すぐわかる税金の話 年収300万円以下の副業は雑所得で税務メリットが減少、サラリーマンの副業に暗雲か? その3
配信日: 2022.11.19
「その3」では、改正案に対する運用上の疑問点について言及していきます。
執筆者:浦上登(うらかみ のぼる)
サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー
東京の築地生まれ。魚市場や築地本願寺のある下町で育つ。
現在、サマーアロー・コンサルティングの代表。
ファイナンシャル・プランナーの上位資格であるCFP(日本FP協会認定)を最速で取得。証券外務員第一種(日本証券業協会認定)。
FPとしてのアドバイスの範囲は、住宅購入、子供の教育費などのライフプラン全般、定年後の働き方や年金・資産運用・相続などの老後対策等、幅広い分野をカバーし、これから人生の礎を築いていく若い人とともに、同年代の高齢者層から絶大な信頼を集めている。
2023年7月PHP研究所より「70歳の現役FPが教える60歳からの「働き方」と「お金」の正解」を出版し、好評販売中。
現在、出版を記念して、サマーアロー・コンサルティングHPで無料FP相談を受け付け中。
早稲田大学卒業後、大手重工業メーカーに勤務、海外向けプラント輸出ビジネスに携わる。今までに訪れた国は35か国を超え、海外の話題にも明るい。
サマーアロー・コンサルティングHPアドレス:https://briansummer.wixsite.com/summerarrow
「主たる所得」とは?
国税庁の改正案ではサラリーマンの副業が事業所得として認められる基準として、所得を得るための活動が事業性を有し、かつ、その所得が「主たる所得」である、または所得が300万円を超えている条件というがあります。それでは、「主たる所得」であるか否かはどう判断するのでしょうか?
事業所得自体は「事業収入-(経費+所得控除)」で決まり、それを求める計算も複雑なので、「主たる所得」は収入で判断するものと思われます。ただし、例えば給与収入が302万円で、事業に関する収入が299万円のような場合、3万円でも多い方を「主たる所得」と判断するのでしょうか?
両方の収入を比較してほぼ同等である場合は、複数の「主たる所得」があると考えるのが妥当と思われます。その場合、事業に関する収入を事業所得とするのか、それとも雑所得とするのかは別途、取り決めが必要でしょう(「その2」で解説した「事業性」の有無で判断する方法があります)。
しかし、所得は年々変わるものであり、極論すると1円でも多い方を「主たる所得」とするというのであれば、そのルール付けは疑問です。
事業に関する収入が年ごとに300万円を前後する場合
「その2」では、改正案により事業に関する収入が300万円を境目として、事業所得になるのか、雑所得になるのかが決まるという点について説明しました。
そうであれば、例えばサラリーマンの副業の収入が2022年は310万円、2023年は280万円、2024年は320万円となる場合、副業に関する所得の判定と、それに伴う税務メリットの取り扱いはどうなるのでしょうか?
仮に2022年と2024年が事業所得、2023年が雑所得になるとします。
その場合、「青色申告特別控除は、年によってあったりなかったりする」「青色申告専従者給与についても、年によって経費になったり、ならなかったりする」、また「個人事業主は年末になるまで売り上げがいくらになるか分からないので、複式簿記を付け続ける」(ただし雑所得なら帳簿は不要)ということになるのでしょうか?
年ごとに税務上の取り扱いが変わるのは、非常に不安定な気がします。
収入によって所得の種類が変わるのなら
例えば、サラリーマンが「せどり」(あるものを転売して利益を稼ぐ行為)などの副業を行っている場合、商品の仕入れコストなど仕入れにかかる費用が原価になるので、売上高は利益に比べて大きくなります。その場合、売上高を300万円以上にすることは、それほど難しくないかもしれません。
これに対して例えばYouTuberの場合などは、収入に外部からの仕入れコストなど大きな原価は含まれないため、300万円を超える報酬を稼ぐことはそう簡単ではないでしょう。
事業の性格によって、事業所得か雑所得かの分かれ目である年収300万円を達成するハードルが高くなったり、低くなったりします。いずれにしろ、定量的な基準が所得でなく、収入で設定されていることに注目する必要があります。
特に反証がない限り
収入が300万円を超えない場合でも、所得の扱いが無条件で雑所得になるわけではありません。しかるべき「反証」をすれば、事業所得として認められる可能性があります。
例えば、サラリーマンで給与所得があるが、副業にもかなりの精力を注いでいて、数年間にわたってコンスタントな収入があれば、それは事業所得であるという主張ができるかもしれません。
また、上記のように継続的に精力を注いで副業を行っていて、かつ、これまでは300万円超の収入があったが、たまたまコロナ禍などにより収入が300万円以下になったような場合は、事業所と認められる可能性があります。
ただし、すべての法律行為において、立証責任を負うことのハードルは非常に高いのが現実で、そう簡単にできることではありません。
まとめ
「その3」では、国税庁による改正案の運用上の疑問点について言及しました。次回「その4」では、改正案に関する総括をしてみたいと思います。
出典
国税庁 「所得税基本通達の制定について」(法令解釈通達)の一部改正(案)の概要
執筆者:浦上登
サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー