更新日: 2021.02.12 その他相続

疎遠な長男に相続財産を渡したくない…相続人から外すことはできる?

執筆者 : 宿輪德幸

疎遠な長男に相続財産を渡したくない…相続人から外すことはできる?
「長男は近くに住んでいるのですが、疎遠でここ10年は会っていませんので、相続財産を渡したくありません。どうすればいいのでしょうか」と75歳男性からの相談です。
宿輪德幸

執筆者:宿輪德幸(しゅくわ のりゆき)

CFP(R)認定者、行政書士

宅地建物取引士試験合格者、損害保険代理店特級資格、自動車整備士3級
相続専門の行政書士、FP事務所です。書類の作成だけでなく、FPの知識を生かしトータルなアドバイスをご提供。特に資産活用、相続トラブル予防のため積極的に「民事信託(家族信託)」を取り扱い、長崎県では先駆的存在となっている。
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生前の申し立ておよび遺言により相続人から廃除できる

相続人の廃除は、被相続人が生前に「推定相続人の廃除」の審判を家庭裁判所に申し立てる場合と、遺言による場合があります。遺言による廃除は、相続発生後に遺言執行者が家庭裁判所に申し立てをしなければなりません。排除ではなく廃除です。
 
廃除する相手は、遺留分のある推定相続人です。推定相続人が遺留分のない兄弟姉妹であれば、遺言により財産を渡さないようにすることができますので、相続人の廃除は必要がないのです。
 

民法
(推定相続人の廃除)
第八百九十二条 遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。
 
(遺言による推定相続人の廃除)
第八百九十三条 被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。この場合において、その推定相続人の廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。

 

廃除の理由があるか

廃除が認められるのは、虐待や重大な侮辱または著しい非行があったときです。実際に認められた例としては以下のようなものがあります。

・父のお金を勝手に使い、多額の物品購入代金を負担させ、これを注意した父に暴力をふるい行方不明になった長男。
 
・暴力団員と結婚し、反対する父の名で披露宴の招待状を出し、精神的苦痛を与え名誉を棄損した娘。
 
・母に継続的に暴力を加え、精神障害・人格障害があるとの主張を繰り返すほか、貯金3500万円を払い戻し、取得して返済の意思がない長男。
 
・窃盗などにより何度も服役し、交通事故を繰り返したり消費者金融から借金を重ねたりした長男。賠償金の支払いや返済をしなかったため、父が被害者らに謝罪し被害弁償や返済をした。

親族間における財産犯については、「親族相盗例」という特例があり、家族内での窃盗や横領などについてはその刑が免除されます。
 
相続人廃除が認められるためには、虐待や侮辱、非行により、被相続人がその者と相続的協同関係を継続することが一般に期待できない程度になっている必要があります。
 
今回の相談者のように疎遠で何年も会っていないという理由だけでは、相続人の廃除が認められる可能性は低いと思われます。
 

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相続人廃除の効果

推定相続人の廃除の審判が確定したときには、その推定相続人は直ちに相続権を失います。そして、申立人または遺言執行者は審判確定した日から10日以内に、その旨の戸籍の届け出をしなければなりません。
 
不動産の相続登記を申請する際には、廃除事項の記載のある戸籍謄本を添付します。廃除の審判が確定した後、廃除を取り消したいときには、家庭裁判所への請求や、遺言により取り消すことができます。
 
なお、廃除の効力はその相続人の相続にのみ及びますので、その者の子は代襲相続人となることができます。
 

相続放棄をさせる

それでは、相続放棄はどうでしょうか。相談者が長男に相続放棄をする旨の誓約書を書かせることはできそうですが……。
 
被相続人の生存中に相続放棄をすることはできません。相続放棄は相続開始後、期間内に家庭裁判所に手続きをしてできるものです。前述のような誓約書を作成したとしても、法律上の効果はありません。
 

考えられる対策

相続廃除できるほどの理由もない場合は、遺言や民事信託により、遺産の分割方法を指定してその者に渡る遺産を少なくするのが現実的な方法です。その場合に注意すべきは「遺留分」です。
 
子には法定相続分の1/2の遺留分があり、受け取る遺産がこれより少ないと、遺留分侵害額請求をした場合に他の相続人に支払いの義務が生じます。いわゆる争族に発展しかねませんので、遺留分の遺産は渡るようにした方が安全です。
 
執筆者:宿輪德幸
CFP(R)認定者、行政書士
 

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