更新日: 2021.08.20 控除
「税金がかかるから100万円以上は稼ぎたくありません」はホントに正しい?
執筆者:前田菜緒(まえだ なお)
FPオフィス And Asset 代表、CFP、FP相談ねっと認定FP、夫婦問題診断士
保険代理店勤務を経て独立。高齢出産夫婦が2人目を産み、マイホームを購入しても子どもが健全な環境で育ち、人生が黒字になるようライフプラン設計を行っている。子どもが寝てからでも相談できるよう、夜も相談業務を行っている。著書に「書けばわかる!わが家の家計にピッタリな子育て&教育費のかけ方」(翔泳社)
年収100万円は税金がかからない年収ライン
美希さんは実家暮らしの28歳の独身女性です。10ヶ月ほど前に会社を退職し、現在は無職。そろそろ働きに行こうとパートの仕事を探しています。働く条件として年収100万円以上は稼ぎたくないと考えていますが、その理由は税金がかかるから。
確かに、年収100万円を超えると税金がかかってきます。税金には所得税と住民税がありますが、所得税がかかってくる目安の年収は103万円、住民税は住んでいる地域によりますが、東京の場合、配偶者や扶養親族がいなければ100万円です。
したがって、美希さんが考える100万円以上稼ぐと税金がかかるという考えは間違っていません。問題は100万円以上稼ぐと税金がかかるから稼ぎたくないという判断が美希さんにとって正しいかどうかです。
年収100万円を超えるとどうなる?
美希さんは、かたくなに100万円以上稼ぎたくないと思っているようでした。収入があれば税金がかかることは当然ですし、税金がかかることを恐れ、年収を抑えると収入は低いままです。
なぜ、そこまでこだわるのか、どの程度税金がかかるのかと思っているのか聞いたところ、「所得税は分からないけれど、住民税は20万円ほどかかるから」との回答がありました。理由は、美希さんが会社員として働いていた時、住民税がとても高いという印象が強く、その時の金額が約20万円だったそうです。
しかし、当時の年収は約400万円。年収400万円と同じだけの税金が、年収100万円にはかかりません。仮に年収100万円を20万円オーバーし、120万円稼いだとして税金を計算してみましょう。
この場合、所得税は約9000円、住民税は約2万円でしょう。これは年間の税額です。100万円から120万円に年収を増やすと税金が約3万円増える計算です。住民税だけで20万円かかると思っていた美希さんは「それだけ?」という反応でした。
住民税は前年の所得に対して課税されるため、今回、美希さんは無職になってから住民税を納めました。その際、とても高いという印象が強く残り、かたくなに住民税がかからない年収にこだわっていたようです。
しかし、そもそも税金が高いということは、年収も高いということです。美希さんはまだ20代ですし独身であることを考えると、働けるうちに働き、貯蓄を増やしたほうが、将来を考えると安心できるのではないでしょうか。
病気で働けなくなったり、出産や親の介護などで働くことを制限せざるをえなくなったりするかもしれません。働けるということは、視点を変えると恵まれた状況ともいえます。
年収を抑える場合は具体的に計算を
税金が増えるから、〇〇が受けられないから、と年収をセーブすることを考えるケースはあると思います。
しかし、大抵の場合、その計算には税金の知識が必要なため、正しい判断ができていない人は少なくありません。税金は稼いだ以上に差し引かれることはありません。10万円多く稼いだら10万円以上の税金がかかることはないのです。
年収をセーブすると家計にも余裕は生まれないかもしれません。自分の働き方や年収を考える際は、いくら稼ぐといくら手元に残るお金が減るのか、正しい判断のもと将来のキャリアまで含めて考えてみる必要があるでしょう。
執筆者:前田菜緒
FPオフィス And Asset 代表
1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP(R)認定者
確定拠出年金相談ねっと認定FP、2019年FP協会広報スタッフ