その中に公的年金受給開始年齢を75歳まで繰り下げることができる改正が含まれています。
2022年(令和4年)4月から繰り下げ可能となり、65歳から受け取る場合と比較して、1年あたり84%も年金受給額が増えることになります。
例えば、夫婦2人で年間220万円の年金収入のある方は、年間405万円の年金収入になります。
「あれっ、これはすごいな。75歳まで繰り下げようかな」と思われた方もいると思います。
本当に繰り下げていいのでしょうか?
これには、注意すべき問題点が潜んでいます。
執筆者:浦上登(うらかみ のぼる)
サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー
東京の築地生まれ。魚市場や築地本願寺のある下町で育つ。
早稲田大学卒業後、大手メーカーに勤務、海外向けプラント輸出ビジネスに携わる。今までに訪れた国は35か国を超える。その後、保険代理店に勤め、ファイナンシャル・プランナーの資格を取得。
現在、サマーアロー・コンサルティングの代表、駒沢女子大学特別招聘講師。CFP資格認定者。証券外務員第一種。FPとして種々の相談業務を行うとともに、いくつかのセミナー、講演を行う。
趣味は、映画鑑賞、サッカー、旅行。映画鑑賞のジャンルは何でもありで、最近はアクションもの、推理ものに熱中している。
公的年金受給開始時期の引き上げとは?
現在の公的年金の繰り下げ受給制度は次のとおりです。
1. 65歳から受給ができる「老齢基礎年金」「老齢厚生年金」の2つの年金が繰り下げ可能
※65歳未満から経過的に受給する「特別支給の老齢厚生年金」は繰り下げの対象外
2. 66歳から70歳まで1ヶ月単位で繰り下げが可能
3. 繰り下げによる年金増額は1ヶ月当たり0.7%で、70歳まで繰り下げると最大42%増加する
4. 年金の増額率は、生涯変わらない
今回の公的年金受給開始時期の引き上げは、上記2.の繰り下げ受給の上限年齢を70歳から75歳まで変更するということです。
繰り下げに伴う増額率は現行どおりで変わらないので、年金受給年齢を65歳から75歳まで繰り下げた場合、年金額の増加率は次の式に示すとおり、84%になります。
0.7%×12ヶ月×10年=84%
いくつまで生きたら元が取れるか?
それでは、いくつまで生きたら元が取れるかを計算してみましょう。
65歳からもらえる年金を老齢基礎年金・老齢厚生年金とも75歳まで繰り下げることにします。
計算の前提は次のとおりとします。
年齢 | 65歳からもらえる年金額(万円) | 75歳からもらえる年金額(万円) | |
---|---|---|---|
夫 | 65歳 | 150 | 276 |
妻 | 65歳 | 70 | 129 |
夫妻計 | 220 | 405 |
※筆者作成
1. 繰り下げをしない場合、65歳から74歳までの間にもらえる年金額(夫婦合計)
220万円×10年=2200万円
2. 75歳に繰り下げたことによる1年当たりの年金増加額(夫婦合計)
405万円‐220万円=185万円
3. 1の金額を取り戻すまでの年数
2200万円÷185万円=11.9年
すなわち、75歳+11.9年=86.9歳まで生きれば元が取れることになります。
2018年における日本人の平均寿命と65歳時点における平均余命は次のとおりです。
男性 | 女性 | |
---|---|---|
1. 日本人の平均寿命 | 81.25歳 | 87.32歳 |
2. 65歳の日本人は平均何歳まで生きるか(65歳時点における平均余命) | 84.7歳(19.7年) | 89.5歳(24.5年) |
※厚生労働省 「平成 30 年簡易生命表の概況」を基に筆者作成
2. の65歳時点における平均余命をベースに考えてみても、男性は84.7歳、女性は89.5歳ですから、86.9歳まで生きるのは、男性は平均以上に長生きをしないとダメ。
女性は平均まで生きれば、元は取れるということになります。
それでよいのでしょうか?
まとめ
65歳時点での平均余命まで生きても、元が取れたり取れなかったりするということは、選択する方の立場から考えると、決して安心できるものではありません。
元が取れるか取れないか分からないものにかけるよりは、着実に65歳から年金をもらっておくというのが正しい選択であるように思います。
さらにもう1つ問題点があります。
上記の計算は、収入ベースで比較したものです。実際には75歳から収入が増えるので、繰り下げると、税金と社会保険料が増え、手取りは収入金額ほどに上がりません。
その2では、手取りベースで計算すると、元が取れる年齢はどれだけ延びるかについて説明します。
参考
日本年金機構 老齢基礎年金の繰下げ受給
日本年金機構 老齢厚生年金の繰下げ受給
厚生労働省 平成 30 年簡易生命表の概況
執筆者:浦上登
サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー
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