更新日: 2023.09.27 その他資産運用
投資の「はじめの一歩」に個人向け国債は本当に向いている?
その選択肢の一つとして、個人向け国債があります。最低購入金額が1万円からと小さく、元本割れリスクも少ないため、比較的安心して始めることができます。しかし、すべての人にとって個人向け国債がはじめの一歩に最適なわけではありません。本記事を通じてどんな方に向いているかを考えてみます。
執筆者:酒井 乙(さかい きのと)
CFP認定者、米国公認会計士、MBA、米国Institute of Divorce FinancialAnalyst会員。
長期に渡り離婚問題に苦しんだ経験から、財産に関する問題は、感情に惑わされず冷静な判断が必要なことを実感。
人生の転機にある方へのサービス開発、提供を行うため、Z FinancialandAssociatesを設立。
個人向け国債の特徴とメリット
個人向け国債とは、国(政府)が社会保障や公共事業などの資金を調達するために発行する「国債」を、個人の方でも購入できるように工夫された債券のことです。その名のとおり、購入できるのは個人であり、法人や社団(例えばマンション組合など)は購入できません。
個人向け国債には、大きく分けて3つの魅力があります。
1つ目は、金利タイプを選べることです。
2023年9月現在、個人向け国債には利率と償還までの期間に応じて変動金利10年、固定金利5年、固定金利3年の3つのタイプが用意されています。変動金利タイプは、半年ごとに適用利率が変わりますが、固定金利では満期まで利率が変わりません。
図表1
(財務省「個人向け国債の商品性の比較」(※1)を元に筆者作成)
同じ債券でも事業会社が発行する社債のほとんどが金利タイプを選ぶことができず、かつ固定金利であることを考えると、変動、固定のどちらも選べるというのは、個人向け国債の特徴の一つです。ちなみに、購入者の約8割が変動金利タイプを選んでいます(※2)。
2つ目は元本割れリスクがないことです。
通常、債券を中途換金する場合は金融機関等を通じて売却します。しかし、売却時に長期金利が上昇していると、債券の価格は下落するため、売却額が投資した金額以下になってしまう(=元本割れ)恐れがあります。
しかし、個人向け国債では、中途解約時に元本を全額投資家へ戻すことを国が約束しています。つまり、中途解約しても投資額は100%戻ってきます(ただし、直近2回分の利子相当額が中途換金額から差し引かれます)。
3つ目は発行体の信用力です。
通常、債券は満期になると投資した元本が戻ってきます。しかし、債券の発行体が倒産した場合、投資額の一部または全部が戻らないリスクがあります。国債の場合、発行体は日本国であり、その恐れが社債等と比べて極めて低いといえるため、安心して投資できます。
なお、財務省の調査によると、投資家が個人向け国債を選んだ最も大きな理由として、「国が発行しているので安心だから」(約59%)を挙げています(※2)。
その他、1万円から購入できる、最低金利(0.05%)が保証されている、毎月発行で多くの金融機関で扱っているなど、個人の方が買いやすいさまざまな特徴を備えています。
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個人向け国債のデメリット
一方、個人向け国債のデメリットとして、例えば次のものがあります。
1.金利が比較的低い
せっかく投資するのであれば、ある程度のリターンがほしいと考えるのは普通のことです。しかし、債券のなかでも個人向け国債の金利は最も低い部類に入ります。
2023年9月現在、個人向け国債の金利の基準となる長期金利が上昇傾向にあり、適用金利は上向いてきたとはいえ、9月発行の固定3年の利率は最低保証金利の年0.05%、固定5年の利率は年0.14%、変動10年物の初回利率は年0.39%です(※3)。
もし100万円を同国債に投資した場合、償還までの税引後収益合計は固定5年で5600円。変動10年で利率が変わらないと仮定すると、以下の計算により3万1200円です。
固定5年の収益:100万円×0.14%×5年×(1-税率20%)=5600円
変動10年の収益:100万円×0.39%×10年×(1-税率20%)=3万1200円
もう少しリターンを求める方にとっては、物足りないといえるかもしれません(事実、財務省「令和4年度 国債広告の効果測定に関する調査委託業務」によると、個人向け国債に対する不満として「金利が低い」が最も高い(86.2%)回答数が多いとの調査結果があります(※4))。
2.インターネットで購入できる金融機関が限られている
忙しい方にとっては、個人向け国債の購入手続きはできるだけ金融機関への来店ではなく、スマホやパソコンを使ってインターネットから済ませたいものです。
しかし、2023年8月現在、個人向け国債を扱う金融機関(全国で923)のうち(※5)、インターネットで購入できる金融機関は26です(※6)。割合にして3%未満に限られており、ネットの取り扱いがない金融機関での申し込みには、どうしても平日の営業時間内での来店が必要になり、不便を感じることが多いでしょう。
3.購入時の手続きが煩雑
申し込む金融機関で初めて債券取引を行う場合、金融機関に債券口座の開設が必要になります。そのために必要な各種書類への記入や押印など、事務手続きが煩雑で時間がかかることがあります(個人向け国債を実際に保有している筆者も体験済み)。
なお、個人向け国債を販売する販売担当者にとっては、同国債は(投資信託など他の商品と比べて)手数料などの面から魅力に乏しいうえに、販売手続きが煩雑であることから、あまり積極的に販売していない、という声もあります(※7)。
はじめの一歩を選ぶためのポイント
それでは、ここまで述べた個人向け国債のメリット、デメリットを踏まえて、同国債は投資の「はじめの一歩」に向いているのかを考えてみたいと思います。
投資の「はじめの一歩」を選ぶに当たり大切なポイントはさまざまですが、ここでは以下の4つのポイント((一社)全国銀行協会「教えて!くらしと銀行」を参考)に絞って考えてみたいと思います。
1. 少額投資ができるか
2. 積み立て投資ができるか
3. 投資にかかるコストがかからない、または割安か
4. 気軽に買えるか
これらを個人向け国債で当てはめてみると、1,3,4は〇、2は×となります。1万円から始められ、手数料もかからず、全国1000近くの金融機関で購入できる利便性は、初心者が踏み出しやすいポイントです。一方、毎月一定額を自動で積み立てることができないため、初心者にとっては1回買って終わりになってしまうかもしれません。
また、前述のとおりインターネットで購入できる金融機関が少ない、来店時の事務手続きが煩雑になる点は、初心者がはじめの一歩を踏み出すにはマイナスといえそうです。
以上を踏まえると、個人向け国債は投資のはじめの一歩に最適、とまではいえませんが、候補として検討する価値はありそうです。比較対象としては、信用力の高い社債や、iDeCoかつみたてNISAを利用した他の金融商品が考えられるでしょう。
「はじめの一歩」を踏み出した後に購入するのも手
最後に、筆者の個人的な見解に基づくおすすめをご紹介します。
それは、個人向け国債を「はじめの一歩」を踏み出した後に購入することです。例えば、NISAを使って投資信託を購入し、その後、安全資産として個人向け国債を購入するのです。
そうすることで、まずは投資への第一歩を踏み出すという心理的なハードルを踏み越えることができ、なおかつ元本割れしない資産もある、という安心感を得ることで自信をつけ、長期の資産形成に向けたポートフォリオ作りの第一歩を踏み出すことができます。
ただし、投資の「はじめの一歩」に正解はありません。始める際は、自身または投資の専門家を交えた入念なリサーチのうえ、ご自身の責任において商品を選択してください。
出典
(※1)財務省 個人向け国債・新窓販国債の商品性の比較
(※2)財務省 教えてコクサイ先生 購入者の声
(※3)財務省 国債等関係諸資料 発行に関するもの 個人向け国債の発行額の推移
(※4)財務省 令和 4 年度 国債広告の効果測定に関する調査委託業務 P75
(※5)財務省 全ての取扱金融機関一覧
(※6)財務省 インターネットによる購入が可能な取扱金融機関
(※7)財務省 令和 4 年度 国債広告の効果測定に関する調査委託業務 P35
執筆者:酒井 乙
CFP認定者、米国公認会計士、MBA、米国Institute of Divorce FinancialAnalyst会員。