老後資金2000万円あれば足りるの? その1 収入のばらつき

配信日: 2021.02.08

この記事は約 4 分で読めます。
老後資金2000万円あれば足りるの? その1 収入のばらつき
今から約1年半前の2019年6月に金融庁より「金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書『高齢社会における資産形成・管理』」が提示され、老後資金は最低2000万円必要だということが話題になりました。
 
それ以降のマスコミ報道もあり、退職するまでには2000万円を貯蓄しておかないといけないという了解が一般的になった感があります。
 
年金だけでは老後は過ごせないということは正しいのですが、それでは2000万円あれば老後は安泰なのでしょうか? その問題をあらためて考えてみたいと思います。
浦上登

執筆者:浦上登(うらかみ のぼる)

サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー

東京の築地生まれ。魚市場や築地本願寺のある下町で育つ。

現在、サマーアロー・コンサルティングの代表。

ファイナンシャル・プランナーの上位資格であるCFP(日本FP協会認定)を最速で取得。証券外務員第一種(日本証券業協会認定)。

FPとしてのアドバイスの範囲は、住宅購入、子供の教育費などのライフプラン全般、定年後の働き方や年金・資産運用・相続などの老後対策等、幅広い分野をカバーし、これから人生の礎を築いていく若い人とともに、同年代の高齢者層から絶大な信頼を集めている。

2023年7月PHP研究所より「70歳の現役FPが教える60歳からの「働き方」と「お金」の正解」を出版し、好評販売中。

現在、出版を記念して、サマーアロー・コンサルティングHPで無料FP相談を受け付け中。

早稲田大学卒業後、大手重工業メーカーに勤務、海外向けプラント輸出ビジネスに携わる。今までに訪れた国は35か国を超え、海外の話題にも明るい。

サマーアロー・コンサルティングHPアドレス:https://briansummer.wixsite.com/summerarrow

老後資金2000万円の内容

2019年6月の「金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書『高齢社会における資産形成・管理』」において提示された、必要な老後資金の計算方法と金額は次のとおりです。
※ベースとなった統計は総務省統計局の「家計調査年報(家計収支編)平成29年(2017年)結果の概要」ですので、金額は2017年時点のものと考えてください。
 

夫65歳以上、妻60歳以上の老齢夫婦の無職世帯における毎月の収支

収入
社会保険給付   19万1880円
その他収入     1万7318円
収入計       20万9198円
 
支出
非消費支出(税金・社会保険料など)        2万8240円
消費支出(食費・住居費・光熱費・交際費など) 23万5477円
支出計                        26万3717円
不足額                         5万4519円
 
30年生きた場合(夫が95歳、妻が90歳)の不足額計
5万4519円×12ヶ月×30年=1962万6840円 ⇒ 2000万円
 
上記のとおり、年金収入だけでは2000万円不足するので、退職時点で最低2000万円の貯蓄が必要であるということになります。
 

誰でも2000万円あれば老後を問題なく過ごせるか?

上記の計算は、「平均的な」老齢夫婦の世帯に関するものです。当然のことながら、収入や支出にも個人的なばらつきがあります。戦後の日本は1億総中流といわれ、極端な金持ちも貧乏人もいない社会で暮らしてきたので、平均的な老齢夫婦といわれると大多数の人が入ってしまうという感覚を持ってしまいます。
 
老後資金が2000万円あれば、年金をもらえる平均的な夫婦なら暮らしていけるのでしょうか?この問いかけに対しては簡単にYESとはいえません。
 

年金収入のばらつき

総務省統計局の統計をベースにした金融庁の報告書では、老齢夫婦の年金収入は1ヶ月当たり19万1880円となっています。実際に年金を管轄している厚生労働省の統計を見ると次のとおりとなります。
 
厚生年金保険受給者平均年金月額 14万7051円
国民年金受給者平均年金月額    5万5615円
 

厚生労働省の統計データによる検証

ケースA
前提:
夫 元会社員または公務員で、現在厚生年金保険受給者
妻 専業主婦で、現在国民年金受給者
夫婦の年金受領額:
夫 厚生年金保険受給者平均年金月額 14万7051円
+ 妻 国民年金受給者平均年金月額     5万5615円
夫婦の年金受領額計               20万2666円
 
上記は金融庁の報告書、19万1880円とそう遠くない数字です。
 
ただし、夫婦とも自営業者の場合はそうはいきません。2人とも国民年金しか受給できないので、年金額は次のとおりとなります。
 
ケースB
前提:
夫婦とも自営業者、または夫が自営業者で妻が専業主婦
 
夫婦の年金受領額:
夫 国民年金受給者平均年金月額     5万5615円
+ 妻 国民年金受給者平均年金月額     5万5615円
夫婦の年金受領額計               11万1230円
 
この場合は金融庁の報告書、19万1880円の半分程度しかもらえないことになります。
 

ケースBの場合に必要な老後資金

老齢夫婦が11万1230円しか年金をもらえないとしたら、老後資金はいくら必要になるでしょうか?その他の条件は変わらないとして試算すると次のようになります。
 
夫65歳以上、妻60歳以上の老齢夫婦の無職世帯における毎月の収支(ケースB)
収入
社会保険給付   11万1230円
その他収入     1万7318円
収入計       12万8548円
支出計       26万3717円
不足額       13万5169円
 
30年生きた場合(夫が95歳、妻が90歳)の不足額計
13万5169円×12ヶ月×30年=4866万840円 ⇒ 約4900万円
 
なんと4900万円もの老後資金が必要ということになってしまいます。自営業者の方は年金受給額が少ないので、国民年金基金やiDeCoに加入して年金額を増やすことを考える必要があるということになります。
 

まとめ

老齢夫婦がどんな職業についていたかによって、公的年金の受け取り方や受取額が異なり、必要な老後資金の金額は大きく変わるということになります。次回は支出のばらつきと総合的な評価について説明したいと思います。
 
参考
金融庁 金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」
総務省統計局 家計調査年報(家計収支編)平成29年(2017年)結果の概要
厚生労働省 平成29年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況
 
執筆者:浦上登
サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー
 

PR
FF_お金にまつわる悩み・疑問 ライターさん募集