更新日: 2021.03.22 控除
医療費控除で損をしないための基礎知識
今回は、医療費控除で損をしないための注意事項をまとめてみましたが、準備中の方も早まらず、まずはこの記事を参考にしてから申告していただければと思います。
また、還付申告である医療費控除は確定申告の期限までに申告しなくても構いません。2020年分の医療費控除の申告は2021年1月1日から5年間、すなわち、2025年12月31日まで申告が可能です。その点も考慮して、効果的な医療費控除の申告をすることをお勧めします。
執筆者:浦上登(うらかみ のぼる)
サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー
東京の築地生まれ。魚市場や築地本願寺のある下町で育つ。
現在、サマーアロー・コンサルティングの代表。
ファイナンシャル・プランナーの上位資格であるCFP(日本FP協会認定)を最速で取得。証券外務員第一種(日本証券業協会認定)。
FPとしてのアドバイスの範囲は、住宅購入、子供の教育費などのライフプラン全般、定年後の働き方や年金・資産運用・相続などの老後対策等、幅広い分野をカバーし、これから人生の礎を築いていく若い人とともに、同年代の高齢者層から絶大な信頼を集めている。
2023年7月PHP研究所より「70歳の現役FPが教える60歳からの「働き方」と「お金」の正解」を出版し、好評販売中。
現在、出版を記念して、サマーアロー・コンサルティングHPで無料FP相談を受け付け中。
早稲田大学卒業後、大手重工業メーカーに勤務、海外向けプラント輸出ビジネスに携わる。今までに訪れた国は35か国を超え、海外の話題にも明るい。
サマーアロー・コンサルティングHPアドレス:https://briansummer.wixsite.com/summerarrow
医療費控除の対象となる費用、その中でも見落としがちな費用
どこまでが医療費控除の対象となるのかは、申告する側にとっては大きな問題です。常識で判断した場合、ややもすると間違ってしまうことがあります。ここでは、具体的に見落としがちな医療関係の費用について列挙したいと思います。
1. 入院費用
付添人を頼んだときの付添料は対象になります。
ただし、本人や家族の都合だけで個室に入院した場合などの差額ベッド代、入院にあたって購入した寝間着や洗面具といった身の回り品、医師や看護師に対するお礼は対象外です。このような付帯費用は控除の対象とはなりませんが、医療保険に入っておくと実質的にカバーされます(余談になりますが、医療保険の効用です)。
2. 人間ドック・健康診断の費用
通常は対象外ですが、人間ドックや健康診断の結果、重大な疾病が見つかり、その診断や治療を引き続き行った場合には、人間ドックや健康診断の費用も医療費控除の対象として認められます。
人間ドックの領収書は高額なのに医療費控除の対象にならないと捨ててしまうことが多いかもしれませんが、場合によってはしばらくして治療が必要となることがあるので、保管しておくことをお勧めします。
3. 出産費用
妊娠と診断後の定期検診や検査などの費用、助産師による分べん介助の対価は医療費控除の対象になります。
交通費については後段でも述べますが、出産で入院する際に電車、バスなどの通常の交通手段による移動が困難なためタクシーを利用した場合、そのタクシー代は医療費控除の対象です。ただし、実家で出産するために帰省する際の交通費は医療費控除の対象にはならないので注意してください。
4. 眼科関係の費用
弱視、斜視、白内障、緑内障などで治療に必要なため、医師の指示により購入したメガネ代は対象です(一般的な近視や遠視の矯正、老眼で購入したメガネ代やコンタクトレンズ代、それらを作るための検査費用は対象外)。レーシック手術などの近視治療も対象となります。
5. 歯科関係の費用
歯の治療材料として金やポーセレンを使った場合の治療費は対象です。
歯列矯正を受ける人の年齢、矯正の目的などから歯列矯正が必要と認められる場合の矯正費用、例えば子どものかみ合わせ矯正のための費用などは対象となります(ただし、美容整形目的の費用は対象外)。つまり、治療目的であれば対象、美容整形目的であれば対象外という考え方のようです。
6. その他
マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師による施術の対価は対象です(疲労回復や体調を整えるなど、治療に直接関係のないものは対象外)。
7. 通院のための交通費
往々にして忘れやすいのが、通院・入院のための交通費です。通院の回数が多い場合や、遠距離の場合は交通費もばかになりません。
これらの通院・入院のための交通費は対象になります。通常は領収書をもらうことは難しいのですが、通院の日付とルートを記録しておけば問題ありません。子どもが診療を受けるときの付き添い者の交通費も認められます。
また、出産や重病で入院するなど、やむを得ない場合のタクシー代も認められるようですが、自家用車で通院した場合のガソリン代、駐車場代などは認められないので注意してください。
「保険金などで補てんされる金額」について
医療費控除申告の際には、「実際に支払った医療費の合計額」から「保険金などで補てんされる金額」および10万円(その年の総所得金額などが200万円以上の場合)を差し引かねばならないと決められています。
国税庁のホームページでは「保険金などで補てんされる金額」として、具体的に次の列が挙げられています。
「生命保険契約などで支給される入院費給付金や健康保険などで支給される高額療養費・家族療養費・出産育児一時金など」
それはそのとおりなのですが、申告にあたって注意しなければならない事項があります。
個人的に加入した医療保険等で、手術費や入院費が支払われた場合
例えば、骨折で入院して手術した際、医療保険から手術費と入院費が支払われたとします。こうした場合、支払われた給付金をその年の医療費全体から差し引かねばならないのでしょうか?
その必要はありません。骨折に関連して支払った医療費から差し引けば事足ります。
2020年分医療費
(1) 実際に支払った医療費の合計額
骨折による入院・手術費等 15万5000円
内科診療費 2万4000円
歯科通院費 5万6000円
その他費用 10万円
医療費計 33万5000円
(2) 保険金などで補てんされる金額
医療保険からの給付金 25万円
この場合、(1)から(2)を差し引くと次のようになり、2020年分の医療費控除額はゼロになってしまいます。
33万5000円-25万円(保険金などで補てんされる金額)-10万円= -1万5000円(すなわち、0円)
ところが、給付金があるからといってここまで差し引く必要はありません。「保険金などで補てんされる金額」は給付金の対象となる費用が上限です。この場合、骨折による入院・手術費など15万5000円が上限となるので、15万5000円を差し引くだけでよいということになります。
そうすると、2020年分の医療費控除額は次のとおりとなります。
33万5000円-15万5000円(保険金などで補てんされる金額)-10万円=8万円
すなわち、2020年分の医療費控除額は8万円ということになります。
個人的に加入した医療保険等で、がん診断給付金が支払われた場合
がん保険に加入されている方は多いと思います。その場合、がんになったという医師の診断書を提出すると、100万円程度のがん診断給付金が支払われる契約があります。
まとめて100万円程度の大金がもらえると、経済的にも、精神的にも大きな支えになるのですが、がん診断給付金は「保険金などで補てんされる金額」として、医療費から差し引かねばならないのでしょうか?
答えはNoです。
国税庁の電話相談センターに問い合わせてみたところ、「がん診断給付金は、具体的な入院や手術に対してではなく、がんになったという事実に対して支払われるものなので、医療費から差し引く必要はない」との回答でした。
骨折の場合と同じく、給付金がカバーした事象に関する費用のみを差し引けばよいということで、がん診断給付金とは具体的な事象をカバーするものではないため、医療費から差し引く対象ではないという考え方のようです。
保険契約によっては7大疾病になった場合、診断給付金が下りるという契約もあるのですが、こちらも考え方は同じとのことでした。
出産手当金を受け取った場合
健康保険組合や共済組合などから、出産育児一時金や家族出産育児一時金、または出産費や配偶者出産費などが支給されますが、その金額は医療費控除の額を計算する際に医療費から差し引く必要があります。
ただし、出産前後の一定期間勤務できないことに起因して、健康保険法等の規定により給付される出産手当金は医療費を補てんする性格のものではないので医療費控除の計算上、差し引く必要はありません。
社会保険についても民間保険と同様、直接的・具体的な費用を補てんする場合は医療費から差し引く、一般的な給付の場合は差し引く必要はないとの考え方のようです。出産手当金は、給与を補てんするものと位置づけられているのだと思います。
もし申告漏れがあったら?
冒頭で述べたように、医療費控除の還付申告は5年間有効です。
もし、以前に還付申告をしていて、その際に例えば、がん診断給付金などを医療費から控除してしまった場合でも、還付申告から5年以内なら更正の請求という制度があり、再度申告をして還付請求をすることができます。
また、税の問題は微妙なので、疑問を感じた場合は国税庁の電話相談センターに相談することをお勧めします。所轄の税務署に電話をすると自動案内で電話相談センターにつないでくれるので、疑問点が生じたら直接確認してみてください。
出典
国税庁 No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)
執筆者:浦上登
サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー