更新日: 2021.10.13 その他年金

障害年金のウソ? ホント?(4)「就労していると、障害年金は受給できない? 」

執筆者 : 和田隆

障害年金のウソ? ホント?(4)「就労していると、障害年金は受給できない? 」
障害年金の相談を受けていると、ちょっとした思い違いをしている人や、誤ったうわさ話を信じ込んでいる人が少なくないことに気づきます。そうした人たちは、後になって「しまった! 」となりかねません。
 
そんなことにならないために、あらかじめ正しい知識を身に付けておきましょう。第4回は「就労していると、障害年金は受給できない? 」です。
和田隆

執筆者:和田隆(わだ たかし)

ファイナンシャル・プランナー(AFP)、特定社会保険労務士、社会福祉士

新聞社を定年退職後、社会保険労務士事務所「かもめ社労士事務所」を開業しました。障害年金の請求支援を中心に取り組んでいます。NPO法人障害年金支援ネットワーク会員です。

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多くの人が気にしている

「就労していると、障害年金は受給できない?」「働いたら、障害年金を止められる?」。障害年金の相談を受けていると、障害年金の受給と就労の関係をたずねられることがよくあります。多くの人が気にしていることなのでしょう。
 

「障害年金受給者実態調査」によると

実態を見てみましょう。厚生労働省が2019年から2020年にかけて実施した「障害年金受給者実態調査」(※1)によると、障害年金を受給している65歳未満の人のうち就労している人の割合は、43.1%です。受給者の約5人に2人が就労していることになります。
 
内訳は、障害厚生年金の受給者の場合が43.7%、障害基礎年金の受給者(障害厚生年金を併給している人を除く。以下、同様)の場合が42.9%です。等級別では、次表のとおりで、障害厚生年金の受給者、障害基礎年金の受給者ともに、障害の程度が軽くなるにつれて就業率が高くなっています。
 

(厚生労働省「年金制度基礎調査(障害年金受給者実態調査)令和元年 集計結果の概要」をもとに作成)
 

1週間あたりの就業時間が40時間以上の人も

障害厚生年金の受給者、障害基礎年金の受給者をひっくるめた業務内容は、「障害福祉サービス事業所等」が31.3%で最も多く、以下「臨時・パート等」23.7%、「常勤の会社員・公務員等」18.3%、「地域活動支援センター、小規模作業所」11.7%などとなっています。
 
1週間あたりの就業時間は「10時間未満」が26.9%、「10~20時間」が17.3%、「20~30時間」が23.4%、「30~40時間」が19.3%、「40時間以上」が10.5%、などです。
 

障害認定基準に記載はあるのだが……

就労と障害等級の関係については、障害年金を裁定請求した場合や更新手続きをした場合の等級判定の方法を定めた「障害認定基準」(※2)に記載されています。
 
この基準の総論部分にあたる「障害認定のための基本的事項」で、障害等級2級については「労働により収入を得ることができない程度のもの」とされており、3級については「労働が著しい制限を受けるかまたは労働に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの」とされています。しかし、大ざっぱな表現のため、あまり要領を得ません。
 

精神の診断書には「現症時の就労状況」欄がある

そこで、裁定請求や更新手続きで等級判定の中心とされる診断書(更新手続きの際は「障害状態確認届」という名称です)に着目してみると、8種類ある診断書のすべてに労働能力を記入する欄がありますが、精神の障害用の診断書には、特別に「現症時の就労状況」欄が設けられており、精神の障害の審査では、就労状況を重視されていることがうかがわれます。
 
ただし、障害認定基準の精神の障害の項に「現に仕事に従事している者については、労働に従事していることをもって、直ちに日常生活能力が向上したものと捉えず、その療養状況を考慮するとともに、仕事の種類、内容、就労状況、仕事場で受けている援助の内容、他の従業員との意思疎通の状況等を十分確認したうえで日常生活能力を判断する」とされています。
 
また、診断書を作成する医師に対して提供されている「障害年金の診断書(精神の障害用)記載要領」(※3)でも、「就労している事実だけで、障害年金の支給決定が判断されることはありません」と強調されています。就労していることが、審査において不支給や降級に直結しないよう、配慮されているわけです。
 

2級までしかない国民年金の場合は、より慎重に

こうした事情から、障害年金の受給を希望する側としては、診断書を作成する主治医に自身の就労の実情を十分に理解してもらう必要があります。特に、精神の障害の場合は、とても重要です。
 
具体的には、障害認定基準にあるように「仕事の種類、内容、就労状況、仕事場で受けている援助の内容、他の従業員との意思疎通の状況等」を丁寧に説明し、診断書に書き込んでもらいます。障害者枠での就労かどうか、も大切です。説明に時間を取られる場合は、これらを用紙に書き出して、「読んでください」と主治医に渡すのが効率的です。
 
初診時に厚生年金の場合は、障害等級が3級まであるので、就労していても受給できることが比較的に多いのですが、国民年金の場合は2級までしかないので、より慎重に取り組む必要があります。
 

更新時の診断書については、注意が必要

障害年金をすでに受給している場合、働き始めたら、障害年金を止められるのではないかという不安があることと思います。
 
障害の種類によって違いますし、就労状況が重視されているとみられる精神の障害などでも、直ちに障害年金を止められるということは、まずありえません。就労が継続できるかどうかは、すぐには判断できないという事情もあるからです。年金証書に「次回診断書提出年月」という項目があります。原則として、そこに書かれている時期までは、受給できると考えてよいでしょう。
 
しかし、更新時の診断書については、注意が必要です。裁定請求時と同様に、就労の実態について主治医に丁寧に説明し、診断書に記入してもらうよう努めましょう。
 

慎重に取り組むことが大切

「就労していると、障害年金は受給できない? 」の「ウソ・ホント」の判定は、「ウソ」だけど、請求や更新の際は、慎重に取り組むことが大切なようです。
 
出典
(※1)e-Stat「年金制度基礎調査(障害年金受給者実態調査)令和元年」
(※2)日本年金機構「障害認定基準」(平成 29 年 12 月 1 日改正 )
(※3)日本年金機構「障害年金の診断書(精神の障害用)記載要領 ~記載にあたって留意していただきたいポイント~」
 
執筆者:和田隆
ファイナンシャル・プランナー(AFP)、特定社会保険労務士、社会福祉士

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