父が退職金を受け取った直後、兄から「今のうちにお金を分けてほしい」と頼まれたそうです。これから何年生きるか分からないのに、老後資金を子どもへ先に渡しても大丈夫なのでしょうか?

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父が退職金を受け取った直後、兄から「今のうちにお金を分けてほしい」と頼まれたそうです。これから何年生きるか分からないのに、老後資金を子どもへ先に渡しても大丈夫なのでしょうか?
父がまとまった退職金を受け取ると、子どもから「将来相続するなら今のうちに分けてほしい」と言われることがあるかもしれません。しかし、退職金はまず父自身の老後生活を支えるための大切な資金です。
 
民法上、相続は本人が亡くなったときに始まるため、子どもが存命中の父へ「将来の相続分を今渡してほしい」と当然に請求できるものではありません。また、生前にまとまったお金を渡せば、受け取った子どもに贈与税がかかる可能性もあります。まず父自身の老後資金を確保してから考えましょう。
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子どもには父が生きている間に相続分を受け取る権利はない

民法882条では、「相続は、死亡によって開始する」と定められています。
 
つまり、父が元気に暮らしている間、その退職金や預金は父自身の財産です。将来相続人になる予定の子どもだからといって、父に対して「自分の相続分を先に渡してください」と当然に要求できるわけではありません。
 
もちろん、父自身が「子どもの住宅購入を助けたい」「生活が大変なので援助したい」と考え、自分の意思で贈与することはできます。
 
ただし、「いずれ子どものものになるのだから」という理由だけで大きな金額を渡すのは慎重に考えたほうがよいでしょう。
 
老後は、普段の生活費だけでなく、自宅の修繕、家電の買い替え、医療や介護など、予想しにくい出費も発生します。
 
一度贈与したお金は子どもの財産になります。数年後に父自身の生活費が足りなくなったとしても、「やはり返してほしい」と簡単に元へ戻せるとは限りません。
 
まず、父が今後受け取る年金と毎月の生活費を確認し、退職金のうち自分の生活のために残しておきたい金額を先に決めることが大切です。
 

まとまった金額を渡すと子どもに贈与税がかかる可能性がある

父から兄へ現金を渡せば、税務上は原則として贈与になります。
 
暦年課税を利用する場合、国税庁によると、その年の1月1日から12月31日までの1年間に贈与を受けた財産の合計額から110万円の基礎控除を差し引き、残額に対して贈与税を計算します。
 
この110万円は、贈与した父1人につき110万円という意味ではありません。贈与を受けた兄が、その年に受け取った贈与全体について使える基礎控除です。
 
たとえば、贈与を受ける兄がその年の1月1日時点で18歳以上で、その年にほかの贈与を受けておらず、父から500万円を一括で受け取った場合、暦年課税では110万円を差し引いた390万円が基礎控除後の課税価格になります。国税庁の計算例では、この場合の贈与税は48万5000円です。
 
「家族間だから税金はかからない」「相続の前払いだから問題ない」と考えないようにしましょう。
 
一方、親子など扶養義務者の間で、通常必要な生活費を必要な都度渡し、そのまま生活費に使う場合は贈与税がかからないことがあります。
 
ただし、「生活費として500万円をまとめて渡し、残ったお金を兄が預金する」といった場合まで無条件で非課税になるわけではありません。
 
国税庁も、生活費名目で受け取ったお金を預金や投資へ回した場合には贈与税がかかることがあると説明しています。
 

相続税対策だけを理由に急いで渡すのも慎重に考える

兄から「生前に渡したほうが相続税も安くなる」と言われることもあるでしょう。
 
しかし、生前贈与をすれば必ず相続税対策になるとは限りません。
 
父から相続や遺贈などで財産を取得した人が、父から暦年課税による生前贈与を受けていた場合、一定期間内の贈与は相続税の課税価格に加算されます。加算対象期間は段階的に延長され、最終的には相続開始前7年以内となります。
 
2026年12月31日までに相続が始まった場合の加算対象期間は相続開始前3年以内ですが、今後は制度の移行に伴って範囲が広がります。
 
父が「税金を減らすために今すぐ何百万円も渡そう」と考えているなら、実際の資産額や相続人の人数を確認してから判断したほうがよいでしょう。
 
そもそも相続税は、相続財産が一定の基礎控除額を超えなければかかりません。国税庁によると、相続税の基礎控除額は「3000万円+600万円×法定相続人の数」で計算します。
 
税負担を減らすつもりで贈与税を支払ったうえ、父自身の生活資金まで減らしてしまっては本末転倒です。大きな金額を贈与する場合は、税理士などへ相談し、父自身の生活設計と税金の両方を確認してから進めると安心です。
 

まとめ

退職金を受け取った父に対して、子どもが「将来相続する分を今のうちに渡してほしい」と頼んでも、父が応じなければならないわけではありません。相続は父が亡くなったときに始まるため、生前の退職金や預金は父自身の財産です。
 
父自身が希望すれば生前贈与はできますが、暦年課税では、年間110万円を超える贈与を受けると、贈与税が生じる可能性があります。また、生前贈与が必ず相続税対策になるとも限りません。
 
何より優先したいのは、父自身の老後生活です。年金だけでは不足する生活費、住宅修繕、医療・介護などを考え、父自身の生活のために残しておく金額を先に決めましょう。
 
そのうえで十分な余裕があり、父本人も援助したいと考えているなら、無理のない金額を贈与する方法があります。「子どもに残すお金」より先に「父が安心して使えるお金」を確保しておくことが大切です。
 

出典

e-Gov 法令検索 民法
国税庁 No.4402 贈与税がかかる場合
国税庁 No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)
国税庁 No.4405 贈与税がかからない場合
国税庁 No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)
国税庁 No.4152 相続税の計算
 
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部
ファイナンシャルプランナー

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