更新日: 2021.02.01 その他暮らし

宅地供給は大幅に増大する?「生産緑地」の2022年問題とは

執筆者 : 黒木達也 / 監修 : 中嶋正廣

宅地供給は大幅に増大する?「生産緑地」の2022年問題とは
東京都を含む1都3県には、7000ヘクタールを超える「生産緑地」と呼ばれる、2022年以降、住宅地に転換可能な土地が存在します。これらは農地の所有者が、農業を続け宅地に転換しないことを条件に、一般農地並みの安い固定資産税を支払ってきた土地です。
 
これが2022年以降、土地所有者が申し出れば宅地に転換できるため、大量の宅地が供給される心配があります。
黒木達也

執筆者:黒木達也(くろき たつや)

経済ジャーナリスト

大手新聞社出版局勤務を経て現職。

中嶋正廣

監修:中嶋正廣(なかじま まさひろ)

行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。

長野県松本市在住。

そもそも「生産緑地」とは

戦後の高度成長期に大都市の人口が急増し、首都圏、近畿圏、中部圏などの大都市周辺で、住宅不足の解消を目的に、農地から宅地への転換が急速に進みました。
 
行政は大都市近郊地域を「市街化区域」と「調整区域」に分け、市街化区域内にある農地に対して、宅地並みの課税をすることで、売却による宅地化を推進しました。営農をやめる農家が増え、宅地への転換を推進する半面、農地を含む緑地を保護する姿勢は欠けていたといえます。
 
そのため、乱開発の危険が高まり、危機感をもった政府は、農業を継続したい農家を守る目的で、1974年に「生産緑地法」を制定します。農業を継続したい農家に、生産緑地の指定を行い、通常の農地並みの固定資産税のまま、市街化区域であっても農業が継続してできる配慮がなされました。
 
この法律は1992年に改正され、市街化区域内において、保全する目的で「生産緑地」として指定する農地は、30年という期限を区切って営農を条件に、固定資産税を一般の農地並みとすることにしました。安い固定資産税と引き換えに、農業以外の用途に使わない、新規の建築物は建てられない、といった制約を設けました。
 
営農が前提ですが、例えば雑木林や耕作放棄地も緑化対策に有効であれば認められました。農家が指定解除を申請すれば、宅地に転用することもできるようになっています。
 
この指定を受けてから30年近くが経過し、2022年に指定期限が切れ、首都圏で約7000ヘクタール、日本全国では約1万ヘクタールを超える土地がこの対象となります。土地所有者が、土地の買い取りを求める方向で行動すれば、宅地供給が大幅に増え、土地の価格が暴落するのでは、といった不安の声も聞こえてきます。
 

本当に宅地の大量供給は起こるのか

実際に2022年に所定の期限を迎え、これまで農地並みの固定資産税が宅地同様に変更になれば、営農を続けたい土地所有者にとっては大変な打撃です。近郊農家として野菜づくりなどを行うことも、大変厳しくなります。
 
多くの土地所有者が営農を放棄することになれば、宅地が供給過多となる危険があり、思いどおりに転用ができなくなるかもしれません。行政にとっても、人口減少社会が進行するなか、急速に宅地供給の増加は好ましい事態ではなく、何らかの対策も必要になります。
 
一方で開発業者にしてみると、安く土地を購入できれば、マンションや戸建て住宅を建設し、機を見てより高く販売したいという気持ちになります。農地所有者に危機感をあおり買いたたく行動も起こる可能性すらあります。
 
現在のコロナ禍で、今後の市場予測は難しいところですが、とにかく安い土地があれば購入したい、という衝動に駆られても不思議ではありません。もし何の政策手段も取らずに、大量の宅地が供給されれば、現状でも人口減少などによる空き家問題が深刻化するなか、さらに、戸建て住宅、アパート、マンション大量建設が進み、不動産不況を招くことも想像できます。
  

宅地の大量供給を防ぐ対応策

もしこのまま放置すると、2022年時点で宅地が大量供給される危険があります。それを防ぐために、政府は生産緑地に関する法律を2016年から順次改正し、いくつかの対応策を打ち出しました。
 
その第1の方策が「特定生産緑地指定制度」の創設です。いままでの制度を、希望すれば今後10年間継続可能にしました。この指定を受ければ継続して営農ができ、固定資産税も現状と同じく農地並みです。
 
このため、後継者をどうするかなどを念頭に、現在と同様の営農が継続できます。この選択をする農家が増えれば、土地が一時に大量供給される可能性はかなり減るはずです。この指定は10年ごとに更新可能とし、長期間継続的な営農も選択できます。
 
第2の方策は、生産緑地の区域内での規制緩和の実施です。これまでは、指定された区域内は営農が前提のため、農業に直接関係する施設以外の建設はできませんでした。しかし新たな立法措置をとり、他の農家や法人への土地の貸付を可能にするなど、近郊農地の再活用ができるようになりました。
 
営農目的で土地を貸し付けるだけでなく、市民農園の経営や田舎風カフェの開設など、これまで以上に事業展開が可能になりました。
 
とくに高齢で営農を続けることが厳しくても、他人に農地を貸すことができ、そこでの事業が展開できます。子どもが営農を続けるかどうかの判断ができない場合でも、とりあえず第三者に土地を貸し付けて、様子を見ることも可能です。
 
第3の方策は、生産緑地の対象となる土地の面積を300平方メートルまで引き下げたことです。これまでの基準は500平方メートルでしたから、かなり狭い農地であっても、継続して生産緑地の指定を受けることができます。そのため農地の一部を宅地として売却し、残った土地は指定を受け営農するという選択も取れるようになりました。
 
このような方策がとられることで、2022年に農地の宅地化の急速な進行を防ぐことは可能になると思われます。宅地価格の極端な下落も防げるかもしれません。
 
高度成長期とは異なり、人口減少社会に向かおうとしている日本では、何よりもソフトランディングが必要です。さらに宅地開発よりも、自然緑化に重点を置いた社会の実現が望まれる時代になってくるはずです。
 
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト
 
監修:中嶋正廣
行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。
 

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