更新日: 2019.09.24 控除
医療費控除の範囲【自由診断】や【通院のための交通費】は対象なのか
病気やケガの治療を目的としたものであれば、公的医療保険が使えるかどうかにかかわらず、広く医療費控除の対象となります。
国税庁のホームページにどういうものが医療費控除の対象になるか具体例が掲載されていますので参考になります。
また、平成29年分から、医療費控除の特例であるセルフメディケーション税制も利用できます。ただし、どちらか一方しか利用できませんので、両者のしくみを知って、お得な方を利用しましょう。
執筆者:新美昌也(にいみ まさや)
ファイナンシャル・プランナー。
ライフプラン・キャッシュフロー分析に基づいた家計相談を得意とする。法人営業をしていた経験から経営者からの相談が多い。教育資金、住宅購入、年金、資産運用、保険、離婚のお金などをテーマとしたセミナーや個別相談も多数実施している。教育資金をテーマにした講演は延べ800校以上の高校で実施。
また、保険や介護のお金に詳しいファイナンシャル・プランナーとしてテレビや新聞、雑誌の取材にも多数協力している。共著に「これで安心!入院・介護のお金」(技術評論社)がある。
http://fp-trc.com/
医療費控除の対象
その年の1月1日から12月31日までの間に、自分や「生計を一にする」家族の医療費を支払った場合、その支払った医療費が一定額を超えるときは、超えた分を所得から控除できます。これを医療費控除といいます。
医療費控除の対象となる費用は幅広いです。病気やケガの治療目的であれば、保険のきかない自由診療や先進医療の技術料、通院のための交通費、市販の薬、介護費用の一部も控除できます。なお、通院の交通費でもマイカーを使ったものは認められません。また、薬局で購入した薬でも健康増進を目的としたビタミン剤やサプリメントの購入は認められません。
一方、医療機関に支払った費用でも、美容や健康増進を目的とした医療や病気の予防を目的とした健康診断などの費用、差額ベッド代等生活面の支出は、原則、対象外です。
医療費控除の対象になるかどうか、判断に迷った場合は税務署に問い合わせると良いでしょう。
参考までに、医療費控除の対象となるものならないものを例示します。
【医療費控除の対象となるもの】
・医師に支払った診療費、治療費
・レーシック手術や角膜矯正療法の費用
・先進医療制度の利用に伴う自己負担
・出産費用、妊婦健診、産後の健診・保健指導
・不妊治療、人工授精、妊娠中絶
・治療のためのマッサージ、はり、きゅう、柔道整復の費用
・ED治療、禁煙治療の費用
・治療や通院のための義手、義足、松葉づえなどの購入費用
・特定健康診査・特定保健指導(メタボ健診・指導)
・虫歯の治療費、金歯、義歯、入れ歯、インプラントの治療の費用
・治療としての歯列矯正
・医師の処方箋により薬局で購入した医薬品
・薬局で購入した風邪薬など市販の治療薬
・入院時に提供される食事代や居住費
・入院中のおむつ代(医師の証明書が必要)
・通院や入院のための交通費
・電車やバスでの移動が困難なため乗ったタクシー代
・往診を頼んだ医師のタクシー代
・老人保健施設、介護保険の療養病床の自己負担(食費・居住費を含む)
・特別養護老人ホーム(食費・居住費を含む2分の1)
など
【医療費控除の対象とならないもの】
×診断書作成代
×医師等に支払う謝礼金
×美容整形費用
×予防注射の費用
×メガネ・コンタクトレンズを買うため眼科医で受けた費用
×健康診断(人間ドックなど)の費用(重大な疾病が見つかり、治療を受けることになった場合は医
療費控除の対象)
×美容のための歯列矯正、ホワイトニング
×歯石除去のための費用
×疲労回復、健康増進、病気予防などのために購入した医薬品(ビタミン剤など)や漢方薬
×通院のための自家用車のガソリン代、高速代や駐車代
×自分で希望した特別室の差額ベッド代
×入院時のパジャマや洗面具などの身の回り品代
×通常のメガネ・コンタクトレンズ、高齢者の補聴器の購入費用
など
医療費控除の計算方法
医療費控除が受けられるのは、1月1日から12月31日の間に支払った医療費の総額が10万円(所得が200万円未満の方は所得の5%)を超えた部分です。上限は200万円です。超えた部分(控除額)に税率を掛けた分だけ税金が少なくなります。
例えば、医療費が合計50万円かかった場合、40万円を所得から控除できます。所得税率が20%の方であれば、所得税が8万円少なくなり、翌年の住民税(所得割の税率10%)が4万円減ります。
所得税率が10%の方であれば、所得税4万円、住民税4万円の節税になります。「生計を一」にする家族であれば、加入している医療保険の種類に関係なく、全員分を合計できます。家族の中で最も所得税率の高い方が医療費控除を受けるのが得策です。
医療費控除の金額= (実際に支払った医療費の合計額-保険金などで補てんされる金額)-10万円(所得が200万円未満の方は所得の5%)
ただし、実際に支払った医療費の総額から、生命保険契約などから支給される入院給付金、健康保険などで支給される高額療養費、出産一時金などは医療費総額を限度に差し引いて計算します。
医療費を補てんする保険金等の額が、医療費を支払った年分の確定申告書を提出する時までに確定していない場合には、補てんされる保険金等の見込額に基づいて計算します。
一方、傷病手当金、出産手当金、育児休業給付金、埋葬費、葬祭費、がん保険の診断給付金などは差し引く必要はありません。
医療費控除の額が少ないと申告をしない方がいますが、わずかな金額でも、所得区分が変わることによって、高額療養費、高額介護サービス費、国民健康保険料、介護保険料などの負担軽減や児童手当、就学助成、高等学校等就学支援金、公営住宅の利用などに影響してきます。面倒くさがらずに、確定申告をしましょう。
医療費控除の改正点
医療費控除を受けるには、医療費控除に関する事項その他の必要事項を記載した確定申告書を所轄税務署長に提出するか、電子申告(e-tax)にて申告する必要があります。確定申告の情報・手続き・用紙は国税庁のホームページ「確定申告特集」で入手できます。
所得税の確定申告は、毎年2月16日から3月15日までに行います。なお、還付だけであれば、1月1日から申告できます。
平成29年分の確定申告から医療費控除を受ける場合の手続きが、以下のとおり簡素化されました。
改正点(1)
「医療費の領収書」の提出又は提示が不要となりました。
改正点(2)
「医療費控除の明細書」の提出が必要となりました。
なお、「医療費の領収書」は5年間自宅等で保管する必要があります。所定の事項が記載された「医療費通知」(医療費のお知らせなど)を提出する場合は明細書の記載や領収書の保管を省略することができます。確定申告の期限を過ぎてしまってもご安心ください。還付だけの申告は、所得のあった年の翌年1月1日から5年間可能です。
セルフメディケーション税制(医療費控除の特例)
市販薬のうち、スイッチOTC薬を購入すると、一定額を所得から控除できます(スイッチOTC薬控除)。
スイッチOTC薬とは、もともと医師の処方箋が必要だった薬が処方箋の要らない薬としてドラッグストアで購入できるようになった医薬品です。対象商品は厚生労働省のホームページで確認できます。
しかし、対象商品かどうか購入前に薬局(ドラッグストア)のスタッフさんや薬剤師の方に確認をとるのが簡単です。レシートでも確認できます。
この税制を利用するには、健康の維持増進および疾病の予防のための特定健康診査(メタボ検診など)、予防接種、定期健康診査、健康診査、がん検診のうちいずれかひとつを受ける必要があります。
この条件を満たした個人が、平成29年1月1日から平成33年12月31日までの間に一定のスイッチOTC医薬品を購入した合計額が年間1万2千円を超えるときは、8万8千円を限度に超える部分を所得控除できます。
ただし、既存の医療費控除とどちらか一方を選択することになります。両方は利用できません。どちらが得かは、それぞれの所得控除額を計算して控除額が大きい方を選びましょう。
Text:新美昌也(にいみ まさや)
ファイナンシャル・プランナー。