更新日: 2021.03.30 その他年金

65歳になったら、受給している遺族年金はどうなる

執筆者 : 新井智美

65歳になったら、受給している遺族年金はどうなる
一家の大黒柱であった夫もしくは妻が亡くなり、遺族年金を受給している方にとって、自分の年金受給開始となる65歳以降の遺族年金の取り扱いについては非常に不安でもあり、関心の高いところだと思います。
 
今回は65歳以降の遺族年金の取り扱いについて、詳しく解説します。
新井智美

執筆者:新井智美(あらい ともみ)

CFP(R)認定者、一級ファイナンシャルプラン二ング技能士(資産運用)
DC(確定拠出年金)プランナー、住宅ローンアドバイザー、証券外務員

CFP(R)認定者、一級ファイナンシャルプラン二ング技能士(資産運用)
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遺族基礎年金と老齢基礎年金の関係

まず、遺族基礎年金と老齢基礎年金を同時に受給するのは難しいとされています。なぜなら、遺族基礎年金には、支給期間として「子どもが18歳(一定の障害状態にある場合は20歳)になった年度の3月31日まで」と決められているからです。
 
65歳の時点でそのような子どもがいるケースはまれだと思われるとともに、子どものいない配偶者はそもそも遺族基礎年金を受け取ることができません。
 
もちろん、受給要件さえクリアしていれば、遺族基礎年金を受け取ることは可能ですが、そもそも遺族基礎年金と老齢基礎年金については併給が認められていません。そういった意味からも、遺族年金の受給期間が終わった後、65歳以降に自身の老齢基礎年金を受け取るという形になります。
 
その際には、遺族基礎年金額に加算される子どもの数にもよりますが、65歳になったときに老齢基礎年金に移行した際には、受給額が減少する可能性もあります。
 
■遺族基礎年金の支給額(2020年4月時点)
78万1700円+子の加算(※1)

 
(※1)第1子・第2子の場合は各22万4900円、第3子以降の場合は各7万5000円が加算されます。
 
■老齢基礎年金の支給額(2020年4月時点)
78万1700円

 
老齢基礎年金は原則65歳からの受給となっていますが、60歳から受給することも可能です。これを「繰上げ受給」といい、繰上げ請求月から65歳になる月の前月までの月数に0.5%を乗じた額が減額されます。
 
逆に70歳まで受給開始を延ばすこともできます。これを「繰下げ受給」といい、65歳になった月から繰下げの申し出を行った月の前月までの月数に0.7%を乗じた金額が加算されます。
 

遺族厚生年金と老齢厚生年金の関係

遺族厚生年金は、亡くなった当時に子どものいない30歳の妻は5年間の有期支給となっているほか、支給対象者が夫の場合は55歳からの受給という条件があるものの、原則として一生涯受け取ることができるとされています。
 
支給が停止されるのは、受け取っている方の「死亡」や「結婚」、「血族もしくは姻族以外の養子となったとき」などです。したがって、65歳以降の年金については、遺族厚生年金と自身の老齢厚生年金を組み合わせて受給することが可能です。
 
ただ、組み合わせ方によって計算方法が異なりますので、注意が必要です。また、65歳までの間に、以下のような加算をされるものもあることを覚えておきましょう。
 

■中高齢寡婦加算

妻が受ける遺族厚生年金として、40歳から65歳になるまでの間、58万6300円が加算されます。これを、中高齢寡婦加算といいます。ただし、これを受けるには、以下の要件に該当していることが必要です。
 

1.夫が亡くなったとき、40歳以上65歳未満で、生計を同じくしている子がいない妻
2.遺族厚生年金と遺族基礎年金を受けていた子のある妻(※2)が、子が18歳到達年度の末日に達した(障害の状態にある場合は20歳に達した)等のため、遺族基礎年金を受給できなくなったとき

 
(※2)40歳に到達した当時、子どもがいるため遺族基礎年金を受けている妻
 
ただし、平成19年3月31日以前に夫が亡くなったことにより遺族厚生年金を受けている場合は、中高齢寡婦加算を受けることができる要件は35歳以上65歳未満の妻となります。また、遺族基礎年金についても35歳に到達した当時に子どもがいることが要件です。
(一部抜粋:日本年金機構「遺族厚生年金(受給要件・支給開始時期・計算方法)」)
 

■経過的寡婦加算

「昭和31年4月1日以前生まれの妻に65歳以上で遺族厚生年金の受給権が発生した場合」や、「中高齢の加算がされていた昭和31年4月1日以前生まれの遺族厚生年金の受給権者である妻が65歳に達した場合」のいずれかに該当する場合には、経過的寡婦加算が支給されます。
 
これは、自分の老齢基礎年金を受けるようになったときに、65歳までの中高齢寡婦加算に代わり加算される一定額のことです。その額については、昭和61年4月1日から60歳に達するまで国民年金に加入した場合の老齢基礎年金の額と合わせると、中高齢寡婦加算の額と同額になるよう決められています。
(一部抜粋:日本年金機構「遺族厚生年金(受給要件・支給開始時期・計算方法)」)
 

遺族厚生年金の受給者が65歳になった場合

平成19年4月1日前に、遺族厚生年金を受ける権利を有している遺族厚生年金の受給者が、65歳になったときの年金の取り扱いについては、以下の組み合わせから選択することとなります。
 

1.自分の老齢基礎年金+自分の老齢厚生年金
2.自分の老齢基礎年金+遺族厚生年金(夫の厚生年金の3/4)
3.自分の老齢基礎年金+自分の厚生年金の1/2+遺族厚生年金(夫の厚生年金の3/4)の2/3

 
自分の老齢厚生年金および遺族厚生年金が以下のケースの場合、それぞれの金額について計算してみましょう。自分の老齢基礎年金については2020年4月時点の78万1700円を、自分の老齢厚生年金および遺族厚生年金については厚生労働省が2020年12月に発表している「令和元年度厚生年金保険・国民年金事業の概況(※3)」を参考にします。
 

<試算モデル>

●自分の老齢厚生年金:73万8100円
●遺族厚生年金:99万8460円

 
1のケースだと、計算式は78万1700円+73万8100円となり、受給額合計は151万9800円です。
 
2のケースだと、計算方法は78万1700円+99万8460円となり、受給額合計は178万160円です。
 
3のケースだと、78万1700円+(73万8100円×1/2)+(99万8460円×2/3)となり、受給額合計は181万6390円です。
 
ちなみに専業主婦であって、厚生年金保険料の支払期間がない場合は、2のケースに当てはまります。夫が亡くなった後に働き始めて厚生年金保険に加入していた場合であれば、上のように3つのパターンを計算し、一番多い額を選択して受給することが可能です。
 
ただし、この計算方法は平成19年4月1日時点で65歳以上の方に当てはまる計算式です。平成19年4月1日時点で65歳未満の場合であれば、以下のとおりとなりますので、注意が必要です。
 

●平成19年4月1日時点で65歳未満の場合

平成19年4月1日時点で65歳未満の場合であれば、まず自分の老齢厚生年金は全額受給できます。そして、遺族厚生年金が自分の老齢厚生年金より多ければ、その差額を遺族厚生年金として受け取ることが可能です。
 
しかし、自分の老齢厚生年金の額よりも遺族厚生年金の額が少なければ、遺族厚生年金については支給停止となり、その後受け取ることはできません。したがって、受け取れる年金は自分の老齢基礎年金と老齢厚生年金を合わせた額となります。

 

65歳以上で遺族年金を受け取る際の注意点

65歳以上で受け取ることができる年金は、それまで遺族厚生年金を受け取っていた場合、65歳時点の年齢に応じた計算式に基づいて計算されます。
 
特に平成19年4月1日時点で65歳以上の方であれば、3つのパターンから選択できることから、どれを選ぶか慎重に考える必要があります。なぜなら、遺族厚生年金については非課税扱いとなることから、受け取った年金額は所得に含める必要がありません。
 
したがって、受給額合計だけでなく、その中に含まれる遺族厚生年金額についてもきちんと算出し、総合的に判断するようにすることが大切です。
 

まとめ

遺族厚生年金には、中高齢寡婦加算や経過的寡婦加算など、65歳までに加算して受け取れる制度が存在します。また、遺族基礎年金についても子の加算額があります。そのため、65歳以降になると受け取れる年金額が減少することも考えられます。
 
自分が受け取れる老齢厚生年金や遺族厚生年金をしっかりと把握しておき、65歳以降に受け取れる年金額が減少することがあらかじめわかっているのであれば、早いうちから老後のための資金を別に準備しておくなど、対策を忘れないようにしましょう。
 
(※3)厚生労働省「令和元年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
 
(一部抜粋)日本年金機構「遺族厚生年金(受給要件・支給開始時期・計算方法)」
 
執筆者:新井智美
CFP(R)認定者、一級ファイナンシャルプラン二ング技能士(資産運用)
DC(確定拠出年金)プランナー、住宅ローンアドバイザー、証券外務員
 

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