執筆者: FINANCIAL FIELD編集部
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監修: 高木 謙太郎
専門的で高度な医療を提供することは当然のこと、人と人との繋がりを大切にし、心の通った医療を提供することをモットーに地域医療をおこなっています。
四谷内科・内視鏡クリニック
2007年3月 東京慈恵会医科大学 卒業
2007年4月 東京慈恵会医科大学附属柏病院
2009年4月 東京都立墨東病院 (救命救急科 消化器内科)
2012年4月 東京都保健医療公社豊島病院 (消化器内科)
2018年10月 都内大手クリニック (消化器内科 消化器内視鏡部門)
2023年4月 東京大学医科学研究所附属病院 (非常勤講師)
常勤医師として働く方の中には、開業を考えている方もいるのではないでしょうか。開業医は常勤よりも年収が高く、自分の理想の医療を提供しやすい特徴があります。開業医を目指す場合には、メリット、デメリットについて把握しておきたい方も多いと思います。
そこで、開業医と常勤医師の年収の違いや、開業医のメリット、デメリット、医院の開業に必要な費用について解説します。現在開業を検討している方や、開業に興味がある方は、ぜひ参考にしてみてください。
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目次
開業医と常勤医師の平均年収の違い
一般的に、開業医は常勤医師よりも年収が高いといわれています。厚生労働省の医療経済実態調査報告(平成21年6月実施)によると、開業医と病院勤務医の年収は図表1の通りです。
図表1
医師の区分 | 年収 | 月収 |
---|---|---|
病院勤務医 | 1479万円 | 123万円 |
開業医(法人) | 2530万円 | 211万円 |
開業医(個人) | 2458万円 | 205万円 |
※厚生労働省 「勤務医の給料」と「開業医の収支差額」についてを基に作成
図表1をみると、開業医は勤務医よりも年収が1.7倍ほど高いことが分かります。年収は額面であるため、実際の手取り額は、税金を引いた額になるので、年収よりも少なくなります。開業医と勤務医の手取り額の目安は図表2の通りです。
図表2
医師の区分 | 年収の手取り金額 |
---|---|
病院勤務医 | 1010万円 |
開業医(法人) | 1753万円 |
開業医(個人) | 1081万円 |
※厚生労働省 「勤務医の給料」と「開業医の収支差額」についてを基に筆者作成
上記から、法人の開業医は勤務医よりも年収の手取りが高いことが分かります。一方で、個人経営の開業医の手取りは、病院勤務医のものと大きく変わりません。
とはいえ、個人事業主の開業医でも、建物の家賃や車の購入費などを経費として計上できます。年収の高い開業医は税理士に税務を依頼していることが多く、節税対策をしているものです。
病院勤務医と個人経営の開業医の手取り額は見かけ上の違いは少なくても、開業医の方が経済的に豊かな暮らしを送っていることがほとんどです。
開業医で年収1億を目指すポイント
年収が高いといわれる開業医でも、年収1億を稼ぐことはなかなか容易なことではありません。一方で、開業した医師の中には1億円稼ぐ人もいます。ここでは、開業医が年収1億を達成するための戦略ポイントについてみていきましょう。
開業医で年収1億を目指すポイント1:好条件の立地を選ぶ
開業後に安定的に患者数を確保するには、好条件の立地を選ぶことが大切です。クリニック開業におすすめの土地の条件は次の通りです。
●駅近である(急行列車の停車駅ならなお良い)
●建物へのアクセスが良い(建物の1階にある等)
●建物の手前に歩道橋がある
ただ、好条件の立地には同じ診療科のクリニックなど競合相手がいることも多く、思うような集患につながらないこともあります。クリニックの開業予定にどれくらいの集患が見込めるかは「診察圏」を把握することがおすすめです。
診察圏はクリニックに患者が訪れるエリアのことで、次のように計算します。
診察圏の推定患者数=エリア人口×診療科の受診率÷クリニック数(自院と競合相手を含む)
開業するための土地選びは、「恩師のいる土地」「自宅から近い」など医師によってもさまざまでしょう。いくつかの候補地をピックアップして、診療圏を計算した上で開業する場所を決定するのがおすすめです。
開業医で年収1億を目指すポイント2:人材の育成をする
クリニックの集患率を高めるには、院内のスタッフの人材育成に力を入れることが大切です。開業した多くの医師が悩みやすい点が、院内のスタッフに関することです。クリニックでの人材教育ができていなければ、診療を受ける患者さんに対する接遇にも影響を与えてしまいます。
また、スタッフ間の人間関係が悪化すれば、クリニックに人材が定着しにくくなります。スタッフが離職する度に院長などの責任者が、採用に時間が取られてしまい診療に集中できなくなります。
クリニックの人材育成で重要となる点は、スタッフ自身のやる気やモチベーションを高めることです。クリニックならではの医療理念を掲げたり、スタッフに任せられる部分は信頼して任せることも大切です。。
開業後は院長がチームのリーダーとなるため、チームの意見をくみ取りより良いチームビルディングをおこなっていきましょう。
開業医で年収1億を目指すポイント3:業務の効率化を図る
クリニックの業務が効率化すると、雑務にかかる時間や労力の負担が減るため、より診療に注力しやすくなります。クリニック経営や人材育成などさまざまな課題があれば、院長が心身ともに疲弊してしまい診療に集中できない結果になります。
開業医の中には事務長を雇用せずに、自分で抱えこんでしまう方もいるでしょう。近年では事務長が行うべき業務を外注することもできます。院内で手が回らない部分は、外注すると業務の効率化につながります。
また、最近は医療DX化が進んでいるため、便利なものやサービスを積極的に取り入れる姿勢も大切です。WEB予約システムや電子カルテの導入、自動支払機、物流システムの導入など、医師やスタッフの負担を減らすことができます。
開業医で年収1億を目指すポイント4:分院展開を検討する
開業後のクリニック経営が順調であれば、分院展開を検討することも良いでしょう。分院展開すると、診療する患者数が大幅に増やせるきっかけとなり、増収につながりやすくなります。
開業医が分院を展開するには法人化が欠かせません。クリニックを法人化すると節税になり収入増につながります。例えば、個人経営のクリニックが医療法人になると、以下のように所得税ではなく法人税が適用されます。
●年収800万円以下の部分:税率16%
●年収800万円超の部分:税率19%
そのほかにも、法人の開業医は、給与所得控除が受けられたり、退職金を経費として計上できるメリットがあります。十分な節税対策をすることで、収入アップをはかることができるでしょう。
開業医で年収1億を目指すポイント5:自由診療を行う
上記に紹介した年収アップの戦略は地道に進める必要がありますが、より短絡的に年収1億円を目指したい方は、自由診療を取り入れる方法があります。
保険診療は診療費が一律ですが、自由診療はクリニックが独自に価格設定を行えます。自由診療を受ける患者さんは、診療あたりの単価も上がるので、収入アップに大きく貢献できるメリットがあります。
また、保険外の診療を取り入れることで、患者さんの治療の選択肢が広がり、競合クリニックと差別化を図ることができます。医科クリニックの主な自由診療は次の通りです。
●レーザーによる脱毛・シミ取り
●ボトックス・ヒアルロン酸注入
●AGA治療
●EDに対する薬物療法
●レーシック
●人間ドックの各検査
自由診療は病気の治療ではなく、審美目的の施術が多いため、診療は皮膚科が中心になります。一方で、皮膚科でなく、内科などがエイジングケアの一環でAGAやEDの薬物治療を行っていることもあります。
また、人間ドックは治療のための検査ではなく、健康である人に対して行う検査であるため自由診療となります。消化器内科なら内視鏡検査など、専門性の高い人間ドックの検査は、どの診療科でも取り入れられるでしょう。
失敗してしまう開業医の特徴
毎年、一定数のクリニックが開業されますが、全体でみるとクリニックの数は微増となっています。新規にクリニックを開業する医師がいる一方で、クリニックを廃業や休業する医師もいるためです。
ここでは失敗してしまう開業医によくみられる特徴についてみていきましょう。
失敗してしまう開業医の特徴1:クリニックの理念やビジョンがない
開業医の方の中には、クリニックの医療理念やビジョンを定めていない施設もあります。多くの一般企業では、組織を運営するために、経営理念を掲げています。
組織における理念は、日々の業務や運営の主軸となるものです。開業医であれば、理想とする医療や目指すクリニックが理念の基になります。
医療理念のないクリニックは、組織がまとまりにくくなったり、自院の課題を解決する際にも、方向性が定まりにくくなります。
失敗してしまう開業医の特徴2:経営スキルに欠けている
開業医は医師である傍ら経営者となるため、経営スキルが必要になります。一言で経営スキルといっても、以下のようにさまざまです。
●クリニックの運営ビジョンの決定
●人材育成のためのスタッフ教育
●集患のためのマーケティング戦略スキル
●問題解決時のリーダシップ能力
上記のように、クリニックの色々な課題を解決するには、院長である医師が判断する必要があります。経営スキルに欠けていると、日々の診療の傍ら、クリニックの課題に頭をかかえることになる可能性があります。
失敗してしまう開業医の特徴3:患者のニーズを理解していない
クリニックを開業しても、地域や患者のニーズが合っていなければ、収益を上げにくくなります。例えば、小児科であれば高齢者が多い地域よりも、ファミリー層が多い開発地の方が、診療のニーズが高いでしょう。
また小児科では、子どもを診る以外にも、母親が育児に関する不安を聞いてほしいと考えている可能性が高いです。最低限の診療のみであれば、患者の回転率が高くなり、一時的な収益は上がるでしょう。しかし、診療後の満足感を得られないため、患者が定着しにくくなる可能性があります。
医師が開業するメリット
医師がクリニックを開業すると、さまざまなメリットがあります。ここでは開業医になるメリットについてみていきましょう。
医師が開業するメリット1:自分の理想の医療が提供しやすい
医師がクリニックを開業すると、理想の医療を提供しやすくなります。医局に所属していれば人間関係のしがらみが生じやすい可能性があり、勤務医でも上司に配慮する必要があります。
開業医は小さいながらも、組織の経営者でありトップの地位にあります。クリニックの医療理念など、自分が理想とする医療を実現しやすくなります。
医師が開業するメリット2:収入アップを見込める
開業医や勤務医よりも年収が高いため、クリニックを開業することで収入アップを目指せます。もちろん安定したクリニック経営をするには、ただ診療に集中するだけでなく、集患のためのマーケティング戦略をはじめ経営スキルを身に付ける必要があります。
開業したクリニックの経営が上手くいけば、分院展開することで診療する患者数を倍増させることもできるでしょう。勤務医の人で、「仕事量に見合う給与をもらっていない」と感じている人は、クリニックの開業を視野に入れることもおすすめです。
医師が開業するメリット3:ワークライフバランスを図りやすい
開業医は自分の裁量によって仕事時間を決められるため、ワークライフバランスを取りやすい特徴があります。開業後の働き方によっては、仕事以外のプライベートの時間を充実させたり、家族との時間を優先することができます。
ただし、信頼できる事務長やスタッフがいなければ、クリニックの問題を1人で抱え込むことになり、ワークライフバランスが崩れる結果になるので注意しましょう。
医師が開業するデメリット
開業医には年収アップの可能性などのメリットがありますが、デメリットもあります。医師が開業を検討するときはデメリットも把握することが大切です。開業医のデメリットは次の通りです。
医師が開業するデメリット1:経営が上手くいかないリスクがある
開業医は勤務医よりも平均年収が高めですが、前提としてクリニック経営が上手くいっている必要があります。新しくクリニックを立ち上げても、思うように患者が集まらないと、経営が圧迫されてしまいます。
特に、クリニックの開業には1000万円単位で資金が必要になります。医師の中には、開業する際に自己資金だけでは足らず、銀行から融資を受ける方も多くいます。自院での収益が思うように挙がらず、道半ばで廃業や休業となれば、莫大な借金が残るリスクがあります。
医師が開業するデメリット2:院長に負担がかかることが多い
クリニックを開業すると、日々の診療に加えて自院の課題を解決していかなければなりません。クリニック運営が上手くいくには、院長自身の診療スキル以外にも、人材育成やマーケティングなど経営スキルが必要になります。
自院の人材が育っていない段階では、院長自身が採用を行ったり、経営に関する判断を下す必要があります。勤務医時代は診療だけに集中できていたのに対し、開業医では診療以外のことに時間や労力を使うこともあるでしょう。
クリニックの課題が解決できないと、院長が1人で問題を抱え込み、心身ともにすり減らしてしまう結果になりかねません。
医師が開業するのに必要な費用
クリニックの開業には、さまざまな準備が必要ですが、中でも大切となるのが開業資金です。
開業にあたっては、銀行からも融資を受けられるため、医師自身が全額を用意する必要はありません。
一方で、ある程度の自己資金があると、毎月の返済額を下げられ、選択肢にも幅を持たせることができます。クリニック開業にかかる主な費用項目は次の通りです。
●賃料(敷金、礼金、仲介手数料、前家賃含む)
●内装工事費
●診療設備費
●医療消耗品
●採用や研修にかかる費用
●広告費用
●医師会費
●固定費・人件費など
クリニックの開業に必要な費用は診療科によっても異なります。以降では、主な診療科ごとの開業資金の目安についてみていきましょう。
内科の開業資金
内科クリニックの開業に必要な資金は約5000~6000万円です。戸建て開業であれば2000万円でもクリニックを立ち上げられるため、自己資金が少ない医師も開業を検討できるでしょう。一方、テナント開業では運転資金も準備する必要があるため、戸建て開業よりも必要な資金が増えます。
内科クリニックはプライマリケアで訪れる患者も多く、他の診療科や地域の病院へ紹介する機会も多くなります。電子カルテの中でも、他の医療機関との連携を図れるサービスが可能なものを選ぶと便利です。
整形外科の開業資金
整形外科クリニックの開業に必要な資金は約5000万円です。整形外科の診療には、レントゲン装置(最新機器であれば数千万円)などの大型の医療機材の導入が必須であり、初期投資が高額になるためです。
ただ、整形外科は高齢層の患者をつかみやすく、クリニックでも対症療法やリハビリなどで定期的な患者の来院を見込めます。クリニック経営が上手くいけば、銀行に返済しつつ年収アップを目指せるでしょう。
皮膚科の開業資金
皮膚科クリニックの開業に必要な資金は約2000万円です。皮膚科は広い診療スペースが必要ではなく、テナント経営が多くなります。自己資金だけで開業もできますし、自己資金がなくても融資のみで始められることもあります。
ただ、自由診療の美容皮膚科のクリニックを開業する場合は、開業資金がさらにかかります。美容系の医療機器の値段は数百万円から千万円ほどであり、高いものであれば1500万円のものもあります。
施術メニューごとに医療機器を購入する必要があるため、その分、機材の導入コストがかさみます。特に、美容医療を受ける患者は、最新機器の施術を好む傾向があるため、機材の新規購入のための潤沢な資金が必要です。
小児科の開業資金
小児科クリニックの開業に必要な資金は約5500万円です。子どもの診療には保護者が同伴することがほとんどですし、キッズスペースを設けたりすれば、他の診療科よりも広いスペースが必要になるためです。
地方であれば、マイカーで来院する家族も多いため、駐車場つきの戸建てが必要になるでしょう。
また近年、小児科クリニックの中には、順番待ち予約システムを導入するところもあります。 小児科では親子の診療をスムーズにするための医療システムを導入した方が望ましいため、その分、コストがかかります。
眼科の開業資金
眼科クリニックの開業に必要な資金は約4500万円です。コンタクト処方など手術以外の診療のみ行うのであれば、テナント開業ができるので開業資金を抑えられます。
一方、白内障手術などの手術治療の診療も行うのであれば、手術に必要な医療器材を揃えたり、スペースも必要になるため、追加で2000~3000万円のコストがかかります。ただ、開業医で手術治療もできるようにしておくと、レーシックなど自費診療を行えるメリットがあります。
開業医の年収でよくある質問
クリニック開業後の収入について疑問や質問がある方もいるでしょう。ここでは、開業医の年収でよくみられる質問とその回答をみていきます。
Q1:都市と地方で開業医の年収に違いはありますか?
都市と地方の開業医は経営形態が異なるため、年収の違いは一概にいえません。都市は地方よりも人口が多いので、駅前のテナント経営でも集患が見込めます。
一方で、都市は医療機関数が多いため、競合となるクリニックが存在します。都市で開業するのであれば、他のクリニックとの差別化を図る必要があるでしょう。
また地方では、電車よりもマイカーでの移動がメインとなる地域も少なくありません。都会のようにテナント経営ではなく、クリニックに駐車場を完備する必要があり、その分初期費用がかかる可能性があります。
また、バスや電車などの交通アクセスが十分でない地域は、高齢の患者層の獲得が難しくなることがあります。クリニックを開業するときは、その先の収入を見据えた上で、都市と地方のどちらに開業するか決めることも大切です。
Q2:開業医が準備すべき自己資金はいくらですか?
クリニックの開業に必要な費用は、地域や経営形態、診療科によっても異なります。診療科や必要な医療機材にもよりますが、一般的には3000~6000万円ほどかかります。多くの場合、医師が開業するときは自己資金だけでなく、融資や補助金を利用することになります。
開業後すぐに順調に集患ができるとは限らないため、ある程度の運転資金を準備することも大切です。一般的には開業にかかる費用の1~2割程度は自己資金として準備するようにしましょう。
開業医の年収まとめ
開業医の平均年収は勤務医の年収よりも高いため、クリニックの開業を検討している人もいるでしょう。クリニック開業は収入アップ以外にも、理想の医療提供などのメリットがあります。
一方で、開業医として組織の長になれば、業務や人材採用などさまざまなシーンで決断が求められることも多く、診療以外の課題にも注力する必要があります。
また、近年は新規クリニックがみられる一方で、自院を休業したり廃業したりする方も少なくありません。開業医として収入増を図るのであれば、安定的な患者の来院数を確保するために、経営やマーケティングスキルも必要になることを理解しておきましょう。
出典
厚生労働省 「勤務医の給料」と「開業医の収支差額」について
国税庁 法人税の税率
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部