更新日: 2020.02.28 その他相続
多額の借金を残して亡くなった夫。夫名義の自宅兼店舗があるが、遺産相続はどうする?
一連の葬儀やあわただしい手続きも終わり、遺産について調べてみたところ、夫に2000万円以上の借金があることが分かりました。10年前の店舗開店費用の返済や、経営難であった期間の借金の積み重ねです。
自宅は店舗の2階にあり、自宅兼店舗の名義は夫です。その他の資産はほとんどありませんでした。Aさんは多額の借金を弁済するあてもなく、どうしたら良いのか途方に暮れていました。
執筆者:村川賢(むらかわ まさる)
一級ファイナンシャル・プラニング技能士、CFP、相続診断士、証券外務員(2種)
早稲田大学大学院を卒業して精密機器メーカーに勤務。50歳を過ぎて勤務先のセカンドライフ研修を受講。これをきっかけにお金の知識が身についてない自分に気付き、在職中にファイナンシャルプランナーの資格を取得。30年間勤務した会社を早期退職してFPとして独立。「お金の知識が重要であることを多くの人に伝え、お金で損をしない少しでも得する知識を広めよう」という使命感から、実務家のファイナンシャルプランナーとして活動中。現在は年間数十件を越す大手企業の労働組合員向けセミナー、およびライフプランを中心とした個別相談で多くのクライアントに貢献している。
相続の承認方法と放棄
まず、相続の承認方法には、被相続人(亡くなった人)のすべての財産を承継する単純承認と、引き継いだプラス財産の範囲内だけマイナス財産を承継する限定承認(※1)があります。また、被相続人の財産をマイナス財産も含め一切承継しない相続放棄(※2)という方法もあります。
限定承認と相続放棄は、相続の開始を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所に申述しなければなりません。3ヶ月をすぎると単純承認をしたと見なされます。また3ヶ月以内であっても、被相続人の財産の一部または全部の処分などを行った場合も、単純承認をしたと見なされます。
さらに、相続放棄は相続人が単独でもできますが、限定承認は共同相続人全員で行わなければなりません。
Aさんには24歳の息子がいる
Aさんには24歳になる息子のBさんがおり、ほかに子はいません。Bさんも法定相続人となります。他に相続人はいません。Bさんは独身で、母親のAさんと同居していますが、近くの工場で会社員として働いており、今のところ家業の中華料理店を継ごうとは考えていないようです。
【PR】「相続の手続き何にからやれば...」それならプロにおまかせ!年間7万件突破まずは無料診断
どうすれば良いか途方に暮れるAさん
もしAさんも息子のBさんも相続放棄をすると、多額の借金は弁済しないで済みますが、自宅兼店舗も手放さなければなりません。そうなるとAさんとBさんは住むところがなくなり、Aさんとしては収入の基盤も失います。Aさんは何とかして今の自宅兼店舗を残したいと考えています。
限定承認をすることで借金の額を減らせる可能性も
今住んでいる自宅兼店舗は、20坪ほどの土地に建っている古い家を改装したものだそうです。もし売却するとしたらいくらになるか不明だとのことで、急いで相続に詳しい不動産鑑定士などに自宅兼店舗の時価を見積もってもらう必要がありそうです。
その時価が2000万円以下であれば、限定承認することで、借金の額を減らせる可能性があります。唯一のプラス財産である自宅兼店舗の時価までの借金を弁済することで、自宅兼店舗も残せる可能性があります。
限定承認すると、財産の精算手続きが進められ、換価(不動産の場合は原則として競売)されるのですが、先買権(さきがいけん)といって、いったん自宅兼店舗を手放し競売にかけられたとしても、お金の工面ができれば優先的に買い戻す権利があります。
限定承認をする件数はごくわずか
メリットが多そうな限定承認ですが、その件数は相続放棄と比べてごくわずかです。理由は、家庭裁判所への申述手続きや精算手続きなどが複雑なことと、被相続人から相続人に財産を売却したと見なされ、譲渡所得税が課税されるからです。相続に詳しい税理士か司法書士などに依頼しないとスムーズに限定承認の手続きはできません。
Aさんへのアドバイスとして、信頼できる相続専門の税理士などのもとで、Bさんと共同で限定承認することを勧めました。理由は、家庭裁判所が選任した鑑定人などが、現在住んでいる自宅兼店舗を評価した結果、残せる可能性があることで、それ以上の借金の弁済をしなくて済むからです。
終わりに
遺産は必ずしもプラス財産だけとは限りません。マイナス財産である借金なども一緒に含まれる場合があります。マイナス財産がプラス財産を明らかに上回る場合などでは、相続放棄するケースが多いようです。しかし、Aさんのように自宅や店舗などの不動産があり、それらの財産を残したい場合では、限定承認をすることで残せる可能性があります。
3ヶ月以内に家庭裁判所に申述しなければ単純承認となってしまうので、相続があったことを知ってからなるべく早くに、信頼できる相続専門の税理士などに相談することが重要です。
(出典)
(※1) 裁判所 相続の限定承認の申述
(※2) 裁判所 相続の放棄の申述
執筆者:村川賢
一級ファイナンシャル・プラニング技能士、CFP、相続診断士、証券外務員(2種)