個人事業主から法人成り(ほうじんなり)する場合の税金について
配信日: 2020.09.06
個人事業の場合、売上も利益も上がってきた場合、それに伴い納税額が増えます。そんなときには法人成りをすれば節税できるといわれていますが、ここからはその法人成りの概略とそれにまつわる税金ついて解説していきます。
執筆者:田久保誠(たくぼ まこと)
田久保誠行政書士事務所代表
CFP®、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、特定行政書士、認定経営革新等支援機関、宅地建物取引士、2級知的財産管理技能士、著作権相談員
行政書士生活相談センター等の相談員として、相続などの相談業務や会社設立、許認可・補助金申請業務を中心に活動している。「クライアントと同じ目線で一歩先を行く提案」をモットーにしている。
法人成りってなに? 法人の設立から事業開始までの流れは?
法人成りとは、法人(株式会社や合同会社など)を設立し、個人で行っていた事業を法人へ引き継いで行っていくことをいいます。
法人成りの流れを簡単に解説すると以下のようになります。
- (1)法人の設立、それに伴う各種届出(税務署や年金事務所、ハローワークなど)
- (2)個人事業主として契約していた各契約の変更手続き
- (3)個人事業で使用、利用していた資産(パソコンや機械装置など)や負債(銀行からの借入金など)の法人への引き継ぎ
- (4)法人としての事業をスタート
当然ですが、まず初めにやらなければいけないことは、事業を続けるための法人の設立です。
法人設立は、公証役場や法務局で設立に必要な手続きを行います。そこで法人を設立した後、税務署や年金事務所などに設立の届け出を行います。
その後に個人契約している事務所や保険、リース物件なども引き継がなければいけません。もちろん取引先にも法人成りしたことを伝えて、個人のときとの条件変更等の有無を確認しましょう。
また、飲食業や建設業、不動産業などの許認可の必要な事業をしている場合は、その許認可が個人から法人に引き継ぐことが可能か否かを役所に問い合わせます。
引き継ぎができないようであれば、事業開始までに新たに許認可を取得する必要があるので、許認可系の事業の法人成りの場合は無許可の期間が出ないように注意しなければなりません。
次に、個人事業で使用していた備品や設備などを法人に引き継ぎます。この際、事実上の使用者は変わらなくても、名目上は個人から法人に使用者は変更することになります。
そのためそのまま使用すると、それは個人が法人に無償で貸与または贈与したことになってしまうので、個人から法人へ譲渡もしくは賃借した形をとり、法人が買い取りあるいは使用料の支払いを行うという契約が必要となってきます。これらが終われば法人として事業を始めることができます。
法人成りしたときの税金はどうなの?
個人事業主から法人になると、税金も当然変わります。個人事業の場合は、所得税、個人住民税、個人事業税が課されますが、法人の場合には法人税、法人住民税、法人事業税が課されます。それぞれ法人にかかる税を見ていきましょう。
(1)法人税
法人の所得に対して課せられる国税です。所得=益金-損金で計算されますが、これは会計上の利益=収入-費用とほぼ同じですが、若干の違いがありますので注意が必要です。
例えば、交際費は一部損金不算入ということがあり、会計上は費用であっても、法人税上では損金にならない(費用として扱われない)といったルールがあるためです。また、所得をもとに法人税率を乗じて法人税を計算しますので、所得が発生しない(=赤字の場合など)とき法人税はかかりません。
(2)法人住民税
都道府県、市町村に納税を行う地方税です。法人住民税は法人税割(ほうじんぜいわり)と均等割(きんとうわり)の2種類に分かれます。法人税割は法人税を基に計算しますので、法人税がない場合にはかかりません。均等割は法人の事業所単位で課される税金です。
例えば、東京都23区に本社がある株式会社(従業者数50人以下、資本金300万円)の場合、法人住民税の均等割額は7万円となります。
もし、他県に支店がある場合にはその都道府県、市区町村の分の均等割額もそれぞれ納めることになり、これは会社が赤字であっても納付義務があります。
(3)法人事業税
法人住民税と同じく地方税です。法人税同様所得をもとに税率を乗じて計算しますが、資本金が1億円超の場合には外形標準課税制度が適用されるなど、事業所規模を勘案した税金の仕組みになっています。これら以外にも消費税がありますが、これは個人の場合と計算方法は同じです。
税金面だけではないので専門家にアドバイスを求めることも考えましょう
今回は税金の面を中心に見ていきましたが、初めのほうにも書いていますが、年金事務所などに提出する書類があり、許認可業務の場合は許認可の再取得の必要が出てくることもあります。
法人成りした場合のメリット・デメリットを総合的に判断するのが難しい場合は、専門家に相談して法人成りするか否かのアドバイスを受けるのも1つの手ではないでしょうか。
執筆者:田久保誠
田久保誠行政書士事務所代表