更新日: 2019.01.11 インタビュー
人生100年のビジョンマップ ~心もお財布も幸せに生きよう~ PART6
フィデリティ退職・投資教育研究所・所長 野尻哲史さんに聞く 第1回:老後の貯蓄ゼロ世帯が4割って本当ですか?
Interview Guest : 野尻哲史
この対談企画では、様々な分野の方にお話しをお聞きし、人生100年時代のビジョンを読者のみなさんと作り上げていきたいと考えています。
今回はフィデリティ退職・投資教育研究所所長 野尻哲史様にお話しを伺いました。
日本人の意識調査 10,000人アンケートから見えてくる人生100年、みなさんのこれからにお役に立つお話をたくさんいただきました。
Interview Guest
一橋大学卒業。内外の証券会社調査部を経て、現在、フィデリティ投信会社にてフィデリティ退職・投資教育研究所 所長。
日本証券アナリスト協会検定会員、証券経済学会・生活経済学会・日本FP学会・行動経済学会会員。著書に『米国株式市場の死と再生』(経済法令研究会)、『投資力』(日経BP社)、『退職金は何もしないと消えていく』(講談社+α新書)、『老後難民』(講談社+α新書)、翻訳に『カリスマ・ファンド・マネージャーの投資術』(東洋経済新報社)。
interviewer:山中伸枝(やまなか のぶえ)
ファイナンシャルプランナー(CFP)
株式会社アセット・アドバンテージ 代表取締役
1993年米国オハイオ州立大学ビジネス学部卒業。メーカーに勤務し、人事、経理、海外業務を担当。留学経験や海外業務・人事業務などを通じ、これからはひとりひとりが、自らの知識と信念で自分の人生を切り開いていく時代と痛感し、お金のアドバイザーであるファイナンシャルプランナーとして、講演・相談・執筆を中心に活動。
1万人に対するアンケート調査で問題点を探る!
山中:野尻さんのお仕事を教えて下さい。
野尻:フィデリティ退職・投資教育研究所は2007年3月にできました。そもそも米国におけるフィデリティという会社は、ボストンに拠点のある会社で、いわゆる401k、日本でいうところの確定拠出年金(DC)の運営管理機関もやっていてシェアが25%くらい、それの傘下が利用している従業員数で1,500万人という会社です。
いわゆる資産形成をサポートする会社なのですが、現役時代から老後までをしっかり支えますよというメッセージをずっと送り続けているんです。そこで「日本でもそういうの作ろうよ」って話が持ち上がりました。
当時私は、将来のために何もやってらっしゃらない方に対し、資産形成の必要性をどうやって広げていくかってことを考えていたんですが、お伝えの仕方が分からなかったので、まず1万人に対してアンケート調査やろうと。
投資をしている人としていない人を比較しながら議論していくと、何が問題点なの?どこに課題があるの?っていう事も分かるだろうと思って、それをやり始めたのが2010年くらい。当時はアメリカにすごい良いものがあったので、それをそのまま日本で一生懸命やったんですが、全くダメでした。
山中:そうなんですか?何が違ったんでしょう?
野尻:メディアの人でさえ理解できなかった。これはメディアが悪いという訳ではなく、「それってどうやったら分かってもらえるんでしょうね」っていう風になった。そこで、自分たちなりのメッセージに変えていこうよって少しずつ広げて来て、かつそこにNISAとかiDeCoとか出て、日本全体が変わってきたなという状況です。その一方で、まだまだ7割の人は「投資してません」っていうのが実態です。
山中:先ほどアメリカの手法を日本に持ってきたとおっしゃいましたが、具体的にどういうところがうまくいかなかったんですか?
野尻:典型的だったのは、ターゲット・リプレイスメント・レートとか、リタイアメント・レディネス・インデックスっていうのを日本にも持って来ようとしたことです。
これは何かというと、あなたの今の資産、今後の運用の状態によって、リタイアする頃には直前の年収の大体何%ぐらいを手にしているはずですっていう数値を一般論として作って、日本人の退職準備度合いみたいなものを現していこうとしたんです。
例えばアメリカでは、退職後は現役世代の最終年収の70%とか85%で生活をします。
このレベルに対してあなたの退職準備度合は60%ですから、もうちょっとやっていきましょうってメッセージが出せるんですが、日本にはそれが通用しない。なぜなら目標になる数値、アメリカでいえば70%とか、85%といった数値が議論されていないからです。そこで独自の指標がいるのではないかと考えて、アンケートを行ったのです。そして出てきた数字に驚いたのです。1万人アンケートで「退職後の生活に備えて、今あなたはいくらのお金を持っていますか?」と聞いたらなんと4割の方が0円と回答したのです。
4割の人が老後の準備ゼロ
山中:4割の人が老後の準備ゼロですか?
野尻: そりゃ20代は仕方ないですよ。しかし50代の男性も28%ぐらい「0円です」って答えるわけです。そしたら、こっちのほうがメディア的にはすごいウケたわけです。金融庁がNISA導入のときにも、預金0円世帯が38 %って打ち出しました。
山中:貯蓄をしている人は少ないけれど、老後に対する不安は大半の方が持っている。このギャップはどうお感じになってらっしゃいますか?
野尻:公的年金の存在っていうのは 善かれ悪しかれ色々と問題があって、多くの人が「公的年金は信用できない」って言うけれど、退職すると公的年金を頼りにするんです。
言ってみればゆでガエルのエピソード、何となく手厚いものがあって、その中で生活ができる、もしくはできていたって前提があるので、色々と批判的な生き方をしても「きっと何とかなる」って高をくくっているんじゃないかって気がします。
イギリスはすごくはっきりして、途中から方向転換したわけですが、自助努力をせざるを得ないっていう認識をもっと作ることが、日本には大事な気がしています。
山中:その方向転換っていったいどういったものだったんですか?
野尻:イギリスは、2000年を過ぎてから政府が3人の有識者に議論をさせてむちゃくちゃ分厚くて読み切れないくらいのすごい報告書を出したんです。
要は「公的年金ではあなたの老後はカバーできないよ」っていう内容なんですけど、興味深いのが、「今のままでいくと高齢者は貧しい生活を強いられる。それでいいか?」とか「税金をもっと上げてその人たちをカバーする。それはいいか?」って4つくらい選択肢を出して、その中の1つが自助努力をもっとやるっていうのだったんです。「高齢者は貧乏な生活をしても仕方ない」っていうのが、最も賛同者が少なかったんですね。
山中:自分の行く末ですものね~。貧しくても良いとは言えないです。
野尻:税金をつぎこむのもいい、自助努力をするのもいいっていうのが非常に多かった。つまり、自助努力の必要性は、世論を作っていくプロセスでやるべきことだと思うんです。日本はちょっと違うでしょ?
年金は、制度としては100年安心だけど、それを皆が「嘘だ」と思ってるわけです。何故かというと、制度が大丈夫だってことイコールちゃんと年金がもらえるっていう風に言ってるように聞こえるから。
でも本当は、「制度はあるけど、これだけじゃあなたの老後はカバーできないから、自助努力もやってね」ってことを国がしっかりと言えば良いんですが、それをしていない。
山中:確かにそのメッセージは弱いですね。イギリスのように、厳しい現実を見せて、「じゃあ、あなたはどうするんだ?」って問うべきです。
野尻:茹で上がってお湯に飛び込めるかって言ってるのと同じですよ。それが無理ならもっと自分で努力をする方法を考えるだろうと思うんです。
山中:日本は格差格差といいつつも、正直欧米と比較したらそこまでの格差ではないですよね。私もアメリカで生活をしていましたが、格差を目の当たりにすることもあり、貧困に対する恐怖は日本の比ではなかったです。もっとしっかり現実を見つめ、将来の所得というのは、今の自分の所得を先送りすることによって作っていくという発想も必要です。
interviewer:山中伸枝(やまなか のぶえ)
ファイナンシャルプランナー(CFP)
株式会社アセット・アドバンテージ 代表取締役
Photo:新美 勝(にいみ まさる)
フリーランス・フォトグラファー
人生100年のビジョンマップ ~心もお財布も幸せに生きよう~ PART6
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