「金利」だけでは紐解けない「コモディティー」。投資の難しさはここにある!?
配信日: 2022.09.26
今回も投資の「実践」に重点を置きながら、私たちの暮らしに身近な「コモディティー(原油、穀物、資源)」価格に金利がどのような影響を及ぼすのか、説明していきたいと思います。
※この記事は2022年7月29日時点の情報を基に執筆しています。
執筆者:重定賢治(しげさだ けんじ)
ファイナンシャル・プランナー(CFP)
明治大学法学部法律学科を卒業後、金融機関にて資産運用業務に従事。
ファイナンシャル・プランナー(FP)の上級資格である「CFP®資格」を取得後、2007年に開業。
子育て世帯や退職準備世帯を中心に「暮らしとお金」の相談業務を行う。
また、全国商工会連合会の「エキスパートバンク」にCFP®資格保持者として登録。
法人向け福利厚生制度「ワーク・ライフ・バランス相談室」を提案し、企業にお勤めの役員・従業員が抱えている「暮らしとお金」についてのお悩み相談も行う。
2017年、独立行政法人日本学生支援機構の「スカラシップ・アドバイザー」に認定され、高等学校やPTA向けに奨学金のセミナー・相談会を通じ、国の事業として教育の格差など社会問題の解決にも取り組む。
https://fpofficekaientai.wixsite.com/fp-office-kaientai
「金利」の上昇は「コモディティー価格」を押し下げる
ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)分析を行う上で、「金利」の観察がとても重要であることは、前回の記事(「金利」を制する者は、「投資」を制す⁉ 金利でひも解く株式市場とドル・円相場)でお伝えしました。ファンダメンタルズは経済の基礎的条件であるため、実体経済がどのような状況にあるのか分析するのがファンダメンタルズ分析といえます。
記事執筆時点(2022年7月29日)の現状としては、目下、インフレの高進が世界的に大きな問題になっています。インフレは物価が上昇していくことですが、物価は文字通り、モノの価値を示すため、実体経済としては私たちの暮らしにとても身近な存在といえます。
なぜ、物価が上がっているのか、その理由はいわずもがなですが、新型コロナウイルス感染症の拡大による景気の悪化から経済が急速に回復してきたことにより、世界中でモノの供給が間に合わなくなったからです。
いわゆる「サプライチェーンの逼迫(ひっぱく)」が主な要因ですが、これに加えて、ロシアのウクライナ侵攻により、原油や穀物、資源などの供給が余計に滞るようになり、これらコモディティー価格が大きく上昇しました。
端的にいうと、新型コロナウイルス感染症と戦争という2つの有事が同時に発生していることが、物価を押し上げている原因になっています。
物価の急上昇を食い止めようと世界の多くの国々では、中央銀行が金融引き締め政策と呼ばれる「金利の引き上げ」を実施するようになっています。例えばアメリカでは、FRBが政策金利であるFFレートを数ヶ月前のゼロ金利水準から段階的に引き上げ、現時点で2.25%(下限)~2.5%(上限)のレンジに持っていきました。
物価の急激な上昇を抑えるのは中央銀行の役割ですが、その際に実施されるのが、いわゆる金融引き締め政策です。つまり、金利を上げることで実体経済の熱を冷まし、結果的に物価の上昇を抑えるという理屈です。
このとき、一連の金利引き上げに伴い、原油や穀物、資源といったコモディティー(商品)市場では何が起こるかというと、基本的には「金利が上がる」→「景気が悪くなる」→「経済活動が鈍る」ということが成り立ち、原油や穀物、資源といったコモディティー価格が下落するだろうと判断されます。また、この一連の予測においては逆も当てはまります。
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国際情勢の変化に翻弄されやすい「コモディティー」
ただし、現状を見る限りは、一概にはコモディティー価格が下落するとも言えない現象が起こっています。例えば、金利が上がることで景気は悪くなるのに、原油価格が上昇することもありますし、穀物価格や資源価格についても同様です。
コモディティー価格においては、金利をど真ん中に置いて相場の動向を予測するのは非常に難しいというのが現実ですが、現在の局面でいうと背景には次のような理由があります。
例えば、原油価格がなかなか大きく下落しないのは、石油輸出国機構(OPEC)やロシアなどの産油国がアメリカの原油増産要請に積極的に応じないことなど、また小麦や大豆、トウモロコシといった穀物価格の上昇は、報道によるとウクライナからの穀物輸出が再開されるはずでしたが、ロシアによる輸出港の攻撃により困難になったことなどが要因に挙げられます。
一方、資源価格については例えば金価格の場合、金は通貨の代替資産であるため、アメリカで金利が上昇してドルが高くなると、基本的に金価格は下落するというのがセオリーですが、現状ではアメリカにおいて景気後退(リセッション)入りが指摘され、金融緩和政策への早期回帰が期待されていることから上昇傾向にあります。
金利を軸に投資を見ようとしても、コモディティー価格の場合は単純な金融・経済の変化だけでなく、その外枠にある国際情勢、つまり地政学的な要因にも大きく影響を受けるため、「金利が上がるとコモディティー価格は下がる」「金利が下がるとコモディティー価格は上がる」といったセオリーが常に成り立つわけではないことが分かります。
この点がコモディティーの面白さで、そもそも投資は、国際情勢も含めて大局観を見る必要があると言われるゆえんです。逆にいえば、投資の難しさはここにあるということができるでしょう。
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まとめ
現在のような投資環境は、一言でいえば有事です。これは新型コロナウイルス感染症の影響によるサプライチェーンの逼迫が主たる要因ですが、ウクライナ戦争によって輪をかけるように先行きの不透明さは増しています。
この点が実に悩ましいところですが、ファンダメンタルズ分析の枠を超えたところにコモディティーがあると捉え、今後、世界の経済活動がどのように推移していくかを観察していく必要があるように思います。
2回にわたって「金利」を軸に株式、為替、コモディティーについて説明してきました。おおよその関係性は見えたかと思いますが、次回からはファンダメンタルズ分析のより細かい基本項目を確認しながら、どのように投資の実践に生かしていけばいいか解説していきたいと思います。
執筆者:重定賢治
ファイナンシャル・プランナー(CFP)