更新日: 2022.07.13 不動産投資
【2022年5月18日から】不動産取引の契約デジタル化が全面解禁。覚えておくべき3つのポイントとは?
キリのよいタイミングではないのは、どうして。どんな内容で何が変わるのか。そして覚えておくべきポイントとは何か。おさらいしておきましょう。
執筆者:上野慎一(うえのしんいち)
AFP認定者,宅地建物取引士
不動産コンサルティングマスター,再開発プランナー
横浜市出身。1981年早稲田大学政治経済学部卒業後、大手不動産会社に勤務。2015年早期退職。自身の経験をベースにしながら、資産運用・リタイアメント・セカンドライフなどのテーマに取り組んでいます。「人生は片道きっぷの旅のようなもの」をモットーに、折々に出掛けるお城巡りや居酒屋巡りの旅が楽しみです。
不動産取引での3つの書面
一般の人が不動産取引で当事者になるケース。例えばマイホームなどの住宅ならば、賃借する、購入する、売却するがありえます。中古住宅を購入する例では、【図表1】のようなステップを進むことになります。
不動産取引で一般の人などを保護するために、不動産仲介などを行う宅地建物取引業者(宅建業者)を規制するのが宅地建物取引業法(宅建業法)です。同法には、【図表1】でも青色表示で強調した、3つの書面に関する各規定があります。(新築住宅などを分譲業者から購入するときは、媒介契約が不要になるケースもあります)
この3つがまさに今回の改正に関係するもの。従来は、当事者が対面して各書面に記名(署名)と押印をするのが原則でした。また、宅建業者や担当する宅地建物取引士(宅建士)が記名と押印をして当事者に交付する必要がありました。
特に重要事項説明は、宅建士と対面して長々と説明を受けます。説明は専門用語だらけで、受け取る書類も大量です。これをしないと売買契約締結もできず、ようやく契約が終わるとファイルに一杯の書類を持ち帰ることになった。こんな記憶のある方も少なくないでしょう。
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不動産取引の契約デジタル化。覚えておきたい3つのポイント
社会全体のデジタル化(押印不要化やペーパーレス化も含む)を進めるための法律が2021年5月19日に公布されました。
不動産取引でも、ITを活用した重要事項説明などを社会実験として先行導入したうえで、この法律の公布後1年以内とされた施行期限に宅建業法などを一部改正したわけです。
先述3つの書面を電子データで提供可能にして、また宅建士の押印を廃止する。不動産取引の契約が全面的にデジタル化(オンライン化)できるようになったのです。
では、覚えておくべきポイントとは何か。3つ挙げておきます。
国土交通省のリリースでは、「不動産取引時の書面が電子書面で提供できるようになります」となっています(※)。
今回の改正を踏まえて、早速、新築住宅で広く電子契約を導入することを公表した分譲業者もいます。試しに公表内容を見ると、最初の物件情報収集から最後の契約締結までの各プロセスについて「非対面の選択が可能」と説明していました。
つまり、電子化は選択肢として増えただけで、リアル(対面)での書類やり取りが禁止されるわけではないのです。
不動産取引の契約の電子化は、宅建業者にとっても関連する機器やシステム・ソフトの導入(更新)、使いこなすための人材トレーニングなど、ハード・ソフト両面で資金や手間の負担が必要となります。
分譲も仲介も不動産業界のすそ野はかなり広いといわれます。大手はともかく中小の業者にとって上記の負担は過大かもしれませんし、日常業務での「対面」処理をわざわざ変更する必要性や動機がないケースだって少なくない。そんな状況が当面は続くことも想定されます。
今回の不動産取引の契約電子化に先行して、「電子契約」はさまざまな分野ですでに導入されています。電子契約で取り交わされた内容(電磁的記録)は、印紙税が課税される文書には該当しない。国税庁などが見解を表明しています。
例えば中古住宅を売買する場合、契約金額が仮に5200万円ならば、紙の契約書を2部作成すると印紙税は3万円(2024年3月31日までの軽減税額)ずつかかります。電子契約ならばこれが節約できるのです。
ただし、電子契約の広範な普及で印紙税収がかなり落ち込んでしまったとしても、当局は「課税しない」見解をずっと変えないのか。その点は不透明なので留意しておくべきでしょう。
まとめ
今回の3つのポイントは、あくまでも当面の視点のものです。
不動産取引の契約デジタル化は、リアルに対面するよりも関係者みんなにさまざまなメリットをもたらすかもしれない。もちろん個人などの当事者にとって取引がキチンと正常に完結することが大前提ですが、長い目で見ればそんな側面もあると思われます。
出典
(※)国土交通省「報道・広報」~「不動産取引時の書面が電子書面で提供できるようになります。~宅地建物取引業法施行規則の一部改正等を行いました〜」(令和4(2022)年4月27日)
執筆者:上野慎一
AFP認定者,宅地建物取引士