更新日: 2020.06.10 厚生年金

新型コロナで減収した事業主が対象。厚生年金保険料の納付猶予の特例とは?

執筆者 : 大泉稔

新型コロナで減収した事業主が対象。厚生年金保険料の納付猶予の特例とは?
新型コロナウイルス感染症の影響により、減収を余儀なくされた事業主を対象に、厚生年金保険料の納付猶予の特例が設けられました。本稿では、そのアウトラインを見ていくことにします。

大泉稔

執筆者:大泉稔(おおいずみ みのる)

株式会社fpANSWER代表取締役

専門学校東京スクールオブビジネス非常勤講師
明星大学卒業、放送大学大学院在学。
刑務所職員、電鉄系タクシー会社事故係、社会保険庁ねんきん電話相談員、独立系FP会社役員、保険代理店役員を経て現在に至っています。講師や執筆者として広く情報発信する機会もありますが、最近では個別にご相談を頂く機会が増えてきました。ご相談を頂く属性と内容は、65歳以上のリタイアメント層と30〜50歳代の独身女性からは、生命保険や投資、それに不動産。また20〜30歳代の若年経営者からは、生命保険や損害保険、それにリーガル関連。趣味はスポーツジム、箱根の温泉巡り、そして株式投資。最近はアメリカ株にはまっています。

2つの年金制度における「猶予」という言葉の違いについて

年金には国民年金と厚生年金があります。国民年金には保険料の納付猶予があり、「若年者納付猶予制度」と「学生納付特例制度」の2点がそれにあたります。
 
国民年金の場合、納付猶予を受けるとその期間、保険料を納付する必要がなくなります。ただし、納付猶予の期間分、将来の老齢基礎年金の額が減ってしまいます。それを補うために追納制度がありますが、追納は義務ではありません。 
 
しかし、本稿のタイトルでもある「厚生年金保険料の納付猶予の特例」は、国民年金の納付猶予とは異なります。
 
猶予期間中は、厚生年金保険料を納付する必要がないわけではなく、納付義務が先送りになります。つまり、猶予期間が過ぎれば、猶予された厚生年金保険料を納めなくてはならないのです。

厚生年金の納付猶予。対象となる事業所は?

対象となる事業所は、以下の2つの要件を満たす必要があります。 
 
■新型コロナウイルス感染症の影響により、今年(2020年)2月以後の、いずれかの1ヶ月が前年同期比で20%以上減収していること(ちなみに、雇用調整助成金のコロナ特例の場合は「5%以上の減収」です)。
■厚生年金保険料等を一時に納付することが困難であること。

 
今年の2月1日から、来年(2021年)1月末までに納期限が到来する厚生年金保険料が対象です。指定期限までに申請することが必要で、指定期限とは毎月の納期限からおよそ25日後で、具体的には督促状に書いてあります。
 
なお、この特例が施行されたのが今年の4月30日でしたから、今年の2月から4月までの厚生年金保険料については、6月末までに申請すれば、さかのぼって猶予してもらうことができます。

猶予特例を利用するとどうなる?

申請すると、厚生年金保険料の納付を1年間猶予してもらえます。また、この猶予に伴う担保の特例は不要で、延滞金も掛かりません。ただし、先述のとおり、「納付の義務」の先送りになりますので、追って納付が必要です。

まとめに代えて

今回の特例は、納付の義務を1年先送りするから、「新型コロナウイルス感染症に伴う減収を耐え抜いてください」という趣旨だと筆者は考えています。耐え抜いた1年後、つまり来年には通常の厚生年金保険料に加え、猶予された保険料も併せて納めることになります。
 
せっかく1年耐え抜いても、企業はその先に待つ保険料を負担しなければなりません。もし、猶予された厚生年金保険料を納めることなく、会社が廃業・倒産してしまった場合、従業員すなわち厚生年金保険の被保険者の納付記録は、どのように扱われるのでしょうか?
 
この制度は事業主に宛てた示達になっていますので、もし、ご自身のお勤め先がこの納付特例を適用するのでしたら、確認しておくことをおすすめします。
 
執筆者:大泉稔
株式会社fpANSWER代表取締役


 

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