普通の会社員家庭こそ争族に?相続でもめやすいケースとは

配信日: 2020.12.24

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普通の会社員家庭こそ争族に?相続でもめやすいケースとは
親は元会社員で現役時代の収入は平均並み、資産も多くない、それでも相続が「争続」になったという話を聞きます。どうしてそのようなことが起こるのでしょうか。
 
仲が良かったはずの家族に起こる争族の原因を探ります。
蟹山淳子

執筆者:蟹山淳子(かにやま・じゅんこ)

CFP(R)認定者

宅地建物取引士、住宅ローンアドバイザー
蟹山FPオフィス代表
大学卒業後、銀行勤務を経て専業主婦となり、二世帯住宅で夫の両親と同居、2人の子どもを育てる。1997年夫と死別、シングルマザーとなる。以後、自身の資産管理、義父の認知症介護、相続など、自分でプランを立てながら対応。2004年CFP取得。2011年慶應義塾大学経済学部(通信過程)卒業。2015年、日本FP協会「くらしとお金のFP相談室」相談員。2016年日本FP協会、広報センタースタッフ。子どもの受験は幼稚園から大学まですべて経験。3回の介護と3回の相続を経験。その他、宅地建物取引士、住宅ローンアドバイザー等の資格も保有。

実は、相続でもめるのは財産が少ないケースのほうが多い

相続で家族が争うと聞くと、「お金がたくさんあるから」と思いがちですが、実際にもめるのは相続財産が多い家より、決して多くはない普通の家が多いのです。
 
下のグラフは、平成30年に裁判所で遺産分割の調停が成立した件数を遺産価額別にまとめたものです。


 
実に約76%が相続財産の額5000万円以下でした。5000万円以下ということは、ほとんどが相続税のかからない範囲のごく普通の家の相続といえるでしょう。そこで、ごく普通の家になぜ争族が起こるのかを探る手掛かりとして、Aさんの例を紹介します。
 
<Aさんの例>
 
母親を亡くしたAさんと弟のBさんは遺産分割でもめています。
 
元会社員だった父親が10年前に亡くなったとき、遺言書はありませんでしたが、母親の生活を考えて、遺産(自宅不動産3500万円、預金1000万円)のすべてを母親が相続することにしました。
 
その後、母親の希望もあり、Aさんは母親が住んでいる実家をリフォームして同居することにしました。そのときのリフォーム費用500万円は母親が出してくれました。
 
しばらくは平穏な同居生活でしたが、母親が転んで骨折してからは次第に弱って介護が必要になりました。Aさん夫婦は自宅で介護を続け、父の死から10年後に母親は亡くなりました。
 

 
母親の遺産は4000万円(自宅不動産3500万円と預金500万円)でした。
 
Aさんは「母親の介護をしてきたのだから」とAさんが自宅を、Bさんが預金を相続することを提案したのですが、Bさんは兄弟で1/2ずつ相続することを主張して譲りませんでした。
 
自宅不動産の分割には無理があります。Bさんが2000万円を相続するには、Aさんが自分の財産から1500万円をBさんに渡す(代償分割)か、自宅を売却して分けるしかありません。
 
Aさん家族が母親の介護をしてきたのに、相続分が1/2ずつではAさんが気の毒な気がしますが、Bさんにも言い分があります。
 
Bさんから見ると、兄は母親がお金を出してリフォームした実家にただで住んでいるのに、自分が35年の住宅ローンを組んで買ったマンションには、まだ1800万円ほどの返済が残っています。購入時に親から援助を受けたわけでもありません。
 
Bさんはずっと不公平だと思っていました。
 
母親が兄を頼りにしていたことも納得がいきませんでした。その上、子ども2人が大学生になって授業料だけで年間200万円以上かかり、家計はとても苦しい状況です。兄が介護をしてきたとはいえ、自分の相続分が500万円ではどうしても納得できなかったのです。
 
結局、Aさんは自宅を売却せざるをえませんでした。その後、兄弟は絶縁状態となりました。
 

争族になりやすい事情

(1)相続財産の大部分が自宅不動産
資産家で金融資産が多い、不動産を複数持っているといった場合は遺産分割もしやすいでしょう。でも、普通のサラリーマン家庭の場合は遺産の大部分が自宅不動産で、金融資産は少ないというケースが多いと思われます。
 
自宅不動産を分割することは難しく、相続人の1人が住んでいるなどの理由で売却できない場合は、もめる原因となります。
 
(2)相続人の中で介護した人と介護しなかった人がいる
それぞれの家庭で事情はさまざまですが、年老いた親の介護は大変です。でも、どのくらい大変かはやってみなければ分からないこと。自分の生活を犠牲にして何年も介護し続けたとしても、離れて暮らし、介護に参加しなかった兄弟にはなかなか伝わりません。
 
その結果、介護への貢献度を相続分にどれだけ反映させるかで、もめることが多くなります。
 
(3)50代は家計が苦しくなる時期
相続を経験するとき、子ども世代は50代前後であることが多いでしょう。50代は住宅ローン返済や子どもの学費で家計が苦しくなることが多い時期です。しかも、最近は50代に入ってから収入ダウンするケースも多くみられます。
 
自分の老後資金が気になり始める時期でもあり、もらえるものであれば少しでも多くもらいたいと思うのも仕方ないことでしょう。
 

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まとめ

Aさん兄弟に争族が起きた原因の1つは相続対策をしていなかったことです。
 
例えば母親が遺言書を書いておく、Aさんが代償分割できるお金を準備しておくなどの対策をしておけば、もめずに済んだかもしれません。
 
もめるかどうかは資産の多寡とは関係ありません。むしろ少ないほうが、うまく分けられずにもめることがあります。相続のことを子どもたちが心配しても、「子どもから親には言い出しにくい」「思い切って言ったのに親が相手にしてくれない」という声を聞くことが多いです。
 
仲の良い家族がいつまでも仲良くいるためには、わが家の相続について家族で話し合っておくことが大切です。
 

執筆者:蟹山淳子
CFP(R)認定者
 

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