「サブリース契約の承継が条件です」 よく見かけるこのフレーズ、実はとても要注意!
配信日: 2021.06.12
しかしこのサブリース、実はびっくりするような局面になってしまうリスクもあります。どんなことなのでしょうか。
執筆者:上野慎一(うえのしんいち)
AFP認定者,宅地建物取引士
不動産コンサルティングマスター,再開発プランナー
横浜市出身。1981年早稲田大学政治経済学部卒業後、大手不動産会社に勤務。2015年早期退職。自身の経験をベースにしながら、資産運用・リタイアメント・セカンドライフなどのテーマに取り組んでいます。「人生は片道きっぷの旅のようなもの」をモットーに、折々に出掛けるお城巡りや居酒屋巡りの旅が楽しみです。
「サブリース」とは
まずサブリースのおさらいですが、その概要は【図表1】のとおりです。
賃貸用不動産の物件価格は、利回りで決まるケースが多いです。そして利回りの計算では、賃料が大きな変数になります。同じ価格ならば賃料が高いほど利回りが高くなり、同じ利回りならば賃料が高いほど価格もより高く設定できるわけです。
スルガ銀行の問題では、サブリースの保証賃料を周辺相場よりも高額に偽装してとても割高な価格設定となった物件を、不正な手続きの融資で購入させたのです。偽装された保証賃料の入金が途絶えた結果、購入者は融資返済ができず、割高な物件の売却もままならなくなった。これが問題のあらましです。
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「サブリース新法」が施行されましたが
このように「保証賃料が(周辺相場に比べて)適正かどうか」だけが、サブリースの問題なのでしょうか。そうではなく、ほかにもさまざまな問題点が指摘されています。
2020年6月に公布された「賃貸住宅の管理業務等適正化に関する法律」は「サブリース新法」といわれ、このうちサブリース関連の規制が2020年12月15日に先行施行されました。また注意喚起のために、国土交通省などがリーフレット・チラシを作成したことも公表されています。(※)
その中で、サブリースによる賃貸住宅経営の検討者(オーナー)に関係する問題事例として挙げられているのは、サブリース契約期間中でもサブリース業者から契約解除や賃料減額を求められるリスク、そしてオーナーから契約の解約や更新拒絶をするには「正当事由」が必要となる点などです。正当事由は特に盲点になります。
借地借家法第28条で、建物の貸主は正当事由がないと賃貸借契約の更新拒絶や解約の申し入れができません。正当事由も規定されていて、[貸主=専門的知識や資力などがあって強い立場]、[借主(入居者)=その逆で弱い立場]といったイメージにおいて、“弱者保護”をする建付けとなっています。
ところがサブリース契約では、オーナーと実際の入居者の間にサブリース業者が入っていて、オーナーの契約相手先である借主は、サブリース業者です。先述の(※)の中でいう「賃貸住宅経営や管理の知識・経験に乏しいオーナー」と、専門的知識や手練手管に長けて資力も豊富と思われるサブリース業者の強弱の立場が、サブリース契約では逆転しているのです。
その結果、どうなるのか。サブリース契約をオーナー側から解約することが簡単にはできなくなります。「自分で居住するから」、「高額な解約金を提供するから」などの事由を申し入れてサブリース業者がこれを了承しないと、話は前に進みません。
極端な場合、契約書に例えば「○ヶ月前に書面で通知すれば、到来期日をもって契約は終了する」と明記されていても、正当事由がないとサブリース業者が解約に応じないケースだってありえるわけです。
まとめ
「販売価格○○○○万円、投資用・オーナーチェンジ、表面利回り△%、サブリース契約中、サブリース契約の承継が条件です」 ~不動産売却物件紹介サイトをネットで検索すると、こうした表示のワンルームマンションなどの中古物件はいくらでもヒットします。
購入した後に、いずれサブリース契約を解約したり更新拒絶して一般的な賃貸管理委託に切り替えれば、手取り賃料がかなり増えて利回りが向上する可能性だってあるだろう……。こんなもくろみのもとで、サブリース契約の承継に気軽に応じてしまうケースも少なくないでしょう。
ところが契約に解約の規定があったとしても、先述のようにサブリース業者が解約に応じなかったり、多額の解約金を要求できてしまいかねないのです。
サブリース新法では、こうしたリスクも含めて新規の契約時に重要事項説明することをサブリース業者等に義務付けました。しかし、すでにされている契約について解約の協議をする場合の助けにはなりません。
サブリース契約物件を検討する場合、いろいろなリスクに備えてチェックすべきポイントがたくさんあることは、とても要注意です。
[出典]
(※)国土交通省「賃貸住宅経営に関する注意喚起のリーフレット・チラシを作成しました!~サブリース規制 12月15日施行~」(2020年11月18日)
執筆者:上野慎一
AFP認定者,宅地建物取引士