公開日:2020.01.08 老後

入居困難だった「特別養護老人ホーム」に変化が

数年前までは、公営の「特別養護老人ホーム」(通称「特養」)は、比較的安く入居ができるために入居希望者が殺到し、多くの人が「順番待ち」の状態が続いていました。
 
老人ホームを代表する施設でしたが、入居希望者の健康状態や経済状態によって、入居先の選択肢が広がり、最近では一時ほどの入居困難な状態は変わりつつあります。場所によっては、空室が出る特別養護老人ホームもあるほどです。
 
黒木達也

執筆者:

執筆者:黒木達也(くろき たつや)

経済ジャーナリスト

大手新聞社出版局勤務を経て現職。

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黒木達也

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執筆者:黒木達也(くろき たつや)

経済ジャーナリスト

大手新聞社出版局勤務を経て現職。

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老人ホームの形態は多様化している

老人ホームといってもさまざまな種類があります。経営主体が公営なのか 民間なのか、入居は介護認定を受けた人だけか、誰でも入れるのか、医師や看護師が常駐している・いない、など各施設によって事情は異なります。
 
ここでいう「特別養護老人ホーム」は、自治体などが管理する公営施設(社会福祉法人などが運営)で、介護認定者を中心に入居、医療スタッフは原則常駐している介護施設を指します。
 
比較的古くから存在しており、かつては老人ホームというと、この「特別養護老人ホーム」と考える人が多かったと思います。平均寿命も80歳の時代では、本当に体力が弱っている人が、人生の最後を迎える時期が近づいてから入居していました。
 
ところが最近では、平均寿命も大きく延び、老人ホームへ入居しようとする人たちが、人生最後を迎えるために入居するのでなく、健常者が趣味を生かして第二の人生を楽しむ施設も生まれ、ニーズに応じて選択・入居する時代に変わってきました。
 

要介護3以上の人だけが入居

多くの高齢者が比較的経費の安い「特養」への入居を希望したために、競争率が高まり順番待ちが日常化していました。公営であるために、民間の老人ホームに比べ「費用が安い」ことが大きな魅力でした。
 
比較的収入が少ない人だけでなく、介護認定が軽い人や“いざ”というときの備え目的の人まで、入居希望を出していたため競争率が高くなっていました。
 
ところが2015年ころから、特養では「入居条件の厳格化」が進み、介護認定を受けた人、中でも「要介護3」より重症な人以外は、新たに入居しにくくなりました。手厚い介護が必要な人が、長期間にわたって入居できないと介護する家族も大変だ、という発想に方針転換をしたのです。
 
介護度が低い人や軽度の認知症の人は、「特養」以外の施設を探してもらうことになります。そうした中で、民間の諸施設(有料老人ホームなど)の建設も積極的に進み、比較的介護度が低い人が入所できる施設も大幅に増えてきました。
 
老人ホームへの入居希望者のうち、介護度による「棲み分け」が実現したのです。これにより介護が最も必要な重症者は、特養への入居がしやすくなりました。
 

民間の介護施設が増え選択肢が広がる

2015年以降、民間の老人ホームの建設が進んだため、老人ホーム=特養という発想をする人は少なくなり、選択肢が広がってきたのです。とくに民間の施設は極めて多様で、どのようなレベルの人でも入居が可能になっています。
 
介護認定を受けていない健常者でも、将来介護が必要になったときに備えて入居できる施設も出てきました。高額な入居金が必要ですが、極めて快適に暮らせる高級マンション並みの施設もあります。
 
とくに個室への入居を希望する人には、大部屋もある特養は入所希望対象の施設から外れ、民間施設を選択する傾向にあります。特養にも個室は増えていますが、大部屋に比べ経費が高く、民間との差は縮小しているためです。
 
一方で、民間で比較的安く入居できる施設も増え、「民間=高い」というイメージもかなり払拭されつつあります。民間の介護施設が急速に増えたことで、多くの人が「特養」入居を第1の選択肢として考えなくなり、従来のような長期の「入居待ち」状態が、かなり解消されてきたといえます。
 

人手不足の深刻化が今後の課題

さらに大きな問題は、ここ数年の深刻化する人手不足です。とくに「特別養護老人ホーム」に限ったことではありませんが、非常に深刻です。特養など重症者を多く抱える施設だけでなく、軽症者が多い施設でも、就職を希望する人が減少しています。離職者も転職者も、後を絶ちません。
 
そのため「特養」の中でも、介護スタッフ不足で定員割れを起こし空室がある、新規に建設したがスタッフを集まらず開業できない、待機者を多く見積もったため定員が埋まらない、といったケースが現実に起こっています。
 
ハード面(設備)は充足しているが、ソフト面(人材)が不足しています。とくに他の仕事を自由に選べる地域では、スタッフの確保に大変な労力が必要です。今後は、外国人労働力に頼る機会も増えてくることは確実です。
 
人手不足は東京都心部などが深刻で、「特養」の数自体がもともと少ないことも影響して、現在でも入居待ちとなる施設があります。介護を必要とする高齢者の人数に対して、受け皿となる入居可能施設も非常に少ないためです。
 
民間の施設では、入居に際しての費用も高額になります。現在でも東京都心部に住む高齢者が、自宅近辺の特養に入居することは、非常に難しくなっています。都心部よりも就業機会の少ない地方へ狙いをつけ、特養を保養地や山村に新しく建設する動きが顕著になっています。
 
東京都23区を見ても、都心の区ほど地価も高く建設コストがかかるという側面もありますが、人手を比較的確保できる郊外や他県へ建設する動きが定着しつつあります。
 
都内であれば、西多摩地区に特養を建設する自治体も増えています。都心部在住で要介護3の認定を受けたとしても、自宅近辺の特養への入居は難しいため、別の地域の特養への入所を前提に考える必要があります。
 
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト

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