更新日: 2021.03.09 損害保険

区(市)民交通傷害保険とは? FPが解説

執筆者 : 大泉稔

区(市)民交通傷害保険とは? FPが解説
毎年この時期になると、区(市)民交通傷害保険の募集案内が届く家庭もあるでしょう。「区(市)民交通傷害保険は区(市)役所が募集しているから安心」「比較的安い掛金で加入することができるから、家計に優しい」と気になっている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
 
本稿では、区(市)民交通傷害保険がどのようなものなのか見ていきます。
大泉稔

執筆者:大泉稔(おおいずみ みのる)

株式会社fpANSWER代表取締役

専門学校東京スクールオブビジネス非常勤講師
明星大学卒業、放送大学大学院在学。
刑務所職員、電鉄系タクシー会社事故係、社会保険庁ねんきん電話相談員、独立系FP会社役員、保険代理店役員を経て現在に至っています。講師や執筆者として広く情報発信する機会もありますが、最近では個別にご相談を頂く機会が増えてきました。ご相談を頂く属性と内容は、65歳以上のリタイアメント層と30〜50歳代の独身女性からは、生命保険や投資、それに不動産。また20〜30歳代の若年経営者からは、生命保険や損害保険、それにリーガル関連。趣味はスポーツジム、箱根の温泉巡り、そして株式投資。最近はアメリカ株にはまっています。

そもそも区(市)民交通傷害保険とは

区(市)民交通傷害保険とは、文字通り「区(市)民」を対象に、区(市)役所が窓口となって募集している、主として交通事故によるケガの補償を目的とする保険です。ただし、すべての区(市)で行われているわけではありません。例えば、東京都23区では、14の区で募集が行われています。
 
区(市)民交通傷害保険は募集の時期が限られており、「加入しようと思っていたら、締め切られていた」という方もいらっしゃるかもしれません。
 

自転車利用者の視点から

東京都では2020年の4月から、自転車利用者に対し「対人賠償保険」の加入が義務化されました。自転車利用者の中には、区(市)民交通傷害保険への関心をお持ちの方もいらっしゃることでしょう。
 
「対人賠償保険」とは、自転車を利用していて事故を起こしてしまった、あるいは事故に巻き込まれたときに、人を傷つけたりした場合に、治療費などを賠償するための保険のことです。
 
以下では、自転車利用者の視点で、この区(市)民交通傷害保険を見てみることにしましょう。
 

自転車利用者の視点から・・・「区民交通傷害」という補償について

区(市)民交通傷害保険には、加入者自身のための補償として「区民交通傷害」という補償があります。
 
自転車利用者の対人賠償保険が義務化とはいえ、相手だけではなく、自転車利用者のケガのリスクも考えるべきではないでしょうか。自転車は車とは異なり、利用者を守るボディがありません。事故を起こしても、事故に巻き込まれても、自転車利用者がケガを可能性は高いと考えられます。
 
東京都が行っている自転車の利用者の対人賠償保険の加入義務化というと、どうしても「賠償責任保険」、つまり事故相手への補償だけに目線が行きがちですが、自転車の利用者のリスクにも備えるべきでしょう。
 
なお、この補償は「自転車の利用時」に限らず、「歩いているときに車に跳ねられた」場合のほか、搭乗していた旅客機の墜落、乗車していた客船の沈没など、幅広い交通事故も補償の対象になっています。
 
さて、「区民交通傷害」の補償の中身は、どうでしょう?
 

 
上の図表のとおり、「区民交通傷害」には保険金コースが4つあり、いずれも一時金タイプの保険金です。では、最も高額なCコースを見てみましょう。
 
死亡または重度障害時に600万円が支払われるほか、ケガの程度に応じて1~8等級まで、保険金が段階的に定められています。
 
ケガの程度が1~3等級は、継続入院治療の日数に応じて等級が定められ、等級ごとに120万円・65万円・35万円、4~8等級は、治療期間と実治療日数に応じて等級が定められ、3万円〜最高20万円です。
 
4つの保険金コースの、それぞれの保険金額は図表のとおりです。新設コースのXは、ほかのコースに比べると保険金額が少ないようにも思えますが、「自転車賠償責任プラン」に重きを置きたい方向けのコースだと考えられます。
 

自転車利用者の視点から・・・「自転車賠償責任プラン」という補償について

「自転車賠償責任プラン」は、自転車を利用していた加入者が交通事故を起こした、あるいは交通事故に巻き込まれた結果、交通事故の相手の損害を賠償する義務を負ったときに、その賠償金を払ってくれる補償です。
 
先述の東京都で2020年4月から加入が義務化された「対人賠償保険」が、まさに、この「自転車賠償責任プラン」に該当します。なお、この「自転車賠償責任プラン」は対人に限らず、お店や車といった「対物賠償」も補償します。
 
ところで、事故によりケガをしてしまったり、お店などを壊してしまったりしたら、事故状況の刷り合わせや事故の責任の割合(=過失割合)など、相手と話し合わなくてはならないことがあります。こうした話し合いも、この「自転車賠償責任プラン」なら、保険会社が代わりに行ってくれる示談代行サービスが付いています。
 
そして、「自転車賠償責任プラン」の保険金額の上限は1億円です。
 
なお、平成27年の区(市)民交通傷害保険のパンフレットを見ると、「自転車賠償責任プラン」の保険金額は1000万円で、示談代行サービスの文言はありません。東京都の自転車利用者の対人賠償保険への加入が義務化されたことから、区民(市)交通傷害保険も時代の要請に応えて変化をしているといえるでしょう。
 
先述の区民交通傷害のXコースを除く3つのコースは、いずれも「自転車賠償責任プラン」を除いた『「区民交通傷害」と「被害事故補償」だけのコース』も設けられています。火災保険や自動車保険など、他の損害保険の特約で自転車の賠償責任保険をカバーできる方の場合には、『「区民交通傷害」と「被害事故補償」だけのコース』の加入を検討することもできそうですね。
 

自転車利用者の視点から・・・「被害事故補償」という補償について

「犯罪行為による被害事故」と「ひき逃げによる被害事故」が補償の対象になっていますが、いずれの場合も自転車の利用の有無は問われていません。
 
ひき逃げによる被害事故とは、自動車等の事故に巻き込まれた場合が補償の対象ですが、自転車によるひき逃げは対象外です。そして、「被害事故補償」補償内容は、どちらも死亡と後遺障害1~4級と、限定的なものになっています。
 

まとめに代えて

区(市)民交通傷害保険は、「区民交通傷害」と「自転車賠償責任プラン」、それに「被害事故補償」の3つの補償がセットになったXJコース・AJコース・BJコース・CJコースの4つのコースがあります。また、「自転車賠償責任プラン」を除いたAコース・Bコース・Cコースもあります。
 
3つの補償がセットになったCJコースが最も高額ですが、その掛金は年間で3500円です。つまり、最も高額なCJコースでも1ヶ月当たり300円もしない掛金で、自転車利用者のケガ等への補償も得ることができるのです。
 
3つの補償をセットにしつつも「自転車賠償責任プラン」がメインのXJコースの掛金は、年間で1400円です。1ヶ月当たり117円ほどですから、自転車の利用頻度が低い方に向いていそうなリーズナブルなコースですね。
 
なお、掛金の払い方は1年分を一括で払う年払いのみで、月払い等はありません。
 
掛金が安いか高いかは個人の感覚だとは思いますが、補償内容の割にリーズナブルな、まさに区(市)民向けの交通傷害保険だといえるのではないかと筆者は思います。
 
(参考)
東京都都民安全推進本部総合推進部交通安全課「令和2年4月1日から自転車利用中の対人賠償事故に備える保険等に加入している必要があります!!」
練馬区「区民交通傷害保険」令和3年度用 ご案内(リーフレット)」
 
執筆者:大泉稔
株式会社fpANSWER代表取締役
 

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