更新日: 2021.01.22 相続税
相続税の申告時期もうすぐ。素人判断は危険要素がいっぱい
そのため中途半端な知識で、都合よく解釈し行動すると、税務署のチェックで思わぬ間違いを指摘され、追加納税をすることになりかねません。コロナ禍であっても、相続税に対しては税務署は容赦ないと考え、素人判断をするのではなく専門家に知恵を借りることが大切です。
相続財産額を勝手に判断しない
相続税は相続財産の額に応じて課税されますが、相続財産が控除額以下だと、課税されず申告の必要もない税金です。相続税の控除額(納税義務のない金額)は、下記のとおりです。
■5000万円+相続人数×1000万円
相続人が1人であっても、相続額6000万円以下であれば、非課税でした。ところが2015年以降は、下記のように変更になり、相続人が1人の場合は、3600万円を超えると納税対象になりました。
■3000万円+相続人数×600万円
このことを知らずに以前の基準を前提に、相続人2人で財産総額が5000万円程度なので「申告しないで大丈夫!」と、勝手に判断してはいけません。また都会に住んでいる人が、自宅の土地は広くないし、40年ほど前に買った価格で評価し、大した金額にはならないと思い込み、申告せずにいると税務署から厳しい指摘を受けます。
税務署は、相続税の控除額が減額されたことで、所得税などよりも詳しく調査をしています。納税者数も所得税などに比べ少ない、控除額の引下げで納税者が増えている、などの条件もあり、亡くなった人が所有する土地の評価額はもちろん、金融資産額についても、税務署はかなり把握しているはずです。
もし、相続財産が少ないと思い込み無申告でも大丈夫とたかをくくっていると、税務調査の対象となり、加算税を含め思わぬ税額を課せられます。素人判断は危険ですので、まず専門家に相談することをお勧めします。
相続税の金額を過少に計算しない
相続税の申告時に相続財産を過少に見積もる、申告漏れがある、といった場合は、税務署から間違いを指摘されます。財産を見落としている場合はもちろん、評価額を低く計算すると、その誤りを指摘されます。税理士などの専門家ではなく、相続人自身が作成した申告書は、特例事項を見落とすなどの間違いも多く、税務署もその前提で見ています。
相続財産のうち、低く評価しがちなのは土地です。土地の評価額を決める基準は、その土地を相続した年の「路線価」です。この路線価と土地面積で相続財産額が確定します。
これを知らずに購入時の価格などで申告すると、税務署から修正を求められます。路線価を確認し、正確に税額計算し直します。2020年の納税では、路線価が上昇していても前年の路線価で申告できる特例が認められ、2019年の路線価で申告できます。
銀行預金や株式等の有価証券についても、故意に過少申告をする、申告漏れを意図的に行うことは、修正申告が待ち構えています。預金額などは税務署にかなり知られている、と考え申告しましょう。
特に資産額が多い人ほど、税務署の実態把握は進んでいます。コロナ禍で2019年の所得減の人は多く、所得税の納税額は大きく減る人もいると思われますが、相続税には減額要因はほとんどないため、容赦なく課税されます。
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不自然だと思われる金融資産の移転
死亡直前に故人の同意を得て銀行口座から、相続人の銀行口座に預金を移転しても、「贈与」とは認定されません。相続開始前の3年以内に相続人へ贈与された財産は、相続時に相続財産として再計算する規定があるためです。
ましてや故人の銀行預金口座から現金を引き出し、タンス預金の形で隠そうとしても難しいでしょう。亡くなりそうな人の金融資産は税務署が目をつけており、不自然な預金の移転は追及対象になります。
少なくとも亡くなる3年以前に、金融資産の移転を行い、決められた「贈与税」の支払いを済ませておけば、こうした問題は回避できます。全額移転は難しいとしても、一部でも行うことは容易です。また相続人への贈与ではなく、幼い孫名義の口座に100万円単位の金額を移し替えは大丈夫でしょうか。
これも贈与ではなく、孫の名を借りた本人の「名義預金」と認定され、相続財産となります。また近年海外に口座をつくり資金移管をする人も多いですが、海外資産も税務署の把握は確実に進んでいると考えられます。
死亡直前の人が不可解な不動産購入
銀行預金などの金融資産に比べ、土地やマンションなどの不動産のほうが財産評価額は低く抑えられます。そのため銀行預金を引き出し、高級マンションを購入することで、評価額は約8割に減額できます。タワーマンションだとさらに効果があります。
ここ数年、節税目的でタワーマンションの購入者も増えていますが、これを亡くなる直前に購入すると、税務署の厳しい監視の目が光っています。
亡くなる3年以前の高額不動産の購入であれば、本人の居住が目的との説明ができるかもしれません。しかし高齢で病身の人が、死亡直前に居住目的で購入したとは、税務署は見てくれません。相続税の減額を狙った「租税回避行為」と考え、相続税評価額ではなく、現在の流通価格での評価での修正申告を求めてくる可能性があります。
亡くなった本人の意思と関係なく、相続人が明白な節税目的で高額不動産を購入していることがわかれば、重加算税の対象にもなります。相続を目前に相続税額を少しでも減らそうとしても、泥縄的であることは否めず、思いどおりの節税効果はあげられません。
特に多くの財産を所有している人ほど、税務署の調査は進んでおり、所有する土地の評価額、金融資産の総額はかなり把握されています。相続税対策としては、時間をかけ必要なら贈与税を払い進めていくことが求められます。
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト
監修:中嶋正廣
行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。