更新日: 2023.02.04 その他年金

「80歳前後」がボーダー!? 年金の「繰上げ受給」と「繰下げ受給」の損益分岐点を解説

「80歳前後」がボーダー!?  年金の「繰上げ受給」と「繰下げ受給」の損益分岐点を解説
年金について考えるうえで悩ましいのは、早めに受け取れるけれど減額される繰上げ受給を選ぶか、長く受給できることを見込んで増額される繰下げ受給を選ぶかという問題です。
 
今回は60歳から繰上げ受給した場合と70歳から繰下げ受給した場合との比較を通じて、どの程度の期間受給し続けると通常の受給と差が出るのかについて考察します。
川畑彩花

執筆者:川畑彩花(かわばた あやか)

ファイナンシャルプランナー2級

公的年金の繰り上げ受給と繰り下げ受給とは

日本の公的年金制度は、国民年金と厚生年金の2階建てとなっています。国民年金は日本に住む20歳以上60歳未満のすべての人に加入義務があり、一方の厚生年金は会社員や公務員が国民年金に上乗せして加入する年金です。
 
いずれの年金も原則65歳から受給が可能ですが、ライフプランなどを考慮して「繰上げ受給」もしくは「繰下げ受給」を選択することができます。
 
「繰上げ受給」とは、65歳を待たず60歳から64歳で受給を開始する方法です。また、「繰下げ受給」とは65歳では受給せず、66歳から75歳の間に受給を開始する方法です。
 

繰上げ受給による減額率

繰上げ受給では公的年金の受給開始年齢が早まる分、受給額が減額されてしまいます。減額率の計算式は以下のとおりです。
 
減額率(最大24%)= 0.4%×繰上げ請求月から65歳に達する日の前月までの月数
 
昭和37年4月1日以前生まれの場合、減額率は0.5%(最大30%)となるので注意が必要です。
 

繰下げ受給による増額率

繰下げ受給すれば年金を受け取る時期は遅くなりますが、受給額が増額します。増額率の計算式は以下のとおりです。
 
増額率 (最大84%)=0.7%×65歳に達した月から繰下げ申出月の前月までの月数
 
昭和27年4月1日以前生まれ、または平成29年3月31日以前に老齢基礎(厚生)年金を受け取る権利が発生している場合、繰下げの上限年齢が70歳(権利が発生してから5年後)までとなり、増額率は最大で42%です。
 

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繰上げ受給と繰下げ受給の損益分岐点

繰上げ受給や繰下げ受給をする際に考えておきたいのが、受給期間をどのように見込むかです。
 
繰上げ受給すれば早く年金の受給を開始できるものの、どこかの時点で年金受給額の累計が繰り上げしなかった場合より少なくなります。逆に、繰下げ受給では受取額が増額されるものの、自分がどれだけ長生きできるかを正確に予想することは難しく、場合によっては累計受給額がかえって少なくなる可能性もあります。
 

60歳から繰上げ受給する場合の損益分岐点

それでは、繰上げ受給と繰下げ受給について、どのタイミングが損益分岐点となるのか確認してみましょう。
 
昭和37年4月2日以降生まれの場合、繰上げ受給による減額率は図表1のとおりです。
 
【図表1】繰上げ請求早見表


 
日本年金機構 年金の繰上げ受給
 
図表1のとおり、仮に請求時の年齢が60歳0ヶ月とすると、減額率は24.0%です。この減額率は一生変わりません。
 
ここでは、月々15万円、年額180万円の年金を受給すると考えてシミュレーションしてみましょう。
 
60歳0ヶ月から繰上げ受給すると24%減額されてしまうので、受給額は136万8000円となり、繰上げ受給しない場合と比較して年額43万2000円の差が出ます。
 
損益分岐点については、80歳未満で繰上げ受給しなかった場合に追いつかれ、その後は繰上げ受給しなかった場合の方が年金受給額の累計は大きくなります。
 
早いうちに受給を開始することを優先するのであれば繰上げ受給も選択の1つにはなりますが、減額率はずっと変わらないため慎重に検討することが重要です。
 

70歳から繰下げ受給する場合の損益分岐点

繰下げ受給の増額率は図表2のとおりです。
 
【図表2】繰上げ増額率早見表


 
日本年金機構 年金の繰下げ受給
 
先ほどと同様、月々15万円、年額180万円の年金を受給すると考えてシミュレーションしてみます。
 
請求時の年齢が70歳0ヶ月の場合、増額率は42.0%となり、年額75万6000円増額の255万6000円となります。
 
損益分岐点は81歳以上で、この年齢を超えると繰下げ受給しなかった場合よりも累計の年金受給額は大きくなります。逆に言えば、この損益分岐点に到達するまで受給し続けることができなければ、増額の恩恵を受けられません(実際の受給額は状況に応じて異なる場合があります)。
 

ライフプランを考えて年金の受給開始年齢を決めよう

年金の受給開始年齢を決めるにあたっては「寿命」も一つのポイントです。しかし、自分の寿命があとどれくらいかを正確に予測することは難しいため、自分が老後をどのように過ごしたいかを踏まえて慎重にライフプランを設計することが大切です。
 
自分自身の働き方や老後に挑戦したいこと、そして経済状況などさまざまな観点から総合的に判断し、納得のいく選択ができるよう検討を重ねましょう。
 

出典

日本年金機構 年金の繰上げ受給
日本年金機構 年金の繰下げ受給
 
執筆者:川畑彩花
ファイナンシャルプランナー2級

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