更新日: 2020.03.22 控除

雑損控除ってなに? 対象と計算方法を解説

雑損控除ってなに? 対象と計算方法を解説
日々の生活において、台風や地震に伴った災害にあったり、家や家財道具に損害を受ける可能性があると思います。
 
また、盗難により財産を失うようなこともあるかもしれません。こういった状況になった場合に対応できるように、「雑損控除」の概要や対象となる資産について解説することにします。
 
伏見昌樹

執筆者:伏見昌樹(ふしみ まさき)

ファイナンシャル・プランナー

大学卒業後公認会計士試験や簿記検定試験にチャレンジし、公認会計士試験第二次試験短答式試験に合格や日本商工会議所主催簿記検定1級に合格する。その後、一般企業の経理や県税事務所に勤務する。なお、ファイナンシャル・プランナーとして、2級ファイナンシャル・プランニング技能士・AFP合格した後、伏見FP事務所を設立し代表に就き今日に至る。

雑損控除ってなに?

国税庁のホームページによると、「雑損控除」とは、「災害又は盗難若しくは横領によって、資産について損害を受けた場合等」に受けることができる「所得控除」の一つのことです(※1)。
 

対象となる資産はなに?

「雑損控除」の対象となる資産とは、以下の要件を満たしているものになります。
 
(1)資産の所有者が次のいずれかであること。
イ 納税者
ロ 納税者と生計を一にする配偶者やその他の親族で、その年の総所得金額等が38万円以下(令和2年分以降は48万円以下)の者
(2) 「棚卸資産」もしくは「事業用固定資産等」または別荘など趣味、娯楽、保養または鑑賞の目的で保有する不動産で、「生活に通常必要でない資産」のいずれにも該当しない資産であること。
(※1より一部引用)
 

損害の原因によって違う?

「雑損控除」が適用される「損害の原因」は、次のいずれかの場合に限られます。
 
「(1)震災、風水害、冷害、雪害、落雷など自然現象の異変による災害
(2)火災、火薬類の爆発など人為による異常な災害
(3)害虫などの生物による異常な災害
(4)盗難
(5)横領
なお、詐欺や恐喝の場合には、雑損控除は受けられません。」
(※1より引用)
 
なぜ、詐欺と盗難・横領で、「雑損控除」を受けることができるかに差が出るかというと、詐欺は「被害者本人の意思」で行われたものであり、盗難・横領は「本人の意思とは関係ないところ」で行われたものであるという違いがあるからです。
 

雑損控除はどのくらいの金額が戻ってくるの?

「雑損控除」の金額は、次の二つのいずれか多い方の金額になります(※1)。
 
(1)(差引損失額)-(総所得金額等)×10%
(2)(差引損失額のうち災害関連支出の金額)-5万円
 
このうち、「総所得金額等」とは、次の【1】と【2】の合計額に、退職所得金額、山林所得金額を加算した金額です(※3)。
 
【1】事業所得、不動産所得、給与所得、総合課税の利子所得・配当所得・短期譲渡所得および雑所得
【2】総合課税の超過譲渡所得と一時所得の合計額(損益通算の金額)の2分の1の金額
 
また、「差引損失額」とは、以下のようになります(※1)。
 
差引損失額=損害金額+災害等に関連したやむを得ない支出の金額-保険金などにより補てんされる金額
 
これらを踏まえ、「雑損控除」を受けることができた場合、具体的にどの程度の金額が還付されるかについて、以下の3つのケースで説明します。
 

ケース1

<設例>
損害額4000万円、災害等に関連したやむを得ない支出の金額は1000万円、保険金3000万円、総所得金額等500万円
 
<差引損失額>
差引損失額=4000万円+1000万円-3000万円=2000万円
 
<計算式>
(1)2000万円-500万円×10%=1950万円
(2)1000万円-5万円=995万円
(3)(1)>(2)
よって、1950万円が雑損控除の金額になります。
 
<解説>
ケース1は、(1)において、差引損失額が総所得金額等の10%を控除した金額よりも多額であり、また、(2)の災害等に関連したやむを得ない支出の金額から5万円控除した金額よりも多額であるため、(1)の計算式が適用されることになります。
 

ケース2

損害額500万円、災害等に関連したやむを得ない支出の金額は0円、保険金500万円、総所得金額等500万円
 
<差引損失額>
差引損失額=500万円+0円-500万円=0円
 
<計算式>
(1)0円-500万円×10%=-50万円
(2)0円-5万円=-5万円
(3)両者とも、ゼロ以下
よって、雑損控除はなし。
 
<解説>
ケース2は、損害額と、災害等に関連したやむを得ない支出の金額の合計が、保険金の金額を超えなかったため、計算式(1)が0円になりました。また、災害等に関連したやむを得ない支出の金額が0円だったため、計算式(2)は、-5万円となり、「雑損控除」の適用がありません。
 

ケース3

損害額1000万円、災害等に関連したやむを得ない支出の金額は1000万円、保険金1000万円、総所得金額等500万円
 
<差引損失額>
差引損失額=1000万円+1000万円-1000万円=1000万円
 
<雑損控除>
(1)1000万円-500万円×10%=950万円
(2)1000万円-5万円=995万円
(3)(2)>(1)
よって、995万円が雑損控除の金額になります。
 
<解説>
ケース3は、(1)の計算式では、差引損失額が1000万円であり、総所得金額等の10%を控除した金額よりも多額、かつ、(2)の計算式では、災害等に関連したやむを得ない支出の金額が5万円を超えるものの、(1)で求めた金額を超えないため、(2)の計算式により雑損控除を計算します。
 

雑損控除を受けるための手順

雑損控除を受けるためには確定申告の手続きが必要です。詳しくは、以下のようになります(※1)。
 
<準備>
「災害等に関連したやむを得ない支出の金額の領収を証する書類」を準備します。
 
<手順>
(1)上述の書類をもとに、確定申告書に「雑損控除」に関する事項を記載します。
(2)災害等に関連したやむを得ない支出の金額の領収を証する書類を添付するか、提示をします。
(3)(1)と(2)の書類を作成して、所管税務署に提出し、確定申告の手続きをします。
 

知っておきたい! 災害減免法による所得税の軽減免除

災害によって損害を受けたとき、その損害について雑損控除の適用を受けられない場合は、「災害減免法による所得税の軽減免除」が受けられることがあります。その概要と免除される税額は、以下のようになります。
 
<概要>
災害によって、住宅や家財に損害を受け、その損害金額(保険金などにより補てんされる金額を除く)が、その時価の2分の1以上で、なおかつ、災害にあった年の所得金額が合計1000万円以下のとき、その損失額について雑損控除の適用を受けることができない場合は、「災害減免法の特例」が優先的に適用されることになります。これにより、その年の所得税が軽減、または免除されます。
 
<免除される税額>
(1)所得金額の合計額が500万円以下:所得税額の額の全額
(2)所得金額の合計額が500万円を超え750万円以下:所得税額の2分の1
(3)所得税額の合計額が750万円を超え1000万円以下:所得税額の4分の1
(※2より一部引用)
 

まとめ

「雑損控除」という制度があるということを覚えておくと、災害や盗難にあうという万が一の事態になっても金銭的な補てんを受けることができます。災害や盗難になっても泣き寝入りをせず、「雑損控除」の申告をしましょう。
 
[出典]
(※1)国税庁「No.1110 災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)」
(※2)国税庁「No.1902 災害減免法による所得税の軽減免除」
(※3)国税庁「総所得金額等」
 
執筆者:伏見昌樹
ファイナンシャル・プランナー


 

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