S&P500のシナリオ作成。サブシナリオと最悪のシナリオを考える
配信日: 2022.12.01
前回は、S&P500についてメインシナリオを作成してみました。投資のシナリオはメインシナリオひとつではなく、ほかのシナリオも併せて作成し、相場の方向感をあらかじめイメージしておく必要があります。
そこで本記事では、メインシナリオを軸にしながら、サブシナリオを2つ組み立てていきたいと思います。
なお、この記事はあくまでもシナリオ作成の方法を提示するものであり、実際の投資において相場がこうなると断定するものではないことをご理解ください。
執筆者:重定賢治(しげさだ けんじ)
ファイナンシャル・プランナー(CFP)
明治大学法学部法律学科を卒業後、金融機関にて資産運用業務に従事。
ファイナンシャル・プランナー(FP)の上級資格である「CFP®資格」を取得後、2007年に開業。
子育て世帯や退職準備世帯を中心に「暮らしとお金」の相談業務を行う。
また、全国商工会連合会の「エキスパートバンク」にCFP®資格保持者として登録。
法人向け福利厚生制度「ワーク・ライフ・バランス相談室」を提案し、企業にお勤めの役員・従業員が抱えている「暮らしとお金」についてのお悩み相談も行う。
2017年、独立行政法人日本学生支援機構の「スカラシップ・アドバイザー」に認定され、高等学校やPTA向けに奨学金のセミナー・相談会を通じ、国の事業として教育の格差など社会問題の解決にも取り組む。
https://fpofficekaientai.wixsite.com/fp-office-kaientai
メインシナリオの再確認
図表1のチャートは、前回の記事で作成したS&P500のメインシナリオです。エリオット波動理論に基づく波形取りは、2020年3月以降続いた上昇相場である、いわゆるコロナ相場の天井を第5波として、それ以降の下降局面でコロナ相場の調整が続いているという内容です。
【図表1】
〇S&P500(日足)
出典:TradingView Inc. TradingView
※解説を目的に使用
※チャート上の「Doble Zigzag」は、「Double Zigzag」に訂正
メインシナリオでは、2022年10月13日の下値でいったん下落相場が終わったと仮定し、その後、年内はしばらく上昇相場が現れ、2023年の年明け以降で再び下落が深まっていくことを想定しています。この場合の最終下落到達地点は「3200水準」で、ここを下回ってしまうと世界経済が何らかの事情で大きく後退する可能性があるというシナリオです。
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サブシナリオ1の作成
それでは、メインシナリオを軸にサブシナリオを作成していきましょう。サブシナリオ1では、直近の下落が2022年10月13日で終わっていないというものです。
【図表2】
〇S&P500(日足)
出典:TradingView Inc. TradingView
※解説を目的に使用
※チャート上の「Doble Zigzag」は、「Double Zigzag」に訂正
この場合、可能性が高い下値のめどは、コロナショック前の高値地点(チャートの第3波の終点)から引いた線をサポートラインと捉え、さらなる下落が起こる可能性があると想定します。この水準は非常に強力な下値水準であるため、さらに下落が深まる場合は、この水準が市場参加者にとって意識されやすいと考えることができます。
その後は「b波」が訪れ、いったん上昇相場として相場は反転して天井をつけた後、再び深い下落に見舞われることを想定します。
メインシナリオとの違いは直近の下落の深さですが、サブシナリオ1の可能性も十分考えられるため、この軌道も念頭に置いたうえで、どちらに転んでもいいようにリスクコントロールをしていきます。
このときの最たるリスクコントロールの方法は損切りです。メインシナリオでは、2022年10月13日につけた下値をいったんの底値とし、それ以降で買い上がるイメージで捉えているため、逆にこの水準を下回ってしまうと大きな損失を抱えてしまいます。そのため、直近ではこのラインを損切りラインと捉え、下回った場合は持ち続けるのではなく、すぐに売る決断をしていくことになります。
投資においては持ち続けることよりも、いかに損切りするかが重要で、これは短期投資だけでなく、長期投資においても出口の段階で必要な感覚といえます。
投資初心者の場合、長期にわたる積立投資が推奨されていますが、いずれは投資を終える時期がくるわけで、そのときの状況によっては損切りの可能性もあるため、本来ならばこのようなことも想定し、少額でいいので短期投資により経験を積んでおいたほうがいいということができます。
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サブシナリオ2の作成
次にサブシナリオ2を作成してみましょう。このシナリオも十分に想定できますが、これはファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)として、物価が一向に下がらないか、下がるペースが遅く、アメリカの中央銀行に当たる米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げのペースをなかなか緩めないというシナリオとして付け加えます。
【図表3】
〇S&P500(日足)
出典:TradingView Inc. TradingView
※解説を目的に使用
※チャート上の「Doble Zigzag」は、「Double Zigzag」に訂正
また、この過程で世界経済が広く不況に陥り、ヨーロッパや新興国において金融機関の破綻や何らかの債務危機、通貨ショックが発生するというシナリオです。
直近ではサブシナリオ1と同様、コロナショック前の高値水準まで値を落としますが、その後の反騰は上昇の勢いが弱く、再び訪れる下落相場はより深くなり、大きく値を下げるというものです。この場合の下値のめどはチャートに示したとおりですが、エリオット波動理論におけるダブルジグザグという修正波動(上昇相場に対する調整)を考慮しているため、可能性としてはあり得る水準といえます。
ポイントは第3波の終点を下回るかどうか
メインシナリオにしろ、サブシナリオ1・2にしろ、最終的な下値のめどは、エリオット波動理論の波形取りとして示している第3波の終点を下回っています。
エリオット波動理論においては、実をいうとこの点が非常に重要で、この水準を下回ると、波形取りが確定し、より長期的に見た波動で下値の計測を行っていく必要が出てきます。この意味をチャートで確認すると、図表4のようになります。
【図表4】
〇S&P500(週足)
出典:TradingView Inc. TradingView
※解説を目的に使用
エリオット波動理論では、第3波の終点を下回ってしまうと現在進行中の下落相場は、リーマンショックから続いてきた上昇相場に対する調整(戻り)であるという判定になります。これが最も恐ろしいシナリオで、同じアメリカ株価指数のNYダウでは、すでに第3波の終点を下回り、波形取りが変化しました。
NYダウとS&P500、ナスダックも似たような軌跡をたどるため、いずれS&P500も波形の取り方が変わり、リーマンショック後の上昇相場からの半値戻し(フィボナッチ・リトレースメント「0.5」)やフィボナッチ・リトレースメント「0.618」の水準も想定しておく必要があるかもしれないと考えています。この場合は最悪、コロナ相場の全戻し(フィボナッチ・リトレースメント「1.0」)を想定することになります。
そもそもコロナ相場が、長く続いた異常なほどの財政出動と金融緩和政策の結果であるため、そのような異常性が修正されるという意味では合理的ということはできますが、果たしてそこまで本当に下がるかどうかは、歴史的に注目に値することといえるでしょう。
アメリカ経済は、もともと新興国に比べて経済成長率が高いわけではなく、いわゆるGAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)といった巨大ハイテク企業によってけん引され、国内経済の空洞化が社会問題となっていた経緯を考えると、このような最悪のシナリオはアメリカにおいて一時代が終わり、新たな時代の幕が開かれるという示唆を与えてくれているのかもしれません。
まとめ
これまで4回にわたり、消費者物価指数(CPI)というファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)に基づくデータから、金利、テクニカル分析と、一連の流れでシナリオ作成について説明しましたが、投資を学んで経験を積んでいくと、内容の違いこそあれ、自分なりに投資のシナリオを作成できるようになります。
投資には地味な作業も多いですが、地道な作業が面白く、ひたすら思考を積み重ねることに魅力を感じる個人投資家も多いのではないでしょうか。投資は確かにお金もうけのための手段ではありますが、ずっと続けている人たちは、どちらかというと考えることを楽しんでいるような気がします。
筆者個人としては、物事を簡単に考える風潮がやまないかぎり、投資においても簡単に考えてしまう人が増えるのではないかと危惧していますが、今後、広がる金融教育のなかで、このような傾向がどこまで改善されていくか多少なりとも期待はしています。
出典
TradingView Inc. TradingView
執筆者:重定賢治
ファイナンシャル・プランナー(CFP)