更新日: 2024.07.05 国民年金
年金を70歳から「月11万円→15万円」に増やして受け取る予定です。その場合「住民税非課税世帯」から外れて損ですか? 住民税はどれくらい引かれるでしょうか?
本記事では、繰下げ受給の基本的な概要と、住民税が非課税になる条件をみていきます。モデルケースを交えてどの程度住民税負担が増加するかも解説するので、繰下げ受給を検討している人は参考にしてください。
執筆者:辻本剛士(つじもと つよし)
CFP(R)認定者、一級ファイナンシャルプラン二ング技能士、宅地建物取引士、証券外務員2種
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繰下げ受給とは
「繰下げ受給」とは、年金受給の時期を遅らし、将来受け取れる年金受給額を増額させる制度です。
通常、65歳から年金の受給が開始されますが、この開始期間を66歳以降にすると、1ヶ月遅らせるごとに0.7%年金額が増額されます。
もし、5年間年金受給開始を繰り下げた場合は0.7%×60ヶ月で42%の増額です。仮に年間132万円の年金を受給できる人が5年間繰り下げた場合は約187万円まで増額できます。
ただし、受給を開始してから早い段階で受給者に万一のことが起こると、年金をほとんど受け取れず「繰下げ損」になる可能性があります。
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住民税非課税の条件
ここからは年金受給者が住民税の非課税対象になる条件をみていきましょう。
東京都の場合、次に該当する人は住民税非課税世帯に該当します。
・1月1日現在、生活保護法による生活扶助を受けている方
・障害者・未成年者・寡婦・ひとり親の人で、前年の合計所得が135万円以下の人
・前年の合計所得が、次の計算式により得られた金額以下の人
「35万円×(本人・同一生計配偶者・扶養親族の人数)+10万円+21万円」
「同一生計配偶者・扶養親族がいない場合の住民税がかからない限度額は45万円」
例えば、単身1人世帯の場合は所得合計45万円までであれば住民税非課税世帯の対象となります。
なお、年金においては公的年金控除110万円が設けられているため、年金収入が155万円以下であれば住民税は非課税です。つまり、年金が月11万円の人の場合、所得金額132万円となるため、住民税非課税世帯に該当します。
繰下げ受給すると住民税が増額する可能性がある
では実際に繰下げ受給を実施し、年金受給額が180万円まで増額した場合にどの程度住民税負担が増えてしまうのか試算しましょう。
年金収入:180万円(月15万円)
家族構成:単身世帯
年齢:70歳
このケースですと、年金収入180万円に公的年金控除110万円を差し引くと所得は70万円になります。そのため、住民税非課税限度額である45万円を超えてしまい、住民税の課税対象に変わります。
以下で具体的な住民税を求めていきましょう。
住民税は地域ごとで税額が異なります。原則として収入から利用できる各控除額を差し引き課税所得を求め、その所得に対して10%(所得割)の税金が課されます。
また、「所得割」に加えて一定所得があるすべての人が均等に負担する「均等割」も課される仕組みです。今回は中野区の住民税額を基に試算していきます。
年金収入には「公的年金控除」と「基礎控除」を利用できます。公的年金控除については65歳未満と65歳以上で控除額が異なります。
公的年金控除:110万円(65歳以上)
基礎控除:43万円
●住民税の所得
180万円-153万円=27万円
27万円が課税所得になります。
●住民税の所得割
27万円×10%(市民税8%・県民税2%)=2万7000円
●住民税の均等割
中野区の均等割は次のとおりです。
・市民税:3000円
・県民税:1000円
合計すると住民税は3万1000円(2万7000円+3000円+1000円)となります。
このように、繰下げ受給することで、年間3万1000円程度の住民税が課されます。
※地域独自に定められた負担金は考慮しないものとする
※税額控除等は考慮しないものとする
※調整控除額などは考慮しないものとする
繰下げ受給の判断は慎重に!
繰下げ受給とは、年金受給の時期を遅らし、将来受け取れる年金受給額を増額させる制度です。1ヶ月遅らせるごとに0.7%年金額が増額していきます。
ただし、繰下げ受給をして年金額を増加させることで住民税が増額する可能性があります。今回のモデルケースでは年間3万1000円分も住民税が増加したことがわかりました。
また、今回は住民税の試算に留まりましたが、ほかにも所得税や国民健康保険料の増加も考えられるため、所得が増えることで手取り額に大きな影響を与えます。繰下げ受給を検討する際には、どの程度の税負担になってしまうかを事前に試算しておくことが重要です。
出典
日本年金機構 年金の繰下げ受給
中野区 住民税がかからない場合
国税庁 No.1600 公的年金等の課税関係
中野区 住民税の基本の計算式
執筆者:辻本剛士
CFP(R)認定者、一級ファイナンシャルプラン二ング技能士、宅地建物取引士、証券外務員2種