更新日: 2020.07.11 その他老後

これからを生き抜くためのライフデザインを考える(2)人生100年時代のお金の使い方

これからを生き抜くためのライフデザインを考える(2)人生100年時代のお金の使い方
「人生100年時代」と言われるようになり、資産形成・運用に関してこれまでの常識が通用しない時代になりつつあります。
 
資産形成について「老後2000万円問題」が話題になったのは記憶に新しいところです。お金のことを考える場合、「収入」だけでなく「支出」のことも考えておかなければなりません長くなった人生を充実したものにするために、それぞれの人が自分に合ったスタイルを見つける必要があります。
 
今回は、長い人生を生きる上での支出、お金の使い方について考えます。
西山広高

執筆者:西山広高(にしやま ひろたか)

ファイナンシャル・プランナー(CFP®)、上級相続診断士、宅地建物取引士、宅建マイスター、西山ライフデザイン代表取締役
 
http://www.nishiyama-ld.com/

「円満な相続のための対策」「家計の見直し」「資産形成・運用アドバイス」のほか、不動産・お金の知識と大手建設会社での勤務経験を活かし、「マイホーム取得などの不動産仲介」「不動産活用」について、ご相談者の立場に立ったアドバイスを行っている。

西山ライフデザイン株式会社 HP
http://www.nishiyama-ld.com/

高収入だから安心とは限らない

行動経済学という分野の学問でノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン氏は、自身の研究を元に、人間の感情的幸福と収入との関係について「年収7万5000ドル(今のレートで800万円ちょっと)までは収入に比例して幸福度も増すが、それ以上は上がらない」と話しています。
 
収入が多いほうが幸せかというと、必ずしもそうとは限らないということでしょう。ましてや65歳や70歳以降の安心ということを考えた場合、現役時代の収入が多い人のほうが安心とは限らないどころか、むしろ不幸になる可能性すらあるように感じます。

収入レベルを超えた消費スタイルの行く末

収入が多いと、多いなりのライフスタイルが確立されるでしょう。生活水準、あるいは消費傾向といってもよいかもしれません。収入が維持されているうちは良いのですが、その収入が減った時に収入に合わせて生活水準を落とすということは困難です。
 
収入が減っても支出が減らないと、貯蓄はどんどん減り、気が付くとお金が足りないということになりかねません。自分の意図しない不本意な形で、生活レベルを下げざるを得なくなる、ということも十分にあり得ます。
 
現役時代の収入には、老後資金に充てるべきお金が含まれていることを意識しておかなければなりません。
 
実際、ファイナンシャル・プランニングの相談でお越しになるお客さまに、現状(現在の資産状況や家族構成など)と将来予測(今後予想される収入やライフイベントなど)をヒアリングし長期キャッシュフロー表を作成すると、早い方では70代前半で金融資産が枯渇するという、ちょっと怖い結果が出て驚かれるケースもあります。80代で枯渇する予測が出る人は少なくありません。

あなたは宝くじに当たったら何に使いますか?

こんな質問に対してどう答えるかによっても、その人の消費スタイルや性格が出るように思います。
 
「高級車を買う」「別荘を買う」「夫婦で世界一周旅行に行く」「友人にパァーッとおごる」などでもすぐに3億もの当せん金は使いきれないでしょう。「会社を辞め、起業する」という人もいるかもしれません。
 
しかし、一時的に得た収入を一時的に使うのはまだしも、その資金を元に日々の消費が増えてしまうと、その生活が当たり前になってしまいます。元の生活に戻せなくなって破たんしてしまう人は珍しくないのです。
 
また、起業する場合もビジネスプランなどを十分に考える必要がありますが、宝くじの当せん金の様な資金の場合、成功しようという意識が低く、うまくいかないケースも少なくないようです。
 
宝くじに当たると、高額当せん者だけに手渡される「その日から読む本」というものがあるそうです(残念ながら私も実物は見たことはありません)。
 
宝くじで高額当せんしたことによって、その方の人生が狂ってしまわないように、という目的で制作されているものです。こういう本が必要になるほど、宝くじで高額当せんするというのは怖いことなのです。落ち着いてその使い方を考えることが非常に重要になります。
 
宝くじほどではないかもしれませんが、収入が多いあるいは資産があることが当たり前になり、将来の見通しもないまま消費だけが増えてしまうのは危険です。

自分と家族の資金計画を考える

大切なのは自分と家族の収入と支出のあるべきバランスを知ることです。
 
まず初めにするべきことは、今必要な金額だけでなく、将来必要な費用を考えておくこと。現役で仕事をしている間にも住宅の取得、あるいは家賃を支払うといった住宅費や、お子さまがいらっしゃる場合には教育費などが大きな支出としてあります。
 
それ以外にも毎日の食費や被服費、万が一に備えた保険、最近大きくなっている通信費、交際費や趣味に使うお金もあるでしょう。
 
まず、そうしたものが本当に必要なものかどうかを見直す必要があります。現在の資産と今後の収入予測に比べ、支出が多い場合には早急な見直しが必要です。早く気付くほどリカバリーの手段も豊富です。

幸せってなんだっけ?

例えば、年収400万円程度で海外旅行など簡単には行けないという家庭が、5年計画で旅行費用を積み立て、やっと貯まった資金で海外旅行に行くという場合と、年収1000万円以上で毎年1回は海外旅行に行くという人とで、その海外旅行というイベントに感じる幸せの度合いを考えてみてください。
 
海外旅行で得られる経験などのことを考えれば、単純に比べられないかもしれませんが、やっと実現した海外旅行のほうが幸せに感じるのではないでしょうか。
 
人が感じる幸福感というのは相対的なものだと思います。つらい時期や経験があるからこそ乗り越えた時、達成した時の幸福感は大きいのではないかと感じます。
 
また、徐々にグレードが上がっていくほうが幸せに感じるということもあると考えます。年齢を経てから経済的な理由で、できないことが増えるほうが苦しいのではないでしょうか。

人によって価値観は違う

最近は同じ年齢でも収入に差がつくケースがありますが、同じ会社に勤めている同僚などは同じような収入を得ている場合が多いでしょう。
 
その同僚が「高級レストランで頻繁に食事をしている」「頻繁に旅行している」「高級車を買った」「家を買った」などということに対し、「うらやましい」と感じることもあるかもしれません。しかし「彼ができるならうちも大丈夫だろう」と考えるのは危険です。
 
人によって価値観は違って当たり前ですし、そもそもその家庭の資産状況もわかりません。もしかすると彼は破たんへの道を歩んでいるかもしれません。他人は他人。自分の家庭のあるべき姿、あるべき支出レベルを把握し、予算管理する必要性は今後いっそう高まっていくと考えられます。

老後に必要なお金

ある年齢以上になると多くの人は収入が減ることになるでしょう。人とのお付き合いのために必要な交際費などは減るかもしれませんが、退職後に新たなお付き合いができることもあります。
 
老後も日々の生活費や住宅関連費、趣味のための費用などは必要になります。もしかすると有料老人ホームに入居したり、介護が必要になったりするかもしれません。自分が70代、80代になった時、どんな生活をしたいと考え、そのために必要な費用がどのくらいかかるかを試算してみてください。

特に住宅費は注意

賃貸住宅にお住まいで、今後もずっと賃貸に住もうとお考えの方は、お子さまが独立したら少し小さな家に引っ越したり、リタイア後は家賃の安い郊外へ引っ越したりという選択肢もありますが、いずれにしても多くの場合家賃負担から逃れることはできません。
 
持ち家がある場合でも、住宅ローンが定年後あるいは所得が減る年齢まで残るという方は要注意です。また、マンションの場合は管理費や修繕積立金の負担は残ります。
 
修繕積立金が不足するマンションなどでは、不足分を各戸から一括徴収するということになる可能性もあります。また、一戸建てでも修繕費やリフォーム費用などが必要になることもあります。これらの支出計画を事前に見込んでおく必要があります。

趣味にかかるお金

人によっては、「リタイアしたら趣味を楽しみたい」とお考えの方もいらっしゃるでしょう。長い人生を有意義に生きていくためには、趣味を持つことや人との付き合いを持つことも重要です。
 
車が好きな方は、数年ごとに新車に乗り換えるための費用がかかるかもしれません。ゴルフが趣味の方はプレー費、交通費、時々ほしくなる新しいクラブなどを購入する費用もあるでしょう。
 
旅行が趣味という方もいるでしょう。山歩きが好きな方でも交通費や用具費がかかります。そうした費用も、あらかじめ将来の支出計画に見込んでおく必要があります。

まとめ

人生100年時代を生きる上での人生設計、すなわちライフデザインを考える上では、これまでの常識から考え方を切り替えなければいけない時代になったといえます。人によって将来どのようなお金が必要かは違うでしょう。自分や家族の将来のライフスタイル像を描いておく必要があります。
 
定年までお金に困ったことのない人が、定年後にお金がなくなるというのは非常に苦しいと思います。早いうちに自分に見合った持続可能な消費スタイルを確立し、将来収入が減ってもこのくらいの生活レベルは無理なく維持できるという状況を作り、慣れておく必要があります。
 
執筆者:西山広高
ファイナンシャル・プランナー、宅地建物取引士、西山ライフデザイン代表取締役


 

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