更新日: 2019.12.30 相続税

相続税法改正、何が変わった? ~結婚してから20年以上の夫婦間の贈与における優遇措置~

執筆者 : 西山広高

相続税法改正、何が変わった? ~結婚してから20年以上の夫婦間の贈与における優遇措置~
約40年ぶりに大きく改正された「相続法」の改正ポイントについてご紹介しています。前回は「預貯金の払出制度」についてお伝えしました。
 
今回は2019年7月1日から施行された「婚姻期間20年以上の夫婦間で居住用不動産を贈与した場合の特例」についてお伝えします。
 

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西山広高

執筆者:西山広高(にしやま ひろたか)

ファイナンシャル・プランナー、宅地建物取引士、宅建マイスター(上級宅建士)、上級相続診断士、西山ライフデザイン代表取締役
 
http://www.nishiyama-ld.com/

「円満な相続のための対策」「家計の見直し」「資産形成・運用アドバイス」のほか、不動産・お金の知識と大手建設会社での勤務経験を活かし、「マイホーム取得などの不動産仲介」「不動産活用」について、ご相談者の立場に立ったアドバイスを行っている。

西山ライフデザイン株式会社 HP
http://www.nishiyama-ld.com/

これまでの制度

これまでも婚姻期間20年以上の夫婦間で居住用不動産(居住用財産取得のための現金でも可)を贈与した場合には、2000万円までの範囲で(ここには基礎控除を含みませんので、最大で2110万円)贈与税を免除する特例があり、現在も利用できます。
 
ご高齢の方の場合は特に、現在居住している不動産がご主人の単独名義になっているケースが少なくありません。
 
これまでは、この制度を利用してご主人が奥さまに贈与を行ったとしても、相続の遺産分割の際には「遺産の先渡しを受けた」ものとして扱われることになっていました。これだと最終的に奥さまが取得する財産は、この贈与分をすでに遺産分割によって取得した財産として扱うことになり、最終的に奥さまが取得する財産は贈与してもしなくても同じになってしまいます。
 
亡くなられたご主人はきっと「この家には奥さんはずっと住み続けることになるだろう。自分がいなくなっても住むところに困らないように」と考えて贈与したはずです。これまでは、亡くなられた人(被相続人)の希望がきちんと反映されない制度だったといえます。
 
具体的な例を挙げてみましょう
 
<事例1>
被相続人 ご主人
相続人 奥さま(配偶者)と子2人
遺産  居住用不動産(持ち分2分の1 評価額2000万円)→1
     その他の財産 1000万円→2
配偶者への贈与 居住用不動産の持ち分1/2(評価額 2000万円)→3
配偶者の相続割合 2分の1 →4
遺言書は遺されていない
 
相続人が法定相続分どおりに相続する場合の配偶者の相続分計算
遺産総額は、居住用財産2000万円とその他の財産1000万円に、すでに贈与された分2000万円を加えて(持ち戻して)計算する。
 
5000万円(1+2+3)×2分の1【4】-2000万円【3】=500万円(配偶者の取り分)
 
この事例のように、せっかく贈与したのにその分を持ち戻すことになれば、結局贈与してもしなくても同じことになってしまいます。
 

改正で何が変わった?

今回改正されたポイントは、相続時にこの制度を利用して贈与された分の持ち戻しが免除されたことです。詳しく見てみましょう。
 
先程の<事例1>で、ご主人の贈与の趣旨は「自分がいなくなっても奥さまが住むところに困らないように」ということであったと推定できます。相続においてはもともとその資産の持ち主であったご主人の気持ちが重視されます。
 
贈与をした目的を推定する規定を設けたのが今回の改正です(遺言書があればこの考えが伝わったかもしれませんが)。
 
先程と同じ状況で考えてみましょう。
 
<事例2>
被相続人 ご主人
相続人 奥様(配偶者)と子2人
遺産  居住用不動産(持ち分2分の1 評価額2000万円)→1
    その他の財産 1000万円→2
配偶者への贈与 居住用不動産の持ち分2分の1(評価額 2000万円)→3
配偶者の相続割合 2分の1 →4
遺言書は遺されていない
 
遺産総額は、居住用財産2000万円とその他の財産1000万円。ここから奥さまは法定相続分の1/2を取得する。
 
3000万円(1+2)×2分の1【4】=1500万円(相続による配偶者の取り分)
1500万円+2000万円すでに贈与を受けた分=3500万円(贈与を受けた分を含めた配偶者の取り分)
 
この改正により、配偶者はより多くの財産を取得できるようになりました。
 

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制度活用の際の注意

夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの、2000万円までの配偶者控除の特例を利用する際には、注意しておくべきこともあります。
 
先ほどの事例では、すでに贈与を行っていたことにより、被相続人の課税遺産は基礎控除を下回るため、相続税の課税は必要ありませんでした。
 
相続税を納付する必要がある方の場合で、ご主人が先に亡くなられたときのことを考えてみましょう。
 
2000万円を非課税で贈与できると、ものすごく得のように感じるかもしれません。
 
しかし、居住用不動産を奥さまが相続すれば、課税遺産総額の半分または1億6000万円の大きいほうの金額までは非課税です。
 
もし、居住用不動産2000万円相当を贈与した場合、贈与者の財産は2000万円減るように見えますが、相続税の計算上は必ずしもそうなるわけではありません。
 
相続時に同居していた親族がその居住用財産を相続する場合、「小規模宅地等の特例」という制度を用いることで、一定の面積までの土地に関しては課税金額を80%圧縮できます(2割引きではなく8割引きです)。もし、ご主人と奥さまが同居されていて、この不動産をもともと奥さまに相続するつもりであれば、ご主人の資産の相続税評価額は400万円しか減りません。
 
生前贈与では「小規模宅地等の特例」は使えません。
 
さらに、この特例を使えば「贈与税」は非課税ですが、不動産取得税や登記にかかる費用、さらにその後は奥さまにも固定資産税も課税されるようになります(固定資産税の納付書はその資産を所有者する代表者に送付され、宛名には「他1名」と記載されますが)。
 
相続で取得した不動産には不動産取得税はかからず、登記にかかる登録免許税も0.4%と小さく抑えられています(贈与の場合は2.0%)。
 
特例を利用する際には、本当にメリットがあるかどうかを十分に検討しておく必要があります。
 

まとめ

今回の改正で、「婚姻期間20年以上の夫婦間で行われた居住用不動産の贈与の特例」を用いた場合には、財産の持ち戻しが免除されることになりました。これにより、もともとの資産の所有者であった被相続人の意向が反映しやすくなったといえます。
 
ただし、制度の利用にあたってはそのメリット・デメリットを踏まえ慎重に考える必要があります。一度贈与し、あとで「失敗した」と気づいても、元に戻すには新たな贈与が発生したと捉えられ、余計な税金を納める必要が出てきます。
 
次回は、今回の改正で新たに設けられた「配偶者居住権」についてお伝えします。
 
執筆者:西山広高
ファイナンシャル・プランナー、宅地建物取引士、西山ライフデザイン代表取締役