海外勤務で「所得税」に差が? 覚えておきたい「居住者」と「非居住者」の違いを解説
配信日: 2022.06.08
つまり、個人の所得税の納税義務については「居住者」、「非居住者」の2つで定義されることになります。ここでは、長期にわたり海外勤務する場合などに覚えておきたい、所得税の課税範囲の違いについて確認してみたいと思います。
執筆者:高橋庸夫(たかはし つねお)
ファイナンシャル・プランナー
住宅ローンアドバイザー ,宅地建物取引士, マンション管理士, 防災士
サラリーマン生活24年、その間10回以上の転勤を経験し、全国各所に居住。早期退職後は、新たな知識習得に貪欲に努めるとともに、自らが経験した「サラリーマンの退職、住宅ローン、子育て教育、資産運用」などの実体験をベースとして、個別相談、セミナー講師など精力的に活動。また、マンション管理士として管理組合運営や役員やマンション居住者への支援を実施。妻と長女と犬1匹。
居住者であるかのキーワードは「住所」と「居所」
まず最初に、「居住者」の定義について確認します。日本の所得税における居住者とは、国内に「住所」を有するか、または、現在まで引き続き1年以上「居所」を有する個人と定められています。そして、それ以外の個人が非居住者です。
1つ目のキーワードの「住所」とは、個人の生活の本拠(その人の生活の中心)のことをいいます。その判定は、住居、職業、資産の所在、親族の居住状況、国籍などの客観的事実によって判定することとされています。
ただし、日本に居住することとなった個人(外国人など)が、国内で職業に就く場合などのために継続して1年以上の居住が必要となるケースでは、その方の住所は日本国内にあると推定され、居住者となります。
一方、2つ目のキーワードの「居所」とは、その人の生活の本拠ではないが、現実に居住している場所のことをいいます。引き続き1年以上となるか、その起算については日本に入国した翌日から判定するとされています。
例えば、日本に居住している途中で国外に一時帰国して、再度入国した場合であっても、その出国が一時的なものと認められるのであれば、その期間も国内に居所を有するものとして扱われる場合があります。
つまり、居住者の判定は、その方の生活の本拠(住所)を有しているか、また、たとえ住所が日本国内にない場合であっても、入国から1年を経過しているかがポイントとなります。
「非永住者」と「非永住者以外」の判定
居住者は「非永住者」と「非永住者以外」の2つに分類され、それぞれ所得税の課税範囲が異なります。非永住者とは、居住者のうち日本国籍がなく、かつ過去10年以内の間に国内に住所、または居所を有していた期間の合計が5年以下の個人のことをいいます。
それ以外の個人が非永住者以外となりますが、当然ながら日本に住む日本人(日本国籍)の方は、非永住者以外に分類されるでしょう。
3つの区分の所得税の課税範囲
これまでの説明を総合すると、個人の所得税の課税範囲は、居住者(非永住者)、居住者(非永住者以外)、非居住者の3つに分類され、それぞれ定義されることになります。
(1)居住者(非永住者)の場合の課税範囲
日本国内で生じた給与や報酬などをはじめ、国内で稼いだ所得が課税対象になります。また、国外の所得については、日本で支払われたものや日本に送金されたものがあれば、その部分のみに日本の所得税が課税されます。
(2)居住者(非永住者以外)の場合の課税範囲
日本国内、国外で生じたすべての所得が、日本の所得税の課税対象となります。
(3)非居住者の場合の課税範囲
日本国内での「国内源泉所得」についてのみ、日本の所得税の課税対象となります。国内源泉所得とは、日本国内での勤務などで受け取った給与や報酬に対する所得や、土地・建物の譲渡対価などが該当します。
非居住者の場合は、国外で生じた所得には日本の所得税が課税されることはありません。
まとめ
例えば、あなたが突然会社から長期の海外勤務を命じられたとします。
当初は1年未満の予定で出国し、その後の事情で1年以上となることが明らかになった場合、出国した時点では「居住者」となりますが、期間が1年以上になると明確になった日以降は「非居住者」となり、それぞれ日本の所得税の課税範囲が異なるのは前述したとおりです。
いざというときのために、所得税については「住所」、「居所」、「1年以上経過」、「過去10年以内に5年超」などのキーワードの意味を理解しておきましょう。
出典
国税庁 No.2875 居住者と非居住者の区分
国税庁 No.2878 国内源泉所得の範囲(平成29年分以降)
国税庁 No.2010 納税義務者となる個人
執筆者:高橋庸夫
ファイナンシャル・プランナー