更新日: 2020.12.16 その他暮らし
若年認知症が使える制度には、どんなものがある?
子どもが未成年であれば、介護を配偶者に頼らざるを得ない結果、共働きであれば、配偶者の働き方にも大きな影響を与えます。親の介護も重なるかもしれません。
万一、若年性認知症になったときに備えて、どのような支援制度があるのか知っておきましょう。
執筆者:新美昌也(にいみ まさや)
ファイナンシャル・プランナー。
ライフプラン・キャッシュフロー分析に基づいた家計相談を得意とする。法人営業をしていた経験から経営者からの相談が多い。教育資金、住宅購入、年金、資産運用、保険、離婚のお金などをテーマとしたセミナーや個別相談も多数実施している。教育資金をテーマにした講演は延べ800校以上の高校で実施。
また、保険や介護のお金に詳しいファイナンシャル・プランナーとしてテレビや新聞、雑誌の取材にも多数協力している。共著に「これで安心!入院・介護のお金」(技術評論社)がある。
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目次
若年性認知症とは
一般に認知症は高齢者に多い病気ですが、65歳未満で発症した認知症を「若年性認知症」といいます。
東京都健康長寿医療センターの資料によると、全国の若年性認知症の数は3万5700人います。
原因となる疾患は、アルツハイマー型認知症(52.6%)が最も多く,血管性認知症(17.1%)、前頭側頭型認知症(9.4%)、頭部外傷による認知症(4.2%)、レビー小体型認知症/パーキンソン病による認知症(4.1%)、アルコール関連障害による認知症(2.8%)がそれに続いています。
また、生活実態調査からは、(1)最初に気づいた症状は「もの忘れ」(66.6%)とともに、「職場や家事などでのミス」(38.8%)が多く、(2)約6割は発症時点で就労していましたが、そのうち約7割が調査時点で退職しており、(3)約6割が世帯収入の減少を感じており、主たる収入源は約4割が障害年金、約1割が生活保護であり、(4)約3割は介護保険の申請をしていないことがわかりました。
どんなサービスが受けられる?
65歳未満でも、40歳以上であれば若年性認知症の診断を受けた方は介護保険の利用ができます。また、介護保険以外にもさまざまな利用可能な制度があります。
例えば、医療費の助成について、自立支援医療(精神通院医療)制度、認知症の原因が前頭側頭型認知症の場合は難病医療費助成制度の対象となります。
その他、働けなくなったら、傷病手手金や障害年金などの給付を受けられる場合もあります。財産管理等が難しくなった場合には、成年後見制度や社会福祉協議会の日常生活自立支援事業を利用することも可能です。
認知症が高度障害と認定されれば、加入している生命保険から高度障害保険金を受け取ることも可能です。主な制度を見てみましょう。
介護保険
介護保険は原則65歳以上が対象ですが、40歳以上64歳以下の方は要介護の原因が16種類の特定疾病に該当する場合に、介護保険の対象となります。若年性認知症の方は、特定疾病に該当するので介護保険を申請できます。
若年性認知症の方が最も利用しているのがデイサービス・デイケアです。
デイサービス(通所介護)では、デイサービスセンター等へ通い、入浴、排せつ、食事等の介護、機能訓練を日帰りで利用します。施設の方が自宅から施設まで送迎もしてくれます。マージャン、書道、陶芸、生け花、リズム体操などさまざまなレクリエーションなども用意されている施設もあります。
先の調査では、約3割は介護保険の申請をしていないことがわかりました。忘れずに、介護申請しましょう。
自立支援医療(精神通院医療)
自立支援医療(精神通院医療)は、精神障害の通院治療を続ける必要がある人の通院医療費療(外来、外来での投薬、デイ・ケア、訪問看護等が含まれます)の本人負担を軽減する制度です。精神障害には、アルツハイマー病型認知症、血管性認知症も含みますので、若年性認知症の方も利用できます。
自立支援医療(精神通院医療)を利用すると、一般の方であれば公的医療保険で3割負担の医療費を1割に軽減できます。また、この1割の負担が過大なものとならないよう、さらに1 カ月当たりの負担には世帯の所得に応じた上限が設けられています。
さらに、医療費が高額な治療を長期間受ける場合、市町村民税課税世帯の方は、通常とは別に負担上限月額が定められ、負担が軽減されています。
なお、入院医療の費用、公的医療保険の対象とならない治療・投薬などの費用(病院や診療所以外でのカウンセリングなど)、精神障害と関係のない疾患の医療費は対象外です。
申請はお住まいの市町村の障害福祉課、保健福祉課などの担当窓口で行います。申請が認められると、「自立支援医療受給者証」が交付されます。なお、本制度による医療費助成を受けられるのは「指定自立支援医療機関」での医療に限られていますので注意してください。
難病医療費助成制度
前頭側頭葉変性症などの指定難病を指定医療機関で受けた場合に、医療保険等適用後の自己負担分が助成されます。一般の方であれば、公的医療保険で3割負担の医療費を2割に軽減できます(もともとの負担割合が1割または2割の方は、変更ありません)。
また、所得状況に応じて、月ごとの自己負担上限額が設定され、同月内の医療費が上限額を超えた自己負担額は全額助成されます。申請は、お住まいの自治体の窓口にご相談ください。
精神障害者保健福祉手帳
認知症と診断され、初診日から6カ月経過した場合、一定の精神状況にあると認められると、精神障害者保健福祉手帳を取得できます。
手帳を取得すると、所得税や住民税の控除など税制上の優遇措置が受けられます。また、公共施設の利用料減免、公共交通機関の運賃割引、駐車料金の減額、携帯電話の割引、NHK受信料の減免などが受けられます。
血管性認知症やレビー小体型認知症など身体症状がある場合は「身体障害者手帳」を取得することが可能です。これらの手帳を取得すれば、企業の障害者雇用枠で働くことができます。詳しくは、お住まいの市町村の障害者福祉などの担当窓口にお問い合わせください。
傷病手当金
傷病手当金は、被保険者が病気や業務外のケガのために会社を休み、会社から十分な給与が得られない場合、健康保険から支給される生活保障のための手当金です。
連続する3日間を含み4日以上仕事に就けない場合に、支給開始した日から1年6カ月間、 給与の3分の2が支給されます。傷病手当金を受給したいときは、会社に相談してください。
障害年金
障害年金は、病気やケガによって生活や仕事などが制限されるようになった場合に受け取ることができる年金です。
障害年金には「障害基礎年金」「障害厚生年金」があり、病気やケガで初めて医師の診療を受けたとき(初診日)に、国民年金に加入していた場合は「障害基礎年金」、厚生年金に加入していた場合は「障害厚生年金」が請求できます。
障害の状態により、障害基礎年金は1級・2級、障害厚生年金は1~3級の年金を受け取ることができます。障害厚生年金の1級・2級に該当する場合は、障害基礎年金もあわせて受け取ることができます。ちなみに障害基礎年金(2級)は78万1700円(令和2年度)です。障害年金の1級は、2級の1.25倍となります。
1級・2級の障害基礎年金または障害厚生年金を受け取ることができる方に、生計を維持されている配偶者や子がいる場合、加給年金や子の加算があります。
障害年金は、初診日から1年6カ月経過した日、または1年6カ月以内に症状が固定した日に請求できます。詳しくは、お住まいの市町村の近くの年金事務所にお問い合わせください。
成年後見制度
成年後見制度は、認知症、知的障害、精神障害などによって物事を判断する能力が十分ではない方の財産を管理したり、必要な契約を結んだりなど、本人を法律的に支援する制度です。判断能力が不十分になる前に備える「任意後見制度」と、判断能力が不十分になってから家庭裁判所に申し立てる「成年後見制度」があります。
成年後見制度では、本人の判断能力に応じて、軽い方から、「補助」「保佐」「後見」の3つのタイプがあります。申し立ては、本人、配偶者、4親等内の親族などが本人の住所地を管轄する家庭裁判所に行います。
日常生活自立支援事業
認知症高齢者、知的障害者、精神障害者などで判断能力が不十分な方(療育手帳や精神障害者保健福祉手帳を持っていたり、認知症の診断を受けている方に限られない)は、社会福祉協議会の日常生活自立支援事業を利用できます。
福祉サービスを利用する際のさまざまな手続きや契約、預金の出し入れ、生活に必要な利用料などの支払い手続きや、年金や預金通帳など大切な書類の管理、成年後見制度の利用支援などを受けられます。
高度障害保険金
生命保険や住宅ローンの団信に加入している場合は、高度障害保険金が受け取れる場合があります。
支払い事由として、「中枢神経系・精神または胸腹部臓器に著しい障害を残し、終身常に介護を要するもの」があるからです。認知症の症状が悪化した場合、この条件に当てはまる場合があります。高度障害保険金は非課税ですし、団信に加入している場合は住宅ローンの負担がなくなります。
収入が途絶え保険料の支払いが負担になる場合には、掛金を減らすなどの工夫をして継続するようにしましょう。
まとめ
「もの忘れ」や「職場や家事などでのミス」が重なっても本人は認知症のせいだとは思わず、他の病気だと思って医療機関を受診するため、診断が遅れるケースが多いようです。
このような症状が出たら、認知症を疑い、認知症専門医を受診するとよいでしょう。早期に認知症と診断を受けた場合には、薬などで進行を遅らせ働き続けることも可能です。また、市区町村の障害者福祉の担当窓口で、どのような支援を受けられるのか相談するとよいでしょう。
執筆者:新美昌也
ファイナンシャル・プランナー。