相談も多数実施している。教育資金をテーマにした講演は延べ800校以上の高校で実施。
また、保険や介護のお金に詳しいファイナンシャル・プランナーとしてテレビや新聞、雑誌の取材にも多数協力している。共著に「これで安心!入院・介護のお金」(技術評論社)がある。
http://fp-trc.com/
不妊治療の方法
不妊治療の方法には、(1)タイミング法、(2)排卵誘発法、(3)人工授精、(4)体外受精・顕微授精などがあります。代表的な治療方法は以下の通りです。
(1)タイミング法
排卵日を診断して性交のタイミングを合わせる方法
(2)排卵誘発法
内服薬や注射で卵巣を刺激して排卵をおこさせる方法
(3)人工授精
精液を多くは調整して子宮に注入する方法
(4)体外受精・顕微授精
卵子と精子を取り出して体の外で受精させてから子宮内に戻す方法
不妊治療費に対する保険適用と保険適用外
以下の不妊治療費は保険適用です。
■女性不妊に対する治療としては、以下の通りです。
(1)タイミング指導、黄体ホルモン補充療法など
(2)無排卵や多嚢胞性(たのうほうせい)卵巣などの排卵障害に対する薬物療法(内服、注射)
(3)子宮・卵管等に原因が考えられる場合に行う子宮鏡、腹腔鏡(ふくくうきょう)による精査・加療
(4)卵管通過障害に対する通気・通水法
(5)卵管形成術
■男性不妊に対する治療には、以下の2つがあります。
(1)薬物療法(漢方等)
(2)手術療法(精索静脈瘤、閉塞性無精子症等)
■一方、以下の不妊治療費は保険適用外です。
(1)人工授精
配偶者間人工授精(AIH)や非配偶者間人工授精(AID)
(2)生殖補助医療(ART)
体外受精(IVF)・胚移植や顕微授精(ICSI)・胚移植
(3)男性に対する治療
顕微鏡下精巣内精子回収法(MD-TESE)
体外受精、顕微授精を行う場合、特に女性は頻繁な通院が必要となり、治療費も高額になりがちです。保険適用外の生殖補助医療費や顕微鏡下精巣内精子回収法は、「特定不妊治療支援事業」の対象として経済的な支援を受けることができます。
不妊治療費に関する保険適用の拡充
体外受精や顕微授精などは、保険適用外(全額自己負担)で、1回の治療費は数十万円かかります。高額な医療費は、子供を望みながら妊娠できない夫婦の重荷となっています。
令和2年6月25日全世代型社会保障検討会議第2次中間報告(案)では、「不妊治療の経済的負担の軽減を図るため、高額の医療費がかかる不妊治療(体外受精、顕微授精)に要する費用に対する助成を行うとともに、適応症と効果が明らかな治療には広く医療保険の適用を検討し、支援を拡充する」と明記されました。
不妊治療の治療費の目安
不妊の際に最初に試されるタイミング法は保険適用で1回数千円程度です。また、保険適用の治療であれば、治療費が高額な場合でも、同一月(1日から月末まで)にかかった医療費の自己負担額が一定の金額(自己負担限度額)を超えた分を、あとで払い戻される高額療養費制度があるので、負担が軽減されます。
しかし、保険適用外の治療を受けた場合には、全額自己負担です。医療機関によって治療費は異なりますが、人工授精が1回1万~3万円、体外受精・顕微授精などの生殖補助医療が1回20万~70万円程度かかります。
治療が長引くと経済的に厳しくなり、治療の継続が難しくなります。不妊治療を支援する各種制度がありますので活用しましょう。
特定不妊治療助成制度とは?
医療保険が適用されず高額の医療費がかかる、不妊治療の経済的負担を軽減するため、特定不妊治療(体外受精・顕微授精)を受けられた夫婦に対し、治療費の一部が助成される特定不妊治療助成制度があります。なお、妻の年齢が43歳以上で開始した治療は助成の対象外です。
助成の概要は以下の通りです。
■所得制限
前年(1~5月に申請する場合は前々年)の所得の合計額が、夫婦合算で730万円以上の方は、助成の対象になりません。
■助成の回数
初めて助成を受ける治療開始日の妻の年齢が39歳以下の方は通算6回まで、初めて助成を受ける治療開始日の妻の年齢が40歳以上42歳以下の方は通算3回まで助成を受けられます。
■助成額
令和2年度(令和2年4月1日~令和3年3月31日)に終了した特定不妊治療(体外受精・顕微授精)の医療保険が適用されない治療費について、1回の治療につき15万円(初回の治療に限り30万円)または7万5000円を上限に助成を受けられます。
また、特定不妊治療(体外受精・顕微授精)に至る過程の一環として、男性不妊治療(精子を精巣または精巣上体から採取するための手術)を行った場合は、15万円(平成31年4月1日以降に治療を開始した初回の治療に限り30万円)を上限に助成を受けられます。
結婚・子育て資金の一括贈与
「直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税制度」とは、平成27年4月1日から令和3年3月31日までの間に、結婚・子育て資金のための金銭等を父母や祖父母(贈与者)から20歳以上50歳未満の子・孫(受贈者)に贈与した際に、最大1000万円(結婚関係で支払われるものについては300万円が限度)まで非課税にできる制度です。
なお、贈与契約日の属する年の前年の受贈者の合計所得金額が1000万円を超える場合には、当該贈与により取得した資金については、本制度の適用を受けることができません。この制度は、契約の取り消し(中途解約)はできませんので注意してください。
制度の概要は以下の通りです。
■結婚・子育て資金とは?
1.結婚に際して支払う次のような金銭(300万円限度)をいいます。
(1)挙式費用、衣装代等の婚礼(結婚披露)費用(婚姻の日の1年前の日以後に支払われるもの)
(2)家賃、敷金等の新居費用、転居費用(一定の期間内に支払われるもの)
2.妊娠、出産および育児に要する次のような金銭をいいます。
(3)不妊治療・妊婦健診に要する費用
(4)分べん費等・産後ケアに要する費用
(5)子の医療費、幼稚園・保育所等の保育料(ベビーシッター代を含む)など
■非課税制度の適用を受けるための手続き方法
(銀行・信託銀行・証券会社)に受贈者名義の専用口座を開設します。口座の開設は、受贈者1人につき1金融機関かつ1店舗に限定されています。
この金融機関を経由して、信託や預入などをする日(通常は専用口座の開設等の日)までに、結婚・子育て資金非課税申告書を、受贈者の納税地の税務署に提出します。贈与者と受贈者との間では贈与契約を締結します。
贈与者から金融機関にある受贈者の口座に入金します。いったん入金した資金は両親や祖父母(贈与者)が自由に使うことはできません。
受贈者が払出しを受ける方法は金融機関によって次の2つがあります。
(1)支払ったあとに、領収書等を金融機関に提出して払出しを受ける。
(2)これから支払う金額の請求書等を金融機関に提出して払出しを受ける。
結婚・子育て資金以外のために使う資金の払出しは、非課税になりませんので注意してください。
■終了について
結婚・子育て資金口座に関わる契約は次の場合に終了します。
(1)受贈者が50歳に達したとき
(2)受贈者が死亡したとき
(3)結婚・子育て資金管理契約に関わる専用口座の残高がゼロになり、かつ、受贈者と金融機関との間で結婚・子育て資金管理契約を終了させる旨の合意があったとき
終了時に、使い残しがあれば、贈与税が課税されます。また、終了前に贈与者が死亡したときに、使い残しがあれば、贈与者の相続財産に加算されます。
まとめ
不妊治療費の負担を軽減するには、まず、特定不妊治療助成制度を活用しましょう。自治体によっては独自の助成をしている場合がありますので、調べてみましょう。
「結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税制度」に関しては、使途も限られていますし、手続きも面倒ですので、父母等から支援を受ける方法として、110万円まで非課税で贈与できる暦年贈与の活用を検討されたらいかがでしょうか。なお、この非課税制度と暦年贈与は併用できます。
執筆者:新美昌也
ファイナンシャル・プランナー。