物価高や光熱費の高騰で「月5000円」の給与アップ! 金額は妥当? 給与はどのくらい上がるべき?

配信日: 2023.09.17

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物価高や光熱費の高騰で「月5000円」の給与アップ! 金額は妥当? 給与はどのくらい上がるべき?
2021年の日本の給与所得者の平均給与は約443万円です。
 
バブル期最終年の1991年には約471万円でしたが、バブルの終焉により平均賃金は下降傾向をたどり、特にアメリカのサブプライム問題から発生した世界金融危機が起こった2008年からの落ち込みは大きく、一時期約421万円まで落ち込みました。その後、やや回復したものの、バブル期から30年以上経過した現在も低水準にとどまっています。
 
このように長きにわたり賃金が上がっていない日本ですが、世界的な物価高の影響で2023年には賃金上昇の動きがあります。筆者が勤務する会社でも、月5000円の賃金アップ(年収換算で6万円)を提示されたのですが、これは妥当な金額なのでしょうか。その妥当性について2つの角度から調べてみました。
老田宗夫

執筆者:老田宗夫(おいだ むねお)

キャリアコンサルタント

物価上昇による負担増の実態

2023年7月に総務省が発表した、2020年基準の消費者物価指数を基に物価の上昇状況を見てみましょう。
※2020年基準の消費者物価指数とは2020年の物価を100として、どのように変化したかを表しています。
 
2023年7月の物価総合指数は2020年比では105.7、前年同月比では3.3%の上昇です。コロナ禍で大きな影響を受けた交通通信費の指数(96.4)以外は全ての指標があがっています。また住居費、教育費、保険医療費以外のほとんどは105以上の指標を示しています。
 

食料品の物価上昇による負担増加分はいくらになるのか

食料品の物価上昇は他の分野に比べて顕著であり、物価総合指数は2020年比で13.1%上昇しています。
 
2021年に総務省統計局が行った家計調査(1世帯あたり1ヶ月間の用途別支出金額)によると、食料品の金額は6万2531円であり、支出合計(23万1485円)に占める割合は27%にものぼります。年間に換算すると、75万321円となりますので、13.1%物価指数が上がったということは約10万円の負担増となります。月額に直すと8000円強です。
 

光熱費上昇には補助金制度で負担軽減されている

世界的な光熱費の高騰が叫ばれておりますが、負担はそれほど増えておらず、2023年7月の物価総合指数の平均(105.7)とほぼ同じ105.8です。前年同月比では減っています(-9.6%)。これは電気料金・ガス料金ともに2023年2月請求分(1月使用分)から支給されている補助金が影響しています。
 
当初、補助金は2023年9月までとなっておりましたが、10月以降も継続されることが発表されました。具体的な金額は発表されていませんが、光熱費の高騰が収まるまでは補助金による負担軽減が継続される可能性が高そうです。
 

ガソリン代の高騰による負担増加分はいくらになるのか

2020年9月では1リットルあたり135円前後であったレギュラーガソリンの価格は、2023年9月には186円を越える価格まで上がっています。
 
一世帯当たりのガソリン購入量は約500リットル前後ですので、1リットルあたり50円の値上げによって、年間2万5000円の負担増になります。自家用車が生活必需品となっている地域では、かなりの負担増になっていることが伺えます。
 

企業の多くは年収をあげる余力がある

世界に目を向けてみると、先進7カ国首脳会議(G7)に参加している先進国の年収は、イタリアと日本を除き、1991年時に比べ、約130~150%の増加を成し遂げています。日本の企業は約30年の間、給料アップができないほどの経営不振に陥っているのでしょうか。
 

企業の内部留保は過去最多を更新

財務省が2023年9月1日に発表した法人企業統計によると、企業の利益の蓄積である2022年度末の「内部留保」(金融・保険業を除く)は前年度末に比べ7.4%増の554兆7777億円でした。2012年度以来、11年連続で過去最高を更新しています。
 
内部留保とは、売上高から人件費や原材料費などの企業の運営費用を差し引き、さらに法人税や配当を支払った後に残った利益を積み上げたものを指しています。
 
コロナ禍では、先行きが不安定だと判断し、設備投資などには慎重になる経営方針を取ったため、内部留保が積み上がったとみられていました。しかし、当期経常利益が2020年度に比べ2022年度は93%増になったにも関わらず、人件費は9.7%しか増えていません。内部留保の増加が始まった2012年度と比べても、2022年度の人件費は8.9%増にとどまっています。
 
つまりここ11年の間の、企業は利益をあげても経済の先行きの不透明感を理由に、給料アップを行わずに、貯金をし続けてきたということになります。
 

2023年春の春闘は30年ぶり高水準の給料ベースアップ

日本労働組合総連合会(以下、連合と呼称)が発表した2023年春闘の最終集計結果によると、平均賃上げ率は3.58%(1万560円)でした。これは、3.90%であった1993年以来の高水準です。
 
組合員300人未満の中小組合に限っても、平均賃上げ率は3.23%(8021円)であり、前年を1.27ポイント(3178円)上回っています。政府が原材料費などコストの増加分を価格に転嫁するよう呼び掛けたことも影響し、大手企業だけでなく中小企業でも賃上げの実施が行われました。
 
コロナ禍の影響で業績回復が遅れている交通運輸業界、サービス・ホテル業界もそれぞれ2.50%(6813円)、2.97%(8792円)と、大幅な賃上げを実施しています。
 
企業はこれまで内部留保を強化してきたため、直近の業績の良しあしに関わらず、給料をアップできる余力があるといえます。物価の上昇というきっかけがなければ、企業があげた利益はこれまでと同じように内部留保にまわり、給料のベースアップには回らなかったと想像できます。
 

物価上昇分だけでも月5000円のアップでは足りない

2021年に総務省統計局が行った家計調査によると、1世帯あたりの年間支出の合計は約278万円です。2023年7月の物価総合指数が前年同月比で3.3%増加しているということは、この傾向が続けば、毎年約9万円の家計負担が増えていくという試算になり、月間5000円では全く足りません。8000円~1万円程度の給料アップが必要です。
 
また、今回の給料アップは物価の高騰を理由にしていますが、自身の在籍している会社の経営状況が良ければ、もっと年収アップを求めても良いはずです。物価の上昇をきっかけに、基本給などのさらなるベースアップを求めていくべきだと感じました。
 
黙っているだけでは、物価高の終息と同時に給料アップの動きはなくなってしまい、再びほとんどの利益は内部留保に回ってしまうことになるかもしれません。その結果、継続的な給料アップとはならず、諸外国との差は一層広がってしまいかねません。
 

出典

厚生労働省 令和2年版 厚生労働白書 平均給与(実質)の推移

国税庁 令和3年分民間給与実態統計調査

厚生労働省 令和4年版 労働経済の分析 令和4年度版 G7各国の賃金(名目・実質)の推移

総務省 2023年(令和5年)7月分消費者物価指数

総務省統計局 家計調査

財務省 年次別法人企業統計調査(令和4年度)

 
執筆者:老田宗夫
キャリアコンサルタント

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