更新日: 2021.06.21 介護
母親が認知症、「成年後見人」制度をいろいろ考えてみました
認知症を患うお年寄りの数も急増し、その方々の資産の管理の必要性から成年後見人についてもよく耳にするようになりました。でも、ちょっと待った!ご子息が成年後見人になられた方のケースをご紹介します。
執筆者:柴沼直美(しばぬま なおみ)
CFP(R)認定者
大学を卒業後、保険営業に従事したのち渡米。MBAを修得後、外資系金融機関にて企業分析・運用に従事。出産・介護を機に現職。3人の子育てから教育費の捻出・方法・留学まで助言経験豊富。老後問題では、成年後見人・介護施設選び・相続発生時の手続きについてもアドバイス経験多数。現在は、FP業務と教育機関での講師業を行う。2017年6月より2018年5月まで日本FP協会広報スタッフ
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成年後見人になると始まる報告義務
このクライアントは、「認知症になった母親が自分の印鑑をすぐにどこに置いたかわからなくなってしまったので、自分がかわりに管理しよう」と思ったそうです。彼は母親との二人暮らしでご兄弟もいません。父親も彼が若い時に他界して、母親の兄弟もだれもおらず、相続が発生したならば法定相続人は彼一人です。
このようなケースでも成年後見人を選出するには裁判所の判断を仰ぐ必要があり、所定の書類を提出し、面談を経て選任されたそうです。そしてそこからスタートした報告義務。当初は、1年ごと、その後、2~3年に一度、財産目録と収支報告書を提出します。
一度チェックが入って、成年後見人が指定の司法書士に変更
財産目録では普通預金にほとんどの金融資産が預けられたままになっていたそうです。定期預金ですら、100万円預けても1年の利子は250円程度。はがゆい思いを抑えられず、「投資信託で運用したい」という問い合わせをしたそうですが、「元本割れのリスクがある商品は基本NG」との回答がきて断念。
さらに、すでにその時に母親は施設に入っていたのですが、自宅の修繕費にと70万円のお金を「一時的に借りるつもりで」拝借した結果、「他人の財産を横領」と解釈されたのか、裁判所が指定した司法書士に一旦成年後見人の立場が移ってしまいました。
その結果、彼は唯一の法定相続人であるにもかかわらず、全く面識のない司法書士に報酬を支払わなければならなくなったのです。
腑に落ちなくても、いったんレールに乗ったら安全運転が基本
どんなケースであれ、いったん「成年後見人」になったら、母親の財産を管理するということは「厳然たる業務」になります。親一人子一人であったとしても、最終的には母親の財産はすべて彼が相続するということが明々白々であったとしても、そういった事情を斟酌するということを期待することはできません。
「うちも成年後見人を。だったら私が」と思っている方は、想像よりも煩雑な業務をこなさなければならない、ちょっとした気のゆるみで自分達が将来相続すべき財産の何某かが、司法書士への報酬として外部に出ていくことになるという認識を持ったうえで申請したほうがよさそうです。
執筆者:柴沼直美(しばぬま なおみ)
CFP(R)認定者