更新日: 2021.10.20 その他資産運用
「未来は予想できる」 ~そんなふうに思わされたときはご用心!
また、業界の動向や市況が当面は堅調に続く中、業績予想の大きな上方修正を公表した(あるいは確実視される)企業の株価はどうでしょうか。その後しばらくは、株価の上昇トレンドが続くケースも少なくないでしょう。
執筆者:上野慎一(うえのしんいち)
AFP認定者,宅地建物取引士
不動産コンサルティングマスター,再開発プランナー
横浜市出身。1981年早稲田大学政治経済学部卒業後、大手不動産会社に勤務。2015年早期退職。自身の経験をベースにしながら、資産運用・リタイアメント・セカンドライフなどのテーマに取り組んでいます。「人生は片道きっぷの旅のようなもの」をモットーに、折々に出掛けるお城巡りや居酒屋巡りの旅が楽しみです。
身近にもある「未来予想」
いずれも「原因」がはっきりしていて、その「結果」としての未来が予想しやすい状況なのです。そこまで単純ではないとしても、未来を予想するビジネスは私たちの身近にも結構あります。
経済雑誌を開けば、日経平均株価が今後上がる/下がる、個別の企業の株価でもこれから上昇が期待できる/下落が見込まれる、などの記事が満載です。また、スポーツ新聞の公営ギャンブル欄には個別レースでの有望先がさまざま掲載されています。
これらの予想は、業界や個別企業、個別の選手やプレーヤーなどそれぞれの関係者に関して、過去の実績、現在の好不調状況、市場やレース場との今の相性など、「原因」の部分を専門家や有識者が分析した結果として示されています。
もちろん「100発100中」などありえないでしょうが、当たるケースが多くなると、的中させた予想者(人や会社)への評価や信頼が高まり、人気を集めるのも不自然ではありません。しかしこの段階では、予想する側とそれを信じる側には“ほどよい距離感”があります。
つまり、信じる側には「外れる場合だってある」という割り切った感覚、そして予想を信じておカネを投じる場合でも「あくまでも自己責任だ」という意識がほどよくバランスしているのです。
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確率を使ったトリックとは
では、もしも予想が個別に届けられて、しかも次々と的中したらどうでしょうか。
例えば【来月A社の株価が上昇する】といった知らせがきて、実際そのとおりになったとします。そうすると【次はB社の株価が上昇する】の知らせがきて、また的中。その後さらに【今度はC社の株価が下落する】がまたまた的中。そんな状況を思い浮かべてください。
この間に各業界や各企業をめぐって大きな環境変化はなく、各社の株価の上昇/下落の確率は半々だと仮定します。それでも、A・B・C各社の株価騰落予想が続けて的中する確率は8分の1しかありません。
もしも、さらに続けて4社目D社の株価騰落まで的中させれば、“神技”のようにも感じられるでしょう。
しかし、これは情報の「受け手」から見た現象なのです。もしも情報の「出し手」が、株式投資に関心がある1万人分のリストを持っていて、【図表1】のようなことをしていたらどうなりますか。
確率を利用したこのトリック、昔から指摘されているものです。情報を知らせるツールも、[手紙 ⇒ ファクス ⇒ 電子メール]などと時代に合わせ変遷します。ツールが近代化すればより低コストでより簡単に送れて、リストさえ確保できればより大量の相手先にアプローチが可能になるのです。
仮に6月に<第1段階>の予想を配信して、<第4段階>まで連続的中結果が出揃うのが10月末。この段階で「100発100中」を体感した人が625人もいます。ここまでくると、予想者に対する先述の“ほどよい距離感”を忘れて、予想者からの勧誘に手を出してしまう人がいるかもしれません。
勧誘の中身は、(少し怪しげな)金融商品の購入だったり、高額なフィーを要求される投資アドバイザリーなど。大金を投じた結果として、前者ならば大幅な価値下落、後者では(これまでと違って)予想外れの連続、そんなことも十分にありえるでしょう。
まとめ
「限られたお客さまだけに」などと無料サービスや大幅割引を強調したクーポンがメールで届いたとしても、その気になる人は決して多くないでしょう。実は大量の相手先に提供されていて、その内容もさほどメリットがないと見切れるからです。
しかし、情報の出し手が(ある程度の手間や時間をかけて)未来予想の話を絡めてきたらどうなるでしょうか。確率を隠れみのにする例示したようなトリックによって、ついついその気になってしまう状況は、決してありえないことではなくなってきます。
今更ですが、本当に株価などの騰落が予想可能なのであれば、わざわざ他言する必要などないでしょう。「うまい話には、必ずワナがある」、「投資やギャンブルなどは、あくまでも自己責任」。そんなことを改めて知らされます。
執筆者:上野慎一
AFP認定者,宅地建物取引士