「プロ棋士」から学ぶフリーランス経費の考え方とは? 活躍するほど「税金がかかる」って本当?

配信日: 2023.05.08

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「プロ棋士」から学ぶフリーランス経費の考え方とは? 活躍するほど「税金がかかる」って本当?
藤井聡太六冠の活躍で将棋界が盛り上がっています。将棋に詳しい人以外にも、プロの将棋棋士の食べるおやつや食事なども注目されるようになりました。棋士の生活の様子も身近な存在に感じられるようになってきたようです。
 
プロ棋士も生活のために収入を得て確定申告をします。棋士の経費には、タイトル戦用の和服や人工知能(AI)研究用のパソコン、地方から上京して研究会で使うマンションの賃料などがあります。
 
プロ棋士の知られざる経費を通して、経費の仕組みを学びましょう。
二角貴博

執筆者:二角貴博(ふたかど たかひろ)

2級ファイナンシャルプランナー

日本将棋連盟が発表した2022年獲得賞金・対局料ベスト10

日本将棋連盟に所属しているプロの将棋棋士は個人事業主です。現在、名人位挑戦中で最も注目されている藤井聡太六冠も同じで、対局料やタイトルの獲得賞金・アマチュアへの指導料・コマーシャル(CM)の契約料などで収入を得ています。
 
日本将棋連盟が発表した2022年獲得賞金・対局料ベスト10によると、最も稼いだ藤井竜王の獲得賞金と対局料は1億2205万円です。このほかにもCMの契約料などがありますが公表はされていません。本業では2023年に入ってから棋王位を獲得しているので、来年の収入金額はさらに上がるでしょう。
 

プロ棋士の経費は

収入に対してプロ棋士の経費はあまりありません。プロ棋士が給与所得者であれば給与所得控除が適用されるのですが、個人事業主はかかった経費を積み上げるしかないのです。
 
所得税での経費は次のように定められています。

・総収入金額に対応する売上原価その他その総収入金額を得るために直接要した費用の額
・その年に生じた販売費、一般管理費その他業務上の費用の額

プロ棋士が収入額を得るために直接要した経費には、次のようなものが考えられます。

(1)タイトル戦用の和服
(2)研究用のパソコン
(3)地方から上京して研究会で使うマンションの賃料
(4)スケジュール管理や取材対応などの事務をしてもらう親族に対する専従者給与支払い

 
(1)個人事業主のスーツ代は経費にはなりませんが、プロ棋士がタイトル戦でしか着用しない和服の購入費や管理費は経費です。和服を購入するには、数10万円から100万円程度かかるといわれています。
 
(2)将棋の研究では、非常に高性能なパソコンが使われます。藤井六冠が使用しているようなハイエンドパソコンは200万円程度するといわれています。個人事業主が購入する備品は、減価償却の対象です。
 
(3)地方に住んでいるプロ棋士は、対局の際は東京か関西の将棋会館などへ出向くことが必要です。そのため東京や関西に引っ越す棋士もいますが、藤井六冠のように対局の度に名古屋から上京する棋士もいます。対局は深夜まで行うことがあるため、ホテルに宿泊するかアパートなどを用意する必要があります。
 
パソコンによる研究が進む前は、プロ棋士は棋士同士や奨励会(棋士の養成機関)との研究会がよく開催されていました。今でもパソコンだけではなく生身の人間と対局して研究する場合には、アパート等の拠点が必要となります。これは普段の居住用ではないので、経費として認められる可能性があります。
 
(4)個人事業主は経費として、生計を同じくする親族に対して専従者給与を支払えます。白色申告なら配偶者に86万円、その他の親族には50万円まで支払い可能です。青色申告の場合は適切な金額であれば上限はありません。
 

経費以外の節税対策は

確定申告の際、経費を計上しますが、それ以外に個人事業主ができる節税策には次のものがあります。

・小規模企業共済への加入(個人事業主などが退職金を積み立てるもの)
・個人型確定拠出年金(iDeCo)(老後の生活資金のために運用するもの)
・ふるさと納税(原則として寄付金額から2000円を引いた額が控除される)

どれも所得控除や税額控除を受けられるので、効果の高い節税策です。
 

高額所得者は社会保険の負担が大きく控除が受けられない

トップ棋士のような高額所得者は、受けられない控除があります。
 

社会保険の負担

個人事業主は社会保険に加入できないので、自分で国民年金保険料や国民健康保険料を納める必要があります。

国民年金保険料 1万6520円(2023年度の月額)

国民健康保険料 104万円(愛知県名古屋市の限度額)

 

所得税法上の控除が不適用

社会保険の負担が大きいだけではなく、所得税法上の控除を受けられない場合があります。
 
(1) 配偶者特別控除
配偶者特別控除は、図表1のとおりに配偶者の所得が48万円を超えるため、配偶者控除が適用されない場合でも所得によって段階的に所得控除が受けられるものです。ただし、納税者本人の合計所得が1000万円以下の場合が対象なので、高額所得者は適用されません(図表1)。
 
【図表1】


 
国税庁 No.1195 配偶者特別控除
 
(2) 住宅ローン控除
住宅ローン控除は、住宅を購入するなどした場合、一定の条件を満たせば受けられる控除です。合計所得が3000万円以下の場合に適用されます(一部条件では、1000万円以下)。合計所得が3000万円を超えた年度は、控除が受けられません。
 
(3) 基礎控除
図表2のとおり、納税者本人の所得が2500万円を超えると基礎控除も受けられません。
 
【図表2】

 
国税庁 No.1199 基礎控除
 

所得税の最高税率や消費税の申告も

所得税の税率は所得金額によって、図表3のとおりに分かれています。
 
【図表3】


 
国税庁 No.2260 所得税の税率
 
所得税と住民税(一律10%)をあわせると、税率は15~55%です。所得金額が4000万円以上の場合は、所得税と住民税をあわせて最大税率の55%が課税されるのです。
 
また、前々年の事業年度の課税売上高が1000万円を超えた場合は、消費税の申告も必要です。プロ棋士の藤井六冠も例外ではありません。
 

将棋界では名人戦ほかタイトル戦が進行中

将棋界で年収が1000万円を超える人はそれほど多くないといわれています。年収の多い棋士は少ないですが、経費の種類は少ないのが現状です。活躍すれば多くの税金がかかることになります。
 
4月からは将棋タイトル戦の最高峰の1つである名人戦が進行中です。また、8大タイトルの1つである叡王(えいおう)戦も同時期に行われ、どちらも藤井六冠が対局して注目を集めています。対局の日は全国ニュースになる熱狂ぶりです。
 
仕入れなどがないためほかの個人事業主に比べると経費にできるものは少ないですが、将棋界のために末永い活躍を期待したいです。
 

出典

日本将棋連盟 2022年獲得賞金・対局料ベスト10
国税庁 No.2210 やさしい必要経費の知識
国税庁 No.1195 配偶者特別控除
国税庁 No.1199 基礎控除
国税庁 No.2260 所得税の税率
 
執筆者:二角貴博
2級ファイナンシャルプランナー

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