執筆者: FINANCIAL FIELD編集部
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「老健医師」とはどのような働き方をするのだろうか、と気になりませんか? 老健医師は、介護老人保健施設で働く医師であり、健康診断業務やスタッフの統括を行い、施設の責任者として仕事をすることになります。
また、老健医師の目的は利用者等の在宅復帰が目的であり、大きな治療を行うことは少なく、ワークライフバランスを充実させやすいため、セカンドキャリアにおすすめです。
本記事では、老健医師の働き方について解説いたします。
目次
老健医師とは?
老健医師とは、介護老人医療施設(老健)で働く医師のことです。老健は、65歳以上の高齢者かつ要介護1以上の方を対象にした施設であり、在宅復帰を支援することが目的の施設です。老健医師は、利用者の健康管理やリハビリ指導、医療対応などを行います。利用者やその家族とコミュニケーションを取りながら、在宅復帰の支援に尽力することが老健医師の仕事です。
また、入所者に限らず、退所した高齢者の在宅生活の維持も担当します。訪問リハビリやショートステイ、通所などを通じて、その支援を行い、在宅介護を行う家族の負担を軽減することも重要な役割となります。
老人介護医療施設とは?
老人介護医療施設(老健)は、高齢者で介護が必要な方々を対象に、医学的な管理を基に自立支援や在宅復帰を目指す施設です。医師だけでなく、配置基準を基に、看護師や介護士、作業療法士、理学療法士などの専門スタッフが在籍しています。
介護や看護、リハビリ、栄養管理などのケアサービスを提供しています。利用対象者は介護保険の被保険者であり、要介護1から5の方々が該当者です。施設は利用者の在宅復帰を支援するために、質の高いケアサービスを提供しています。地域に開かれた存在であり、利用者のニーズに柔軟に応える施設となっています。
また、介護予防を含む啓発活動なども行っており、利用者と家族の快適な生活を支援するサービスを提供しています。
老健と特養の違い
老健(介護老人保健施設)と特養(特別養護老人ホーム)は同じ高齢者向けの施設となっていますが、その目的と入所可能期間、入所対象者が異なるという違いがあります。
例えば、老健は65歳以上で要介護1以上の高齢者の方が入居対象です。リハビリや医療ケアに重点を置いています。入所期間も原則として3ヶ月であり、自宅復帰が前提となります。一方で、特養は原則として要介護3以上の高齢者が対象であり、入所期間の制限はありません。特養では生活支援が中心となり、レクリエーションやコミュニティ活動が充実しています。
どちらも入所にあたっては、要介護認定が必要となります。詳細は、以下の図表1のとおりです。
【図表1】老健と特養の違い
介護老人保健施設(老健) | 特別養護老人ホーム(特養) | |
---|---|---|
入所に必要な要介護度 | 要介護1以上 | 原則として要介護3以上 ※要介護度1または2でも、特例入所が認められる可能性もある |
目的 | 在宅復帰 | 介護 |
提供サービス | リハビリ、医療ケア | レクリエーションやコミュニティ活動 |
入所可能期間 | 原則3ヶ月まで | 生涯入所可能 |
※大分県 特養に入所できるのは 原則として要介護3以上の方となります/厚生労働省 介護老人保健施設を基に作成
老健と特養は間違いやすいですが、目的や期間などが大きく違うことが分かります。
老健は3ヶ月程度の利用制限がある一方で、特養は生涯利用が可能という点もあり、特養には入所希望者が待機することがあると言われています。老健を利用しつつ、特養への入居を待っている入所者の方も存在します。
老健医師の業務内容
老健医師の業務内容は、以下のとおりです。
●診察と健康管理、指導
●看護師等の統括
●職員の配置を決定する
●施設の財務管理など経営事項への参画
それぞれについて解説します。
老健医師の業務内容(1)診察と健康管理、指導
診察は、老健医師にとって非常に重要な業務です。利用者の健康状態を週に1回程度の診察で把握し、健康状態や症状の変化を確認すると共に、治療や処方を行い、看護師などの専門職に対して指示を出します。
要介護度が低く、病状の安定した利用者が多いため、緊急対応は少ない傾向にあります。緊急の医療処置や入院が必要な場合には、協力病院等への転院を検討することもあります。利用者との信頼関係を築きながら、病状の変化や健康に関するリスクに敏感に対応し、総合的な医療ケアを提供することと、入所者の在宅復帰を目指すことが老健医師の役割です。
また、入所者の健康管理や健康に関する指導を行います。入居者の身体的な状態や生活環境を確認し、必要に応じて検査や処置を行います。
老健医師の業務内容(2)看護師等の統括
老健医師の業務には、「看護師等の統括」が含まれます。老健医師は医療スタッフの統括も重要な業務です。施設内には看護師や介護士、作業療法士など多岐にわたる専門職が従事しています。
老健医師はこれらのスタッフをまとめ、チームとして連携し、利用者への総合的な医療・ケアを提供します。チームワークが重要な仕事でもあり、スタッフの管理をしっかりと行うことも業務の一環として求められます。
老健医師の業務内容(3)職員の配置を決定する
老健医師は、業務の一環として、「職員の配置決定」を行うことがあります。施設内でのスタッフの配置は、入居者の健康管理や施設の業務の質に直結する重要な仕事です。
老健医師は医療のプロとして、各職種が協力し合って効果的かつ円滑に業務を遂行できるような人員配置を考え、決定します。職員の配置には、看護師、介護士、リハビリスタッフ、栄養士、作業療法士など、さまざまな専門職が含まれます。
老健医師の業務内容(4)施設の財務管理など経営事項への参画
老健医師の業務内容には、「財務管理などの経営事項への参画」が含まれることあります。
具体的には、収入として、入居者が支払う施設利用料の把握が求められるでしょう。また、支出に関しては、光熱費や人件費などの管理を行います。ですので、老健医師は施設運営に関わる財務について、大まかに把握することが求められます。
老健医師の業務内容(5)入居者の受け入れの可否を決定する
老健医師の業務は、「入居者を受け入れるかどうかを最終的に決定すること」も含まれています。老健施設において、医師は入居条件を満たすだけでなく、入所が適切な入居者かどうかを判断し、入居を許可するかどうかを判断する役割を担っています。
「介護度」や「医療状態」などが判断基準となり、入居判定の会議には事務長や介護士、看護師等も参加しますが、最終的な入居可否の判断は、施設の責任者である老健医師が行います。
老健医師の仕事がセカンドキャリアにおすすめの理由
老健医師の仕事がセカンドキャリアにおすすめな理由として、勤務負担の少なさや、知識経験の活用などがあります。
ここでは、老健医師がセカンドキャリアにおすすめとなる理由について詳しく解説します。
セカンドキャリアにおすすめの理由(1)勤務負担が少ない
老健医師がセカンドキャリアにおすすめされる理由として、勤務負担の少なさがあります。なぜなら、一般的な病院と比較して症状の安定した高齢者を診察することが主な仕事となるためです。
老健医師の目的は在宅復帰の支援であり、病気の治療ではありません。老健医師は、入所者の健康状態を安定して維持することが主な仕事となります。
急変や重篤な状態の患者が少ないため、救急医療や高度な医学的処置が頻繁に必要ないことが特徴です。勤務中に発生する予期せぬ緊急事態が少なく、比較的予測可能なスケジュールで仕事が進められるため、勤務負担が軽減されることになります。
いつ呼び出しがあるか分からないといったプレッシャーがなく、安定した勤務をすることができます。また、入所している方も基本的には要介護1から2程度の比較的要介護度の低い高齢者であり、介護負担も低い傾向にあります。
セカンドキャリアにおすすめの理由(2)知識と経験をフル活用できる
老健医師がセカンドキャリアにおすすめとされている理由は、これまで医師として培ってきた「知識と経験を最大限に活かせる」という点にあります。なぜなら、豊富な臨床経験が高齢者の症状の診察などに役立つからです。
経験があるからこそ、適切なアドバイスを提供できるケースもあります。例えば、老健に入所する高齢者は複数の健康課題を抱える傾向にあります。これまでの経験が、複合的な症状や慢性疾患への対応において有利となります。症状の総合的な診療が求められる老健医療において、豊富な臨床経験は大きな強みとなります。
セカンドキャリアにおすすめの理由(3)医師が主体の施設ではなく、責任が比較的軽い
老健医師は一般病棟と比較すると、責任が軽い傾向にありますが、それがセカンドキャリアにおすすめの理由となります。
老健医師の働く介護老人保健施設では、目的が要介護者の在宅復帰であり、高齢者のリハビリが中心となります。その際に1番活躍する方は、介護士や看護師といった職種であり、治療がメインではありません。
医師が主体の施設ではないため、責任が軽く、重責から解放されることになります。また、さまざまな職種と連携してチームで働くというコミュニケーションを求められる職場であり、在宅復帰支援が最終的な目標であり、専門職の職員全員で職場を動かしていくことになります。
医師のみに負担がかかるということではなく、入所者等のリハビリを行い、家に帰ることができれば目的を達成できます。また、入所者の方に関しても、原則として3ヶ月でまた他の老人介護保険施設に移ることになります。
入所者が定期的に入れ替わっていくため、一生涯その人の診察や治療を行うということがないため、この点でも責任が軽いということになります。
このように、セカンドキャリアでは激務は避けたい、重すぎる責任のある仕事はそろそろ離れたいという方におすすめの職種となります。
老健医師になるには?
老健医師になるにあたって、医師免許以外の資格は特に必要ありません。ただし、老人保健施設での勤務に特化した知識やスキルを身につけるために、老人保健施設管理認定医という認定資格を取得する方法もあります。
この資格を取得することで、高齢者の医療や介護に関する専門知識が認められ、転職活動において有利になる可能性があります。
老健医師に向いている人の特徴
老健医師に向いている人の特徴として、高齢者福祉に関心を持っている人や、コミュニケーション能力が高い人、経験豊富な医師、途中で投げ出さない人といった特徴があります。
老健医師に向いている人の特徴を、ここでは解説していきます。
老健医師に向いている人(1)高齢者福祉に関心を持っている人
老健医師に向いている人の特徴として、「高齢者福祉に強い関心を持っている人」であることが挙げられます。なぜなら、高齢化の進んだ日本社会において、高齢者福祉は非常に重要な役割を果たしているからです。
例えば、普段から高齢者福祉に興味を持っている方は、高齢者福祉に関する文献やニュースを積極的に追いかけているため、どのようなニーズを持った患者さんがいるのかを考え、適切な判断を下すことができます。また、老健は入居者がその地域の在住者であることが多く、老健医師として仕事をすることはその地域社会に貢献することにもつながります。
このように、高齢者福祉に興味があり、貢献意欲の高い人にとっては、老健医師の仕事はやりがいのある仕事となる可能性があります。
老健医師に向いている人(2)コミュニケーション能力が高い人
老健医師に向いている人の特徴として、「コミュニケーション能力が高い人」であることが挙げられます。なぜなら、老健医師の役割は、施設内のスタッフの配置を決め、協力しながら仕事を進めることだからです。
看護師や介護士、作業療法士などさまざまな専門職と協力しながら、入居者のケアや施設の運営を進める役割があります。 スタッフ全体をまとめ、円滑な連携を築くためには優れたコミュニケーション能力が求められます。また、入居者は一定期間施設で生活するため、コミュニケーションを通じて信頼関係を築き、適切なサポートを提供することが重要です。
老健医師は利用者だけでなく、多様なスタッフと円滑な対話を行うことができる人材が求められます。
老健医師に向いている人(3)経験豊富な医師
老健医師に向いている人の特徴として、「経験豊富な医師」が挙げられます。なぜなら、長年医師として働いている方はこれまで、さまざまな臨床経験を積んできた方が多いからです。
老健に入所する高齢者は比較的安定した健康状態の方が多いものの、高齢者であり、さまざまな不調を抱えていることもあり得ます。長年、医学界に身を置いている方であれば、その豊富な経験を活かして、要介護状態の高齢者にとって適切な医療を提供することができる可能性があります。
老健医師に向いている人(4)途中で投げ出さない人
老健医師に向いている人の特徴は、「途中で投げ出さない人」です。
例えば、高齢者の方々は、耳が遠くなったり、医師が話した言葉を理解するのに時間がかかることがあります。入所者とのコミュニケーションが円滑に進むように、入所者のペースに合わせ、最後まで相手の意見に耳を傾けることが求められます。
また、入所者1人ひとりの状態や要望が異なります。入所者の状態に合わせて、細やかなケアや治療計画を立て、実施することが求められます。最終的には自宅復帰することを目指して、さまざまな職種の方と協力して仕事を進めることになります。思いどおりに仕事が進まないこともあるかもしれませんが、それを乗り越えて最善の結果を求めることが重要です。
老健医師として働くメリット
老健医師として働くメリットとして、以下のメリットがあります。
●マイペースに働くことができる
●長く勤務することができる
●全国に老健が存在し、勤務しやすい
それぞれについて解説します。
老健医師として働くメリット(1)比較的決まった時間で働くことができる
老健医師として勤務するメリットとして、「比較的決まった時間で働くことができる」というメリットがあります。老健医師の業務時間は、基本的に9時~17時前後であり、残業時間や急な出勤が求められることは、一般に少ないです。
老健医師は、入所者が家に帰ることができるようにリハビリなどを提供することが目的であり、一般の病院のように患者の急変などが起こりにくい傾向にあります。
老健では対処しきれない症状が出た場合には他の医療機関で治療をしてもらうことになります。そのため、基本的には、急な呼び出しや夜勤などが発生せず、プライベートの時間を確保しやすいです。
老健医師として働くメリット(2)長く勤務することができる
老健医師は、「定年を過ぎても長期間働くことができる」可能性があります。なぜなら、老健の勤務環境や労働条件は、一般の病院とは異なる特徴を持っているからです。
例えば、老健は高齢者の健康管理や在宅復帰を目指すため、緊急事態が発生する可能性が低い傾向にあります。そのため、他の医療機関に比べ、勤務のペースや負担が軽減され、医師としての経験と知識を活かしながら、定年を過ぎ方でも、長く働くことができるのです。
また、高齢者とのコミュニケーションや福祉に関する知識が必要であり、経験豊富な医師が求められる傾向にあります。年配の医師が定年を過ぎても働くことができる環境が整っているということです。
老健医師として働くメリット(3)全国に老健が存在し、勤務しやすい
老健医師のメリットとして、全国各地に老健が存在しているため、自宅近くで勤務しやすい可能性があります。
厚生労働省がまとめた介護老人保健施設の資料によると、全国に4230ヶ所の老健が存在しているとしています。
転職活動を機に地元に帰りたいと思っている医師にとって、老健で働くことも選択肢の1つとなり得ます。施設設置数に関しては、人口によって多少の差はありますが、地方でも経験を活かして働くことができる点は魅力です。
老健医師として働くデメリット
老健医師として働くデメリットとして、以下のデメリットがあります。
●求人数が少ない傾向にある
●施設内の人間関係に縛られる
●スキルを伸ばすことが難しい
それぞれについて解説します。
老健医師として働くデメリット(1)求人数が少ない傾向にある
老健は全国各地に存在する一方で、1つの施設で必要とされる医師は設置基準の関係上、全国平均で1施設あたり1.07人となっています。そのため、拠点は多くとも、一般的な病院とは異なり、複数名の求人が少ない傾向にあります。
また、ハードな勤務条件ではないため、高齢の医師が一度就職すると、その人が働けなくなるまでは求人が出ないという事情もあります。こうした事情が重なり、求人そのものが貴重となることがあります。
老健医師として働くデメリット(2)施設内の人間関係に縛られる
老健は、施設内の人間関係に縛られる傾向がありますが、その理由は入所者と一定期間過ごす必要があるためです。入所者は原則として3ヶ月は同じ施設内にいます。加えて、老健は地域に密着した運営をしているため、地域住民とのコミュニケーションや協力が必要であり、施設内外の関係が密接になりがちです。
また、施設内のスタッフとのコミュニケーション問題もあります。介護士や看護師、作業療法士など、さまざまな職種でチームを組んで働くことになるため、気遣いが必要となります。
このように、老健内で、人間関係は固定されてしまいます。密度の濃いコミュニケーションに耐えられるかどうかなど、自身の性格に、老健での働き方があっているかどうか、考えてみてもいいかもしれません。
老健医師として働くデメリット(3)スキルを伸ばすことが難しい
老健医師として働くデメリットは、スキルを伸ばすことが難しいという点が挙げられます。なぜなら、老健医師の目的は介護保険法第8条28項により、入所者の健康管理と自宅での生活復帰と定められているためです。
治療ではなく、介護がメインの仕事内容ということになりますので、高度な医療処置や手術などは他の医療機関に委ねられることが多いため、医療に関するスキルを磨くことが難しくなる可能性があります。
そのため、まだまだ医療技術を磨きたい、臨床を重ねたいという方にとっては物足りない状況になることがあり得ます。
老健医師まとめ
今回は、「老健医師の働き方」について解説させて頂きました。老健医師とは、老人介護保健施設(老健)に勤務する医師のことを指します。
老健医師の仕事は、老健利用者である高齢者の健康管理や在宅復帰支援に携わることです。安定した症状の高齢者を診察し、他の専門職と共に、利用者に対してリハビリやケアを提供します。
入所者の判定や医療スタッフの統括も担当し、大まかな財務管理や施設運営も業務に含まれます。
一般的な病院と比較して、勤務負担が軽いのが特徴で、全国各地に勤務地があり、セカンドキャリアに適しています。ただし、スキル向上が難しく、求人数は設置基準の関係上、限られている傾向にあります。こちらの記事を参考に、自身の希望や、状況に合わせてセカンドキャリアについて考えてみてください。
出典
厚生労働省 介護老人保健施設
公益社団法人全国老人保健施設協会 老健とは?
大分県 特養に入所できるのは 原則として要介護 3 以上の方となります
一般社団法人日本老年医学会 老人保健施設管理認定医制度規則
e-Govポータル 平成九年法律第百二十三号 介護保険法