公開日: 2020.01.25 老後

高齢者に人気の高い「敬老パス」 便利だが問題点も多い

執筆者 : 黒木達也

70歳以上の高齢者を対象に、地元のバスや地下鉄に安い料金で乗車できる「敬老パス」は非常に人気があります。東京、大阪などの比較的人口の多い大都市の自治体で発行されています。
 
高齢者の外出を支援する意味では大きな効果がありますが、半面利用者増による課題も生まれてきています。
 
 
黒木達也

執筆者:

執筆者:黒木達也(くろき たつや)

経済ジャーナリスト

大手新聞社出版局勤務を経て現職。

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黒木達也

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執筆者:黒木達也(くろき たつや)

経済ジャーナリスト

大手新聞社出版局勤務を経て現職。

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高齢者の外出促進が大きな目的

敬老パスは各自治体が発行するもので、その自治体ごとに内容が異なります。一定料金を支払えば敬老パスが交付され、パスを見せるだけで乗車できる形態や、乗車のたびに通常の料金よりも安い金額を支払う形態など多様です。
 
またこの敬老パスを発行している自治体も、札幌、東京、横浜、名古屋、京都、大阪などの比較的大きな自治体に限られ、他の自治体に居住する高齢者はこの恩典を受けることができずに、制度としては不公平感があるのも現実です。
 
この制度がつくられた目的は、外出を控えがちの高齢者に対し外出の機会を増やし、身体的にも健康増進に役立ててもらうことです。特に年金収入だけの都会に住む高齢者は、車を運転する機会も減り、用事がなければ外出の機会も減る傾向にあります。
 
自宅での生活が中心となると、足腰が弱くなる、認知症のリスクが増える、などの病気がちになることが多く、結果として医療費が増え、自治体としても好ましくありません。外出を促すことで心身の強化にもなります。
 
また、最近では高齢者のドライバーによる事故が大きな社会問題となっており、特に75歳以上の自動車免許所有者に返納を促す契機になるとされています。
 
車での外出ができなくなっても、敬老パスがあれば外出を保証できるからです。バス路線も多く走っている大都市ならば、車を手放しても敬老パスで自由に外出が可能になります。
 

優待方法は自治体により異なる

自治体により優待の内容はかなり異なります。ここではいくつかの例を紹介します。
 
代表的な敬老パスは「東京都シルバーパス」です。東京都の場合、本人負担額は所得が少ない住民税の非課税者は年間1000円、住民税の課税対象者は年間2万510円の2種類です。対象は70歳以上の人で、都内のバス(民営バスを含む)と都営地下鉄、日暮里舎人ライナーに、パスを見せれば乗車でき乗り放題です。
 
民営のバス会社も事業に参加しているため、都営以外のバスにも乗車できます。ただし東京メトロ(地下鉄)は対象外です。この制度により住民税非課税の対象者は、わずか1000円の支払いで1年間乗り放題の敬老パスを受け取れるため、他の自治体と比較しても優遇されています。
 
札幌市の「敬老優待乗車証」は、本人負担額に応じて、それ以上の金額が利用できる仕組みです。年間のチャージ額は本人が決め、例えば1000円のチャージで1万円分の利用が可能です。
 
いくつか段階があり、最高額の1万7000円をチャージすると、年間で7万円分の利用が可能です。ICカードが発行され、乗車するたびに引き落とされます。東京と同じく70歳以上の人が対象で、札幌市内を走る市電、地下鉄、バス(民営を含む)が利用できます。
 
横浜市の「敬老特別乗車証」は、年間の支払金額は所得に応じて8段階に分かれています。障がい者は無料で、生活保護受給者は年間3200円です。
 
所得が上がるにつれ支払額は増え、最高額の所得700万円以上の住民税課税対象者は2万500円の支払いでパスを受け取ります。70歳以上の人が対象で、市内バス(民営を含む)と市営地下鉄、金沢シーサイドラインに、パスを見せるだけで乗車できます。
 
大阪市の「敬老優待乗車証」はシステムが少し異なります。このパスを持っていれば、50円だけ支払えば何度でも乗車できます。パスを交付された人は、事前にICカードにチャージし、乗車の際に50円ずつ引き落とされる仕組みです。
 
以前は年間利用料を3000円別途支払っていましたが、利用者が減ったために現在は廃止されています。70歳以上の人が対象で、従来大阪市が運営し民営化された、大阪シティバスとオオサカメトロで利用できます。
 
敬老パスの制度は以上のほか、名古屋市、京都市、神戸市、秋田市、新潟市、川崎市、静岡市、岡山市、広島市、福岡市、熊本市、鹿児島市など、数多くの自治体で実施され、高齢者が利用しています。
 
仕組みや利用者の恩恵度はそれぞれ異なります。また地域によっては、行政が関与することなく、バス会社や鉄道会社が独自に高齢者割引を実施しているところもあります。
 

自治体やバス会社が困惑する事態も

前述のように横浜市の場合、所得に応じて一定の料金を支払えば、対象となっているバスや地下鉄に乗り放題の仕組みです。このため横浜市は予算として100億円を計上してきました。
 
しかし利用者が急増、1人当たりの乗車回数も当初の予想を超えているため、行政は予算を増やせない、バス会社は人手不足で増便などはできないとして、2019年秋ころから、この制度を維持することへの暗雲が漂ってきました。
 
そのため、市は有識者に諮問し、(1)年間の利用料金を現在より引き上げる、(2)金額を変えずに利用回数に上限を設ける、(3)乗車時に一定額を支払う方式に変更する、といった意見が出され、2020年には方針が出る予定です。
 
今回は横浜市が問題となりましたが、今後は他の自治体でも、制度設計に関する議論が活発になるかもしれません。自治体からすれば住民サービスの一環で、地域住民からすれば恩恵を受けるため評価の高い政策ですが、必ず予算措置を伴います。
 
利用者が増えると問題が出てきます。またすぐそばに住むほかの自治体の住民からすれば、不公平感を味わうことになります。平均寿命が大きく伸び、団塊の世代が70歳を超え、今後は制度設計をどうするかの議論も各自治体で増えてくると思われます。
 
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト

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