更新日: 2019.01.10 その他資産運用
かつての学歴社会と現代の能力社会の違いから紐解く。資産運用とこどもの教育費マネジメントの共通点
親であれば誰もが願うことです。ただ親世代が学生の時は、進むべき道は1本。これに対して今は、さまざまな選択肢があるだけに、かえって教育にかかる経済的支援は親のみ極め力が必要になってきました。
Text:柴沼直美(しばぬま なおみ)
CFP(R)認定者
大学を卒業後、保険営業に従事したのち渡米。MBAを修得後、外資系金融機関にて企業分析・運用に従事。出産・介護を機に現職。3人の子育てから教育費の捻出・方法・留学まで助言経験豊富。老後問題では、成年後見人・介護施設選び・相続発生時の手続きについてもアドバイス経験多数。現在は、FP業務と教育機関での講師業を行う。2017年6月より2018年5月まで日本FP協会広報スタッフ
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目次
競争も激しかったが、方法も1つだった昔
かつて終身雇用・年功序列が当たり前だった時代は、偏差値の高い学校に入って無事卒業すれば、大企業で安定した職業に就くことがほぼ約束されるため、「偏差値の高い学校に入ること=人生のゴール」でした。
したがって、投資もしやすく、目に見えやすい「偏差値」という目標に向かって子どもの現状の実力との乖離幅を埋めるように投資をすればよかったのですから、教育費の目安も立てやすかったといえるでしょう。子どもの偏差値が50で目標とする学校の偏差値が60であれば、その10を埋めるべく、塾で勉強すればよかったのです。
塾の指導員から、どういう講座を何時間受講すればよいとアドバイスされ、その金額を支払って子どもを送迎し、勉強に集中できる環境を整えれば、完璧とはいわないまでも、その差を埋めることができたのです。
これは定型化された合理的なプロセスだったので、そのプロセスに沿っていけば将来不安のない生活が待っている、というのが今の受験生の親世代の教育事業でした。
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選択肢が多様化し、定型プロセスがなくなった今
現在は従来の定型のキャリアパスが完全に崩壊しています。グローバル化に伴い、さまざまな価値観で教育を受けた同世代と横比較をされるのかと思いきや、若くして起業し柔軟な思考で新しい市場を開拓する能力を備えた人材が次々と登場し、下克上、どんでん返しは当たり前になりました。
ここに入社すれば一生不安なく生活できると思っていた会社はM&Aにより入社当初とは全く違った企業になり、思い描いていたキャリアパスは根底から覆されることも珍しくなくなりました。
このように社会環境が激変しているにもかかわらず、従来通りの教育像から抜けきれない保護者も数多く見受けられます。
他方、子どもは「今」を生きていますから、親の価値観を受け入れるのは難しく、故に親が受けてきた教育の枠にムリヤリはめられたままでいるか、衝突した結果現在の学校生活をも危うくしてしまうか、というお互いに「こんなはずじゃなかった」という状況を消化しきれず、ニートや引きこもりに至ってしまうケースも増えています。
長期的な時間軸で客観的に方向性を見極めつつ、普遍的なソーシャルスキル・メンタルスキルを身につけさせる
ではどうするか? ですが、これはまさに資産運用と同じです。長期的なゴールを見極めそこにたどりつくために、どのような支援をすべきかを調べ、家計運営に支障がこないように情報収集しながら最適な教育資金プランを作っていきます。
わが子に対する教育となるとどうしても目先の結果や感情に目を奪われてしまいがちですが、投資と同じです。センセーショナルに目立つ華やかなところや「将来の安定」という実態のない根拠をよりどころにするのではなく、長期的な時間軸で考えましょう。
例えば、そのゴールがプロのスポーツ選手だったとすれば、「○○の大会でこのくらいの結果を残せるように」といった近視眼的な見方でやみくもに資金をつぎ込むと「大会で優勝すること」がゴールになってしまいます。
現役を引退した後のことも視野に入れれば、社会の動きにマッチして自分の適性やスキルを成長分野で発揮できるような柔軟性を身につけさせることが必要です。財団や公的資金支援が受けられるか、その要件は何かということもチェックし、必要条件を満たして、手が届きそうであれば、子どもに支援内容や条件を説明してみましょう。
親が思うよりも理解してくれるものです。さらに子ども自身のモチベーションアップにもつながりますし、社会が当該スポーツ種目に対してどのように観ているのかという動きを把握する力も養われます。
最終的な決断は子どもの自主性に委ねるところが投資との最大の違い
投資との最大の違いは、間接投資であることです。投資の場合は自分が意思決定をしたら自分の資金をどこにどれだけつぎ込むかはすべて自分が見極め、結果も自分に帰属します。
これに対して子どもへの教育支援の結果は親自身ではなく子どもに返ってくること、そしてその投資が成功か失敗かの結果は何十年もたたないとわからないこと、数字では測れないことです。
「それでは食べていけないから」とこちらが昔の価値観を当てはめて従来の定型化したレールに誘導しても、「子ども自らの意思で決断したこと」ではないため、時間差をおいて徐々に問題が発生・深刻化してしまいます。
割り切りと覚悟が必要とはいえ、社会の動きをキャッチしタイムリーにスキルを発揮する柔軟性を身につけさせる必要性については意識しておくことが求められるでしょう。
Text:柴沼 直美(しばぬま なおみ)
1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP(R)認定者