遺族厚生年金は働いているともらえないって本当?
配信日: 2020.05.21
ご主人を亡くされたのは20年近く前になり、1人になられてからもお勤めされていたのですが、今は働いてないとのこと。「働くと、遺族年金がもらえなくなっちゃうでしょう? そう言われたから辞めたの」
しかし、よくよく聞いてみると、何か勘違いされていらっしゃるかもしれません。
執筆者:林智慮(はやし ちりよ)
CFP(R)認定者
確定拠出年金相談ねっと認定FP
大学(工学部)卒業後、橋梁設計の会社で設計業務に携わる。結婚で専業主婦となるが夫の独立を機に経理・総務に転身。事業と家庭のファイナンシャル・プランナーとなる。コーチング資格も習得し、金銭面だけでなく心の面からも「幸せに生きる」サポートをしている。4人の子の母。保険や金融商品を売らない独立系ファイナンシャル・プランナー。
給与収入で年間850万円未満なら受給できます
Aさんのご主人(会社員)が亡くなられたときは、ご主人はまもなく定年退職という頃。お子さまたちはすでに成人し独立されていました。
満18歳(1、2級の障害状態にある場合は20歳)の3月31日までお子さまがいる場合は遺族基礎年金を受け取れますが、お子さまが成人されているAさんは遺族厚生年金の受け取りです。
遺族厚生年金を受けられる「遺族」は、亡くなった方に生計維持をされていた、
第1順位 配偶者・子(18歳の年度末まで〈1、2級の障害状態にある場合は20歳まで〉)
第2順位 父母
第3順位 孫(18歳の年度末まで〈1、2級の障害状態にある場合は20歳まで〉)
です。
先の順位の人が遺族年金を受けることができる場合、次の順位の人には遺族厚生年金は支給されません。遺族厚生年金を受けていた人が受給権を失った場合も、後の順位の人に受給権が移りません。
ここで、生計を維持されていたとは、亡くなられた人と生計が同じで、収入が将来にわたって850万円(所得が655万5000円)以上得られないと見込まれる場合です。
Aさんはパートタイムで働かれていたようで、850万以上にはならない状態でした。よって、65歳になるまでは、収入を得ながらも遺族厚生年金を受け取っていました。
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中高齢の寡婦加算
ご主人が亡くなられたときに、Aさんは55歳。お子さまがすでに独立されていたので、Aさんは遺族厚生年金に加えて中高齢の寡婦加算(令和2年度は58万6300円)を受け取っていました。
中高年の寡婦加算は、死亡したご主人の被保険者期間が20年以上で、40歳以上で子のない妻は、65歳になるまで老齢厚生年金に加えて定額で受け取れます。
Aさんは昭和20年生まれで、60歳からご自身の特別支給の老齢厚生年金が受け取れました。60代前半にご自身の老齢厚生年金を受け取れる方が遺族厚生年金を受け取っている場合、遺族厚生年金とご自身の老齢厚生年金とどちらか一方を選べます。
Aさんの場合は、ご主人の遺族厚生年金と中高齢の寡婦加算の合計金額がご自身の老齢厚生年金より大きいため、遺族年金を選びました。
65歳からは、自分の老齢年金が優先
そして、Aさんが自分の老齢年金を受け取るときが来ます。遺族厚生年金を受け取っている場合でも、自分の老齢年金を受け取れる年齢になったら、自分の老齢基礎年金と老齢厚生年金を優先して受け取ります。
そして、
・遺族厚生年金(亡くなった方の老齢厚生年金の3/4と経過的寡婦加算)
・老齢厚生年金1/2と遺族厚生年金1/2と経過的寡婦加算1/2
のほうが多い場合は、差額が遺族厚生年金として受給できます。
合計金額は、中高齢の寡婦加算が経過的加算へと加算額が少なくなる分減ります。ただし、遺族年金として受け取るのは非課税ですが、老齢年金として受け取ると課税対象になります。
65歳になる前は全額非課税で受け取っていたのが、65歳になると老齢年金分は収入とされ、老齢厚生年金と遺族厚生年金と経過的寡婦加算額の差額が非課税になるだけです。
Aさんの言葉の「働いていると遺族年金がもらえなくなる」において、もらえなくなるのは遺族年金ではなく自分の老齢年金。在職老齢年金のことでしょう。
65歳以上の場合、賞与を月割りにした分も含む総報酬月額と、経過的加算学を除いた老齢厚生年金月額の合計が47万円を超える場合に、超えた分の1/2の年金が支給停止になります。
ただし、在職老齢年金として年金が支給調整されるのは、厚生年金に加入しつつ年金も受け取る場合です。もしもAさんが国民年金の加入ならば、収入によって年金が調整されることはありません。
(参照・引用)
日本年金機構「遺族厚生年金(受給要件・支給開始時期・計算方法)」
日本年機構「65歳以後の在職老齢年金の計算方法」
執筆者:林智慮
CFP(R)認定者