令和4年4月から変わる年金の繰上げ・繰下げ、変更点は?(1)繰下げ

配信日: 2020.12.09

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令和4年4月から変わる年金の繰上げ・繰下げ、変更点は?(1)繰下げ
現在、公的年金の受給開始は原則として65歳からですが、その時期を現行制度では前後5年間変更できます。先に受給開始することを繰上げ、後から受給開始することを繰下げといいます。
 
単純に受給開始時期をずらすだけでは、不公平が生じますので、繰上げた場合には、一定の割合で年金額が減額されますし、繰下げた場合には年金額は増額されます。
 
年金の制度改正により、この繰上げ、繰下げ受給の制度についても令和4年4月から変更される予定です。繰下げできる期間が5年から10年に延長され、10年間繰下げた場合には年金額が84%増加するという新聞記事等を目にした方もいらっしゃるかもしれません。
 
また、ねんきん定期便で、受給できる見込みの年金額の隣に、5年間繰下げて受給した場合の(42%増加した場合の)年金額が記載された図を目にした方もいらっしゃるのではないでしょうか。
 
本稿では、現在のルールに基づいて、この繰下げがどのような制度であるかを解説し、寿命との比較、制度変更の概要について解説します。

繰下げについて(どれくらいで受給総額増となるか)

公的年金は、受給開始時期を1カ月単位で繰下げて受給することが可能です。現行制度では、繰下げられる期間は、最大5年間です。繰下げた場合には、受給できる年金が1カ月あたり0.7%増額します。5年間だと、60カ月ですので、60×0.7%=42%となり、42%増額した年金を受給することが可能です。
 
ただし、受給開始するまでの期間は年金を受け取っていないので、受領する年金の総額は、一定期間以上、長生きをしないと、繰上げしなかった場合と比較して、総額でより多く受け取ることにはなりません。
 
例えば、1カ月繰下げたとした場合、確かに0.7%(=0.007)増えるのですが、増えた分で、受け取れなかった1カ月分を取り戻すのには、1÷0.007=142.85...≒143カ月かかります。143を12で割ると11.916ですので、おおよそ12年かかることになります。
 
1年ないしは5年繰下げた場合はどうでしょうか?
 
1年の場合は、受け取れなかった期間が12カ月、増額される率は8.4%(12×0.7%)ですし、5年の場合は、受け取れなかった期間が60カ月、増額される率は42%(60×0.7%)です。
 
確かに、繰下げる期間を増やすことによって、月数だけ増額率は増えますが、同じだけ受け取れない月数も増えます。結局、どのくらいの期間で、受け取れなかった分を取り戻せるのかと考える際には、繰下げる期間は関係なく、あらかじめ定められた1カ月あたりの増額率0.7%に依存し、約12年です。
(注:加給年金等の加算額を受け取られる人は、その部分は増額の対象とならないので、別途計算が必要です)
 

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繰下げについて(寿命との兼ね合い、現行制度)

さて、先ほど、考察した単純な例での計算では、12年かかるということでした。仮に、現行制度で、一番長く繰下げた場合を見てみましょう。
 
現行制度では、5年間が最長でしたので、5年間繰下げたとします。この場合、42%年金額は増額されますが、受給総額が繰下げずに受け続けた場合と比較して上回るタイミングは12年後ですので、70歳から受給開始した12年後の82歳になってようやく追いつくということになります。
 
日本人の平均寿命をご存じでしょうか? 今年7月31日に厚生労働省より発表された令和元年の簡易生命表によりますと、男性81.41歳、女性87.45 歳です。そうすると、一見、男性はギリギリ届かないようにも見えるかもしれません。
 
では、平均寿命の定義をご存じでしょうか? その年生まれた赤ちゃんが残り何年生きられるかというもので、0歳児の平均余命です。繰下げを決断する人は、受給できる65歳まで生きているのですから、65歳の平均余命で見直してみます。この場合には、男性19.83ですから、84.83歳までは平均で生きられますので、82歳を超えられます。
 

繰下げについて(寿命との兼ね合い、新制度)

続いて10年間繰下げられるようになり、84%増額可能となったという新制度について、同様に考えてみます。確かに、遅らせることで、受給額を大きく増やせそうに見えます。
 
一方で、1カ月あたりの増額率は、まったく変わっていません(0.7%)ので、寿命(余命)との兼ね合いが気になります。先ほど解説したとおり、単純な計算上では、受給開始してから12年後に生きていられるかがポイントですので、そこを確認します。
 
65歳から10年繰下げると、受給開始は75歳です。そこから12年となると87歳になりますので、先ほどの男性の例では、65歳(決断時)の余命では少し足りない(84.83歳)こととなります。
 
そこで、さらに見方を変えて、受給開始時(75歳)の余命を見ると、12.41ですので、受給開始まで生きられたとすれば、87.41歳まで平均して生きられます。男性の場合もギリギリセーフといえるかもしれません。
 
ちなみに、女性の場合は、平均寿命で見ても87歳オーバーなので、繰下げの場合に長生きが必要という観点については、単純計算上ではあまり問題はなさそうです。
 
いずれにせよ、受給開始時の増額率の大きさに惑わされそうですが、必ずしも、より多く受給できるとは限りません(平均よりも早く亡くなる場合等)。とはいえ、受給開始時まで生きられれば、平均的には(平均余命で見れば)受け取れる額が少なくなることはないという設計になっていると思われます。
 
執筆者:堀内教夫


 

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